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王立魔導機管理取締部第七小隊〜落ちこぼれ貴族が辺境の吹き溜まりで魔導鎧を駆る〜  作者: 武内陣


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第七章「静かに動く男」(1)

 ファリスを問いただそうとしてから五日が経った。

 砦の朝は早い。

 夜明け前から格納庫に明かりがついていて、リアーノが一番機のルーティン点検をしている。レンが出てきてもいつも通り「おはよう」の一言だけで作業を続ける。

 それがこの砦の朝の始まりだった。

「今日は何を見てるんだ?」とレンが聞いた。

「主に全体の関節と部分だよ。いつ出動があっても問題なく動けるようにね」とリアーノが一番機の足元で言った。

「毎日見てるのにそんなに点検することあるのか」

「毎朝見るから問題ないんだよ、これだから乗るだけの人は」

 レンはその通りだなと思い、自分の浅はかさを反省する。


 レンは格納庫の入口の柱に背中を預けて、一番機を眺めた。朝の薄暗がりの中で、機体が静かに立っている。

「リアーノ」

「何」

「二番機との模擬戦、次は少し違うことをしてみようと思ってるんだ」

「違うことって」

「正面から押し合うんじゃなくて、相手の動きを読んで先手を打つ。ファリスと訓練してるんだけど、実際の模擬戦でやってみたくて」

 リアーノが点検の手を止めて、顔を出した。

「先に動くってことは、予備動作を最小限に抑えないといけないから魔力の流し方が変わって機体への負荷も増えちゃうよ」

「そこが聞きたかった。今の膝で耐えられるか」

 リアーノが少し考えた。工具を持ったまま、一番機の脚部を見る。

「耐えられると思うよ、でも――」

「でも?」

「バッハさんは早いよ。それに毎回パターンが違うから難しいと思うよ」

「確かに早いけどこの巨体を動かすとなれば魔力の微妙な流れの変化、それに機体には必ず予備動作が入る。

 それを瞬時に感じ取ってこっちが予備動作を最小限に抑えれば先手が取れる」

 リアーノがレンを見てこれは何を言っても無駄かなと悟り「……やってみたらいいんじゃないですかね」とぶっきらぼうに答える。

「模擬戦の前に各関節部分を重点的に確認もしますけど壊したら怒りますからね」

「分かってるよ」

「本当に分かってるの?」

「本当に分かってるって」

 リアーノが「怪しいなあ」と呟いた。


 その日の昼食後、レンは午後からの模擬戦についてファリスに先手を取る作戦を伝える。

 ファリスは少し考えてから「面白いわね」と言った。

 レンはファリス相手にこういう事務的な会話は問題なく出来ているが、肝心な事はまだ聞けないでいる。

「面白い作戦ですか?」

「いや違うよ、あなたが自分からこうしたいって事前に言ってくることがですよ」

「ただ私は魔力の流れが感じられないから機体の物理的な予備動作しか見れないわよ。その指示で大丈夫かしら?」

「自分が感じる相手の魔力の流れとファリスさんの指示が一致すればなんの心配もなく動けます」

「一致しなかったら?」「その時は自分の独断で動きます」「それ、難しいわね」

「ですから訓練をして力を付けたいんです。色んな物を守れるように」とレンが言った。

 レンが何を思って急に力を付けたいと思ったのかはわからないが実家の件を追求しないでいてくれることに優しさを感じ

「わかったわ。やってみましょう」とファリスは快諾した


 模擬戦の時間になったが二番機が中庭に現れない

 実は二番機の指揮者であるセナが王都出張で不在だったのである。

 セナが王都に出張したのは数日前のことだった。

 ガルド隊長が「人事交流で王都に行ってきてほしい」と頼まれ「分かりました」とだけ答え行ってしまったのだが、この時まで誰もそれを気にしていなかった。

 セナがいたら確実に「影が薄くてすいません」と言っているだろう。

 セナがいない間、二番機の模擬戦はできない。ということで、戦闘訓練は保留になってしまった。


 格納庫に戻ると案の定バッハが揉めていた「指揮者なんていなくても模擬戦くらいできるだろ!」

 リアーノもなだめるではなく食って掛かる勢いで「それで事故が起きて機体が壊れたらどうすんですか!」

 ファリスが呆れたような表情で「指揮者なしじゃ模擬戦やっても意味ないでしょ」

 バッハは少し落ち着いてきて「それじゃ今、出動がかかったら私はどうすればいいんだよ」

 実際第七小隊は後方要員が存在せずギリギリの布陣でやっている。その件はファリスも問題があると認識していた。


「じゃあ」とバッハが言った。「誰か代わりに指揮者やれば。リアーノ、やれるか」

「私は整備士です」とリアーノが即答した。

「指揮者の代わりに通信機でアドバイスするだけでいいんだよ。機体の状態を横で見ながら。一番この機体をわかってるのはリアーノだろ」

 これは事実であった。元は一番機をメインに整備士していたがここ最近オーグ整備主任に認められ二番機のメンテナンスも任されるようになっていた。

「リアーノが担当してくれてから動きが軽くなったんだよ。オーグさんには内緒だぜ」とバッハがリアーノを持ち上げる。

「そうなんですか。いやあそれほどでも」褒められてまんざらでもないリアーノ。

「まあ整備士の観点から見ることになりますが、それでも問題ないのでしたらお付き合いしますよ」

 リアーノがレンを見た。レンが「どうしますか」と目でファリスに問うと、小さくため息をついて「分かりました。ただし問題が起きたら即中断します」

「よし。じゃあやるか」とバッハが立ち上がったがなにか考え込んでから驚くべき提案をした。

「私とリアーノの二番機、レンとファリス一番機、勝った方が相手にひとつ命令できるって賭けしようぜ」

 ファリスは「素人指揮者で勝てると思ってるんですか?良いでしょう乗りますよ」レンはいつになく乗り気なファリスを見て追従するだけだった

 巻き込まれたリアーノは「じゃあ私らが勝ったらレンとデートがしたい!」と笑顔で宣言する

 驚く一同の中、より驚いたのがレンである「は?デ、デート!?」「だってここに来てからずっと整備服か制服だからたまにはオシャレして街に出たいのよ!」

「この小隊の中じゃレンが一番まともだし」レンはここで断ったら模擬戦が進められず先手を取る訓練もできなくなると考え「それでいいよ」と空返事をする


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