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王立魔導機管理取締部第七小隊〜落ちこぼれ貴族が辺境の吹き溜まりで魔導鎧を駆る〜  作者: 武内陣


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第一章「辺境行き」(2)

 機体の脇には鉄製の階段がある。機体の背面―――首の付け根あたりまで届く高さの足場がある。

 そこから乗り込む設計なのだと、見ただけで分かった。

 レンが中に入り、それに触ろうとすると奥から「触るな!」という声がした。

 その声に驚き立ち止まると、奥の半開きの扉から鉄と油の匂いが漂ってくる。

「触るなと言っている!」

 再び声がした。奥の扉から老人が一人、工具箱を片手にこちらへ向かってくる。白髪混じりの短い頭髪、作業着には無数の油染みがあった。

 七十に近いかと思ったが声も大きく動作は機敏だった。

「触ってないですが……」とレンが言うと、その男性が初めてこちらを見た。

 値踏みするような目だった。レンの全身を一度見渡して、次に手を見たというより、しばらくレンの手だけを見ていた。

「魔力は?」

「……詳しくはわかりませんが高いとの判定は受けています」

「魔法は使えるか」

「使えません」

「ふん」

 男性が視線を機体に戻した。「俺はオーグ。ここの整備主任だ。お前の機体はこっちの一番機。乗り方は自分で覚えろ。今日は触るんじゃねえ!」

「じ、自分はレン・アシュバルといいます 一番機の乗り手です」オーグの迫力に押されて咄嗟に自己紹介をしてしまう。

「魔力の流し方が雑なうちは機体を傷める。いいか、この機体はお前が来る前から俺が手入れしてる。壊したら承知しねえぞ」

「はい」

 オーグ整備主任はそれ以上は話しかけてこなかった。


「師匠を怒らせないでよね」レンは声がする方に振り返ると格納庫の扉の前に小柄な少女が立っていた。

 アイナ副隊長に連れられて歩いてきた少女―――整備着を着た、レンと同い年くらいの少女だ。

 肩まである髪を後ろでひとつにまとめていて、指先は黒くが油やカスがついている。

「噂の一番機の新入り君だよね。私はリアーノ。オーグ師匠の弟子。主に一番機担当だよ」と言って、身長差があるため少し顔を上げてレンをまっすぐ見る。

 レンもつられて挨拶をする。「レン・アシュバルです。よろしくお願いします、リアーノさん」「リアーノさんって、リアーノでいいよ。私もレンって呼ぶからさ」

 人懐っこい笑顔でリアーノが告げる。

「わかったよリアーノ。これからよろしく」「この機体、大事にしてくれるなら文句はないよ。でも雑に扱うなら毎晩うるさくするから覚悟しといて」

「……善処します」「善処?」リアーノ整備士がちょっと笑った。「貴族は言い方が回りくどいね」


 また奥から「おーい新入りが来たって」と大きな声と足音がした。

 現れたのは大柄な女性だった。

 背が高く、肩幅が広い。上はタンクトップで下は動きやすそうなズボン姿だった。アイナ副隊長より頭一つ分大きくて、筋肉質。年齢はおそらく二十代後半。

 短く刈り上げた焦げ茶の髪と、人懐こい大きな目。

「私はバッハ・ルードだ。二番機乗り手。よろしくな後輩!」

 レンは肩を叩かれた。痛い。

「あ、はい、よろしくお願いします、レン・アシュバルです」

「アシュバル? 貴族か。ま、関係ないな。お前が一番機に乗るんだろ。模擬戦やろうぜ、早く」

「バッハ、今日は―――」とアイナ副隊長が嗜めるが、「なら明日でもいい、明日。楽しみにしてるからな」とバッハが続けた。

 その時、バッハの後ろからすっと出てきた人物がいた。三十代前半の男性。地味な制服姿。背は高くないが姿勢がよく、優しそうな目をしている。

「セナ・ドラです。二番機の指揮者をしています。よろしくお願いします」と少し会釈した。声が小さい。

「バッハさんの指揮者さんですか」

「そうです……まあ、この通り色々と大変ですが」

「何か言ったか、セナ」とバッハが振り返る。

「何も言ってないです」とセナが答えた。


 格納庫を後にして、隊長室へとアイナ副隊長が先導し歩いていると、並んで歩いていたファリスが話しかけてくる。

 「この小隊変な人多いでしょ。でもみんな良い人だから逃げようなんて思わないでくださいね」

「逃げるって……」ファリスがあっと言う顔をして「そういえばまだ自己紹介してませんでしたね。私はファリス・テン。一番機の指揮者です。」

「あなたが一番機の指揮者」「そっ!相棒ってこと。だからこれからはちゃんと私の指示に従がってくださいね。わかりましたか、レンさん」手を差し出してくる。

 レンも手を差し出し握手をして「よろしくお願いします」と伝える。気が付くと隊長室の前まで来ていた。


 隊長室は建物の二階、廊下の一番奥。

 アイナ副隊長がドアをノックした。返事がない。もう一度ノックする。しばらくして「開いてますよ」という声がした。

 薄暗い部屋だった。窓のカーテンが半分閉まっていて、昼間なのに薄暗い。机の上に書類の山。椅子の背もたれに上着がかかっている。

 そして、机の横に置かれた長椅子の上に、一人の男性が横になっていた。

 四十歳を過ぎたくらいだろうか。痩せているが無駄のない体つき。髪が少し乱れている。

 目を開けているのかどうか分からないような眠そうな目。

 一応制服は着ているようだが着崩れていて、ひと目では制服とわからなかった。

 口の端に細い薬草の茎ような物を一本咥えていて、それがゆっくり動いた。

「キミがアシュバルの三男坊か」眠そうな声で問いかけられた。

「本日付けで配属になりました、レン・アシュバルといいます。よろしくお願いします」

 レンが敬礼をした。男性は少しだけ目を細めて、動かない。

「隊長のガルドだ。飯は自分で作れますか?」

 予想していなかった言葉だった。「……作れません」とレンは答えた。

 ガルド隊長が少し笑った。

「正直でよろしい。ここは当番制だから早く作れるようになってくださいね。今夜はバッハの担当なので教えてもらってください」

 それだけ言って、目を閉じまた眠りに入った。

 アイナ副隊長は「隊長、もう少しなにか」と言ったが、ガルド隊長はもう返事をしなかった。

 レンとファリスは廊下に戻った。

 ファリスが唐突に「この人が隊長?って思ったでしょ」レンは心を見透かされたような気がして「い、いやそんなことは…」

「中央にいた頃は切れ者だったって噂だけどここにいるってことは、なんかやらかしたんでしょうね」と笑いながらあっけらかんと言い放った。


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