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王立魔導機管理取締部第七小隊〜落ちこぼれ貴族が辺境の吹き溜まりで魔導鎧を駆る〜  作者: 武内陣


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第七章「静かに動く男」(2)

 いつものように中庭で二機が向き合う。しかしいつもの訓練とは違う緊張感が漂っている。

 レンの乗った一番機とバッハが乗った二番機が、互いに五メートルほどの間合いで静止している。午後の日差しが、二体の装甲に斜めに当たっていた。

 中庭の端に、古い石造りの櫓がある。見張り台として使われていた名残で、高さは四メートルほど。

 普段は物置になっているが、今日はそこにファリスとリアーノが並んで立っていた。

 いつものように馬を使って地上から指揮するのはリアーノには無理なため、同じ条件にする緊急措置でだった。

 二人とも通信機を持って互いに最終確認をしている。


 リアーノの通信機から漏れるほどの大きいな声でバッハが叫ぶ。「さっさと始めようぜ! 立ってるだけで日が暮れる!」

 ファリスが無線を口元に近づけた。「レン、聞こえてますか」

「聞こえてます」

「今日のことを確認しますが。あなたは相手の魔力の流れを感じることに集中してみて下さい。動きは私が伝えます」

「お願いします」


 開始の合図はバッハが勝手に出し二番機が動いた。

 直線。迷いのない直進。バッハの攻撃はいつもそうだった。考える前に体が動く。理屈より本能で動く。その速さと質量は、訓練の中でレンが一番苦手としていた。

 ファリスが見た。二番機の左腕が後ろに引かれが右足が地面をグッと踏み込んだ。右足に重心が移っている。拳が左から来る――――!

「右に退いて!」

 レンは声に反応して動こうとしたが遅れた。

 魔力の流れを感じようとして意識が内側に向いていて、ファリスの声が聞こえた時に、すでに二番機は想定より半歩近かった。

 二番機の左拳が一番機の右側面に当たった。

 鈍い金属音が中庭に響いた。一番機が横に二歩よろめいた。踏みとどまる。倒れはしなかったが直撃を食らってしまった。

「くっ―――!」

「レン、次が来る、止まらないで」とファリスの声が来た。落ち着いている。「これは訓練なの。失敗してもいいから、私の指示を信じて。

 あなたは魔力の流れを感じることだけに集中して」

「でも」

「外は私が見てる。あなたは中だけ見て」

「はい!」

 もう一度。

 バッハは次に二番機の右足を前に踏み込む。

 ファリスが見た。右足の角度、腰の向き、腕の位置――――今度は右からの突き上げだ。

「右に出て、体を左にひねって―――今!」

 指示が出る前にレンはバッハの微妙な魔力の流れの変化を感じて右からの攻撃に備えていた。

 なので声と同時に動けた。右に出ながら体をひねる。二番機の腕が空を切った。

「そう! それでいい!」

 リアーノが櫓の上で「あ、凄い。あんな動き出来るんだ」と呟いた。


 一方、二番機側は混沌としていた。

 バッハが直線の攻撃を繰り返す。拳を入れ体当たりを繰り返す。指示を出す間がない。

「バッハさん、少し―――」とリアーノが無線で言いかけた。

「はっはっはっ! どうしたレン! まだまだあんだろ!」

「バッハさん!」

 二番機がまた突っ込んでいく。リアーノが「はあ…」とため息をついた。

 指示を出すより機体の状態を見た方が早い。リアーノは無線を下げて、目で二番機の動きを追い始めた。

 整備士の目で見る。関節の動き、装甲の歪み、出力の変化……

 そこで気がついた。

 バッハの攻撃が、当たらなくなってきている。

 最初の攻撃は当たった。しかしその後、二番機の拳も蹴りも、一番機の装甲をかすりはするものの上手く流されている。いやかわされている。

 途中から一番機の動きが変わっていた。待って受けるのではなく、二番機が動くと同時に動いている。

「もしかして、これが先手を取るって言ってたこと……」

 リアーノが無線でバッハに告げる

「バッハさん! 危ないです、一旦離れてください!一番機の動きがおかしいです!」

「あ? 今いいとこだぞ——」

「一旦距離を取ってください!」

 バッハが「うるさいな」と言いながらも半歩引こうとしたその瞬間だった。


 防戦一方だった一番機が先に動いた。

 二番機のバッハが引こうと思考し、その行動をするために二番機に流れる魔力の流れが変わり、重心を後ろに移すために変化する一瞬をレンが感じた。

 ファリスも僅かな重心移動を察知し叫ぶ「前!」

 一番機が左足を踏み込んで体を回した。遠心力を使った右腕の払い。二番機の頭部に向けて、拳が伸びた。

「バカヤロー!! なにやってやがる!!」

 格納庫の方からオーグ整備主任の怒鳴り声が飛んできた。

 拳は二番機の頭部、数センチ手前で止まっていた。


 中庭が静かになった。

 レンが一番機のコックピットから出てきた。膝が少し震えていた。ファリスとリアーノが櫓から降りてきた。バッハは二番機から出てきて頭をかいている。

 オーグ整備主任が腕を組んで中庭の真ん中に立っていた。

「何をしていた」

「訓練です」とファリスが答えた。

「セナがいない状態でどつき合いか?あのまま顔面にいってたら部品交換だけじゃ済まないだろうが!」

「ちゃんとした指揮者がいれば直撃は避けられただろうに」とリアーノの頭を軽く小突く。リアーノは心底申し訳ないという顔をしている。

「バックアップ要員を作っておきたかったのは本当です、リアーノは悪くありません」とファリスが弁明する

「それはもちろん大事だがその件については隊長が判断することだ。問題提起したいのなら隊長のように手順を踏まえろ」

 全員が黙った。

 オーグ整備主任が二番機に近づき装甲を確認した。それから一番機に近づいて手で触れて、少し考えた。

「一番機の肩に衝撃の痕がある。二番機は見たところ問題ない」

 それだけ言って、また格納庫に向かい入口のところで振り返った。

「ぼさっとしてねえで二機とも早く格納庫に戻せ!」


 バッハがレンの肩を叩いた。

「最後のあれ、お前がやったのか」

「……はい」

「私が引く前に来たな。」

「先手を取れたのは最後の一回だけです」

「最初から全部できたら訓練じゃないだろ。単調な攻撃したからコツは掴めただろ」とバッハが言った。

「もしかして訓練のためにわざと?」レンが驚いて聞くと「知らねーよ」と言い「風呂行くけど覗くなよ」と去っていった

「覗きませんよ」と笑いながら感謝の思いを込めたツッコミで返す


 ファリスが横に並ぶように来た。

「最後のは一致してましたね」と静かに言った。

「ファリスさんが指示を出す前に動いてしまいましたが」

「通信機は少し時間差が出るから私の声が届く前にあなたが先に感じた」

「これが自分が今日やりたかったことだったんですかね」とレンが言った。

「そうでしょ」

 二人が少しだけ笑いあった。そこにリアーノが割り込んできた。「ところでデートの件は」

「引き分けですから無しです」とファリスが即答し続ける。

「勝敗なし。また今度。次はセナさんが戻ってから正式に」

 リアーノが「それじゃあ私関係ないじゃん」と残念がる

 オーグ整備主任の声がする「リアーノ!どこ行った!整備は終わってねえぞ!」

 リアーノは慌てて格納庫へ向かって行った。

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