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王立魔導機管理取締部第七小隊〜落ちこぼれ貴族が辺境の吹き溜まりで魔導鎧を駆る〜  作者: 武内陣


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第八章「黒い機体」(1)

 その日の午前中、第七小隊は北東の山道沿いにある集落付近の定期巡回に出ていた。出動と呼べるほどのものではなく、月に一度の顔見せのようなものだ。

 魔導鎧を動かす必要もないため、一番機と二番機は魔導運搬車の荷台に固定したまま、乗り手のふたりはそれぞれの魔導運搬車に同乗していた。

 山道は狭く、両側を木々が覆っていて木漏れ日が地面に斑模様を作っていた。

 先頭をドルクが運転する魔導運搬車が走り、後ろをカインたちが続く。ファリスとセナが馬で随伴していた。

 レンは助手席でぼんやりと窓の外を見ながら「隊長たちは来なくてよかったんですか?」運転しているカインが答える「定期巡回だし俺達だけで大丈夫ですよ」

 無線で聞いていたファリスが「ぼーっとしてないで周りよく観察して、もしここで動くとなったこうするとかってイメージしてください」

 「こんなにのどかな場所でそんなイメージしにくいですよ」ふあ~っと欠伸をしながら答えるとカインが「そんな返事すると怒られますよ」 

 ファリスが無線で答える「怒りませんよ。確かに今日は本当に静かでいい天気ですね」

 そういうやりとりをしながら、カーブを曲がった瞬間だった。


 カインが急ブレーキを踏んだ。先行していたドルクが急ブレーキをかけ止まっていたからだ。

 レンが前のめりになって、助手席から前を見た。

 道の真ん中に、音もさせずにそれが立っていた。

 大きい。一番機よりやや大きい。色は黒く形状も一番機や二番機と違う。もっと直線的で無駄のない形をしていた。

 胸部から肩にかけての装甲が厚く、腕の構造が根本的に異なってるかのように先端部分が、何か機構が組み込まれているかのように太い。

 これほどの大きさの機体が道の真ん中に立っているのに、足音も機械音も何もない。空気が止まったような静けさの中に、その黒い塊だけが存在していた。

「レン、急いで起動させて!」とファリスが叫ぶように指示を出す。

 レンがドアを蹴り開けた。荷台に走る。一番機のハッチに手をかける。バッハも同様に反対側で二番機に取りかかっていた。

 しかし遅かった。


 黒い機体の右腕がこちら向いた。

 腕の先端部分が変形する、というよりは展開した。内側から金属の筒のような構造が現れて――――光が走った。

 音も無く雷のような閃光が、二番機に向かってまっすぐ伸びた。

 バッハが声にならない声を叫んで飛び退いた。光は二番機の右肩部分に当たり、装甲を焦がして機体を揺らし一部が砕けて飛び散った。

「バッハさん!」とセナが叫んだ。

「生きてる!」荷台から転がり落ちたがバッハは怪我もなく立ち上がった。

 黒い機体の腕が、今度は一番機の方を向いた。

 バッハが叫んだ。「当てさせるか!」

 二番機を起動してる時間はない。しかし砕けた装甲の破片が偶然にもバッハの目の前落ちていた。バッハがその破片を持ち上げ叫ぶ。

「こっちだ、でかいの!」

 バッハは持ち前の怪力で破片を黒い機体の右腕にぶつける。

 その衝撃で黒い機体の閃光は空に放たれた。

 バッハはその閃光の衝撃波で弾き飛ばされ転がり脇の木に激突する。

「バッハさん!」とセナが馬から飛び降り駆けつける。

 レンはその間に一番機のハッチを開けていた。乗り込む。ハーネスを締める。グローブを嵌める。手が震えていた。

 魔力を流す。機体が応える。しかし起動には時間がかかる。

「急いでください!」とファリスが無線で叫んだ。

「分かってます!」

 黒い機体が一番機の方向を見る。

 来る――――とレンは身構える

 が、そのとき。

 黒い機体の足元から、白い煙が噴き出した。

 機体の覗き窓が白く塗りつぶされ視界が消えた。ファリスも何も見えなく指示が出せない。

 レンは機体との視覚同調を使おうとしたが、魔力を注ぎ集中できる状況でもなかった。

「どこだ!」とレンとファリスが叫んだ。

 煙が少しずつ晴れてきた。

 道の真ん中にはなにもなくなっていた。

 木々の間に、黒い後ろ姿が一瞬だけ見えたような気がした。音は最後までしなかった。


 しばらく全員が動けなかった。

 セナがバッハのそばに膝をついていた「大丈夫ですか」

「肋骨が数本いってるかもしれん」とバッハが言った。草むらに転がったまま、天を見上げている。「でも動ける。それよりも―――」

 二番機を見た。

 魔導運搬車の脇に寄りかかるように倒れていた。当然右腕は無い。

「……二番機」とバッハが呟いた。

「動きますかね」とファリスが二番機を見ながら言った。

「無理だな、この損傷じゃ」とバッハが答えた。

 ファリスがレンに無線で連絡する「二番機が動かせそうにないので、運搬車に乗せてあげてください」

 レンが一番機で二番機を魔導運搬車に乗せ固定して、自らも別の魔導運搬車の乗せる。

 作業を終えたレンが操縦席から降りたが膝の力が少し抜けていてまともに歩けず、木の幹に手をついて、呼吸を整えた。

「お前は大丈夫か」とバッハが草むらから言った。

「大丈夫です。バッハさんが守ってくれたから」

「そんなかっこいいもんじゃない。こういう時のための筋肉だ」

 レンはしばらく、黒い機体が消えた方向を見ていた。

「なぜ逃げたんでしょう」と声に出して言った。

「あの機体の実力なら、自分たちは全部やれたはず。二番機は起動していなかったし一番機も起動途中だった。

 あの光の攻撃を一番機に当てられていたら―――それなのに、煙幕を張って逃げた」

 誰も答えなかった。

「私たちを殺すつもりがなかったのか、それとも他の理由があるのか」

 ファリスが馬から降りて、道の真ん中に立った。黒い機体が立っていた場所を見ながら言う。

「足跡がない」とファリスが言った。

「え?」

「あれだけの大きさの機体があったのに、地面にほとんど跡がない。消音だけじゃなく重量の分散も、相当高度な技術が使われている」

「幽霊……」レンはそう呟いた。

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