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王立魔導機管理取締部第七小隊〜落ちこぼれ貴族が辺境の吹き溜まりで魔導鎧を駆る〜  作者: 武内陣


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第二章「ヴァルタの日常」(2)

 三日目からはファリス指揮者とのツーマンセル訓練が始まった。

 一番機に乗り格納庫からゆっくり歩いて中庭に出れたのは昼過ぎだった。

「指揮者は乗り手の目の代わりです」と制服姿のファリス指揮者の声が操縦室に響く。

 最新の魔導無線機のおかげで地上にいる指揮者の声が操縦席にリアルタイムで届く。

 ファリスは魔道具を身につけた指揮馬に乗ったまま少し離れた場所から事務的に話す。

「魔導機は視野が狭いです。通常は正面しか見えません。魔力消費を抑えるために後ろと横は私が見ます。

 なので私の指示が来たら、考える前に動いてください。考えてからじゃ遅くなるます」

「分かりました」

「ちなみに方向は右か左かで言いいます。北とか南とかは使わないです。わかりましたか?」

「わかりました」

「じゃあやってみましょう。こっちに向けて、まっすぐ歩いて」

 レンが一番機を歩かせる。慎重に、慎重に、魔力の流し方を意識しながら。

「右」

 レンが右に曲がる。少し遅れた。

「もっと早く。右」

 早く動かそうとして、体の動きが大きくなりすぎて反動で機体が左に傾むく。

「……右と左、ちゃんと分かってますか」

「それくらいは分かってます!」

「じゃあ今のはなんですか。右と言ったら右への一歩です。左に寄れない!」

 こういう調子で、訓練は続いた。ファリス指揮者の指示は正確だったが、容赦もなかった。「本当に貴族学園出てるんですか」は三回ほど言われた。


 一週間後、魔導鎧の乗り方にも慣れた頃、二番機の乗り手のバッハとの模擬戦が行われた。

 砦中の中庭に一番機と二番機が向き合っている。二番機の方は見た目無骨だが少し小さい。砲撃型の機体なのに、バッハは最初から格闘の間合いで立っていた。

「加減はしないからな後輩!」

 バッハの声が無線ではなく直接飛んできた。声がでかい。

「……お願いします」

 開始の合図と同時に、二番機が来た。

 速い。砲撃型の機体とは思えない踏み込みで、正面から体当たりを仕掛けてくる。レンが咄嗟に右にかわそうとして、

「左!」というファリスの声が来て慌てて機体を左に倒した。かわしきれなかったが、直撃は避けた。

「さっきのは左に躱したほうが早いでしょうが!」と指揮者のファリスが続けた。

「自分の判断で右に躱そうとしました。すいません」

 二番機がまた迫ってくる。今度は横から。レンが踏ん張って受ける。一番機の装甲が金属音を立てた。

「押し返して! 力は足りてるはずです!」ファリスから檄が飛ぶ。

 魔力を上げる。一番機の腕が動く。二番機を少し押し返した。バッハ乗り手が「おっ」という声を上げた。少し驚いた声だった。

 二番機の指揮者であるセナはなにも指示せず馬にのってただ戦況を見ている。

 そのままバッハの二番機が押し返してくる。

 レンは引かなかった。

 互いに両手を合わせて力比べの形になった。

 レンにとっては初めての戦い。二番機の重さが腕越しに伝わってくる。ずっしりとした、本物の質量だ。それでも退くのが嫌だった。

 退いたら終わりな気がした。魔力をさらに上げる。オーグ整備主任に「魔力の流し方が雑なうちは機体を傷める」と言われていたのを忘れていた。

 一番機が二番機を、少しずつ、少しずつ押し始める。

「……おい」とバッハの声が変わった。「なんだ、お前、この出力は……!」

 押し勝てる。そう思った瞬間だった。

 一番機の左膝から、異音がした。

 金属が歪む音。それと同時に脚部の制御が乱れた。踏ん張りが利かなくなる。バランスが崩れる。

 二番機の指揮者のセナはそこで初めて指示を出す「バッハさん、左膝です」

 バッハの二番機はその一瞬の隙を逃さなかった。踏ん張りが効かなくなった左足を右足で払うと一番機は横倒しになった。地面が揺れた。

 沈黙。

「……生きてるか?」とバッハの声。

「生きてます」とレンは答えた。小さな覗き穴から空が見えた。

 格納庫の方からオーグ整備主任の舌打ちが聞こえた気がした。


 模擬戦が終わった後、一番機を格納庫に戻すと、オーグ整備主任が膝の継ぎ目を確認した。レンは操縦室から出て階段の上からその作業を黙って見ていた。

 なかなか階段を下りられなかったが、しばらくして意を決して下りた。いつの間にかオーグ整備主任とリアーノ整備士が一緒に継ぎ目を覗き込んでいた。

「見ろ」とオーグが言った。声が低かった。「継ぎ目の内側、素材が負けてる」

「……あの押し合い、最後の魔力量のせいですかね」真剣な顔でリアーノが尋ねる。

「そうだ。今の機体は前任者のに合わせてあったせいであいつの魔力に耐えられなかったようだな」オーグが立ち上がって、格納庫の天井を見上げた。

「調整しないとな。あの魔力に耐え得るように、この一番機を」

 レンには聞こえていた。聞こえていたが、オーグはレンに向かって言ったわけではなかった。リアーノだけに向けて、ぼそっと告げていた。

 リアーノが「部品、何が要りますか」と手帳を出した。

「継ぎ目の補強材と、魔力回路の—―――」オーグ整備主任が細かい部品名を並べ始めた。レンには分からない名称ばかりだったが、

 リアーノが全部書き取っていた。「街の鍛冶屋じゃ無理だな。ヴァルタの北の方に魔道具の部品屋があるはずだ。そこで確認してこい」

「分かりました」とリアーノは答えてから振り返ってレンの方を見た。

 怒られるのかと覚悟したがリアーノは「あなた、明後日非番でしょ」

 レンはなにを言われたのか一瞬わからなかったがしばらくしてから理解して「……はい」と答えた

「一緒に来てくれないかな。部品、重いんで」と笑顔で言う。

「別にいいですけど怒らないんですか?」とレンは恐る恐る尋ねる。リアーノは目を見て答える「そりゃあんな無茶なことやられたら腹は立つよ。

 でも模擬戦とは言え乗り手はそれが仕事。私たちは直すのが仕事、いちいち怒ってられないよ」

 横にいたオーグもレンの方を向いて「それにこんな状態の機体に乗せたのはこっちの責任だ。申し訳ねえ」と頭を下げた

 そんなことありませんと慌てて否定をしつつ、レンはこのふたりから整備士としての誇りと信念を感じた取った。



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