責務
見殺しにする‥‥‥?
この世界の人たちを?わたしが?
喉の奥が、ひゅうっと鳴った。
「な、なんでそうなるの‥‥‥」
「え?だってそうじゃん?助けられるのは自分しかいないって知ってる上で、助けようとしないんだもん。それって見殺しにしてるのとなにが違うわけ?」
キョトンとした表情で問い詰めてくるレミに、わたしはなんとか反論しようと口を開くが、この状況から逃げるに値するような、逃げるという行為を正当化できるような言い訳は見つからず、ただ口をぱくぱくさせるだけで、わたしの口から言葉が出ることはなかった。
想像すると、あまりにも恐ろしかったから。
この世界の人たちが死んでしまうことはもちろんだけど、それ以上に、このままなにもせず災害を迎え、なぜ聖女としての務めを果たさなかったのかと周りに責められて、罪悪感に押しつぶされて、ごめんなさいごめんなさいと1人嘆いている自分を想像してしまった。
生き地獄にも程がある。
「本当に、貴族街へ行けば聖女の力をちゃんと使えるようになるの?わたし、魔術1ミリも使えたことないよ」
「もち!聖女には聖女の訓練方法があるの。平民は知らない、特別なね。まーレミは聖女じゃないからその訓練ってどんなのかは知らないんだけどね。でも、これだけは保証する。これから頑張れば、まだぜーんぜん間に合う!もっかい言うよ、レミと一緒に来て」
‥‥‥っていうかわたし、最低だ。
この世界の皆んなを助けたいから聖女としての責務を果たしたいわけじゃなく、ただ罪悪感を抱くのが怖い、周りに責められるのが怖いから、結局自分のために、レミの手を取ろうとしている。
聖女が、こんな荒んだ性格の女で良いのだろうか。
根っから素直で純粋で、自分を犠牲にしてでも人のために尽くすような子が聖女になるイメージなんだけど‥‥‥絶対聖女の力与える相手間違えただろ。
わたしはそんなことを考えながら、レミの手を握って項垂れた。
「やるよお‥‥‥やればいいんでしょ‥‥‥」
「ありがと咲久ぴょん、あんたなら話せばわかってくれるって、レミ信じてた〜!」
「うおあああ何?!」
先ほどまで脅してきてた相手に唐突に抱きしめられ、「ぴょん」とかいう謎の語尾が名前に付き、声のトーンも2つくらい上がって、さらに打って変わって別人のように眩しい笑顔を向けてくるレミに、ひたすら恐怖を覚える。
律もだけど、どいつもこいつも二重人格すぎない?!
「でも!だけど!条件がある!それ聞いてくれたら大人しく着いて行くから!」
わたしはレミを自分から引き剥がそうと抵抗しながら、そう言った。
レミの顔から再び笑顔が消える。
もう本当に怖いなんなのこの子表情筋のコントロールがプロすぎる。
「ふーん何?言ってみて」
「律を置いて、わたしだけ勝手に貴族街に行くことはできないので、せめて律の帰りを待って話しをさせてくれないかな?じゃないとあの子、本当に何しでかすかわからないというか‥‥‥貴族街に殴り込みに来るかもしれなくてー」
「あっははははは!」
「あ、あのこれ結構ガチで、笑い事じゃなくて」
「いやううん、まあそうなればいいなっていうか、それが狙いなまであるからいーし」
訳がわからないという顔をしているわたしに、レミは続けて言った。
「そもそも、聖女どうこう関わらず、転移者は全員貴族街にいないといけないんだよねー。だから、ふたりとも連れて帰んなきゃいけないわけ。でも、律って子がいると何言っても貴族街きてくれなさそうだし、怒ったらめんどくさそうだから、咲久ぴょんが1人でいるとこ狙ったんだもん。で、その隙に咲久ぴょんのことさらって貴族街行ったら、絶対律は追っかけて貴族街来るでしょ?きてもらえればもうこっちのもん!どうとでもできるからね。咲久ぴょんを餌にして律ちんも誘い出す、ね?レミてんさーい」
‥‥‥どうなっても知らないからな。
律の怖さをまだ知らないレミへ、わたしは心の中でそう言った。
お読みくださりありがとうございます。
レミの、「律は面倒くさそう」という言葉のうらに、「咲久はチョロそう」が隠れていたことに、咲久は気がついていません。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!




