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王立魔導機管理取締部第七小隊〜落ちこぼれ貴族が辺境の吹き溜まりで魔導鎧を駆る〜  作者: 武内陣


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第一章「辺境行き」(1)

 アルデイン王国の王都から辺境の街ヴァルタまで、馬車で二日はかかる。

 貴族学園を卒業した18歳の青年レン・アシュバルが馬車の中にいた。

 学園の制服しか礼服を持ち合わせていなかったので卒業したというのに制服姿だった。

 揺れる荷台の中で、懐から何かを取り出す。

 それは何度見返したのかも分からない辞令書だった。羊皮紙の質は上等だ。

 アシュバル家の秘書官が用意したのだろう。折り目は綺麗だが家紋の封蝋だけが開封するときに雑に割られて少し欠けている。

 

 【王立魔導機管理取締部第七小隊への配属を命ずる】


 それだけだった。赴任先の詳細も、業務内容の説明も、期待の言葉も何もない。あるのは日付と上官の署名、アシュバル家の印章。

 辞令を書いたのは父ではなかった。父の秘書官が淡々と用意して、淡々と渡してきた。父は書斎から出てもこなかった。

 レンは辞令書を折り畳み、再び懐に戻した。

 窓の外では石畳が泥道に変わった。王都の街並みが遠のいて、代わりに広い農地と低い山並みが広がっている。馬車が跳ねるたびに体が浮く。

 座席の革が擦り切れている。二日間、ずっとこれだ。

 家を出たというのに隣の座席にこれといった荷物はなかった。

 

 見送りはなかった。出発の朝、実家の屋敷の前で馬車に乗り込んだとき、玄関に人影はなかった。ふたりの兄たちは学園の寮にいる。

 母は体調が悪いと使用人から聞いた。父は書斎にいる。それがアシュバル家の落ちこぼれ三男に対しての送り出し方だった。

 怒りがあるかと言われれば、よく分からない。ずっとそういう扱いだったから。

 魔法の才能がないと判定された日も、授業で一人だけ魔力を出力できなかった日も、

 同級生の貴族たちに「魔力の器だけはでかい無能」と笑われた日もあった。慣れていた、慣れるしかなかった。怒りより先に諦めが来る身体になっていた。

 ただ貴族学園でこの第七小隊の魔導鎧の乗り手の募集を見つけたとき、少しだけ気持ちが動いた。

 【魔法の才能がなくても構わない。高魔力保持者を歓迎する】

 そう書いてあった。掲示板の隅に、他の告知に半分隠れるようにして貼ってあった。レンは三回繰り返し読んだ。

 そして「これは自分のことを言っているのか」と確認するのに、さらに一日かかった。

 父の秘書官に相談すると「ちょうど良い」と言った。

 その言葉の意味は、もう考えないことにしている。


 ヴァルタの街に着いたのは、二日目の昼過ぎだった。

 思ったより小さな街だった。

 王都の一区画ほどの広さに、農家と商店と民家が混在している。石畳ではなく固めた土の道。路地に鶏が歩いていて、井戸の前で老人が二人話し込んでいる。

 遠くに採掘場らしい煙突が一本だけ空に向かって立っていて、そこだけ薄く煙が上がっていた。

 馬車を降りると、荷物を持ちながらなにかを探してる様子のレンに気づいた馬車の運転手の男性が「どこ行くんだい」と声をかけてきた。

 「魔導機管理取締部の駐屯地を探しているんですが」

 男性がしばらく考えてから「ああ、砦ね。街外れの方だよ」と言って道を指さした。

 レンは礼を言って指された方向へ歩き出した。

 馬車の運転手の男性は少し笑って「あの若さで可哀想に」と呟いた。

 

 砦は確かにあった。

 街外れ、森の手前の少し開けた場所に、古い石造りの建物が立っている。二階建てで、かつては立派だったのだろう外壁には苔が生えている。

 正門のアーチに看板が掲げてあるが、片方のフックが外れて斜めに傾いていて、「王立魔導機管理取締部第七小隊」という文字がかろうじて読めた。

 門番はいない。

 レンが正門をくぐると、石畳の中庭があった。右手に厩舎、左手に建物への入口、奥に格納庫らしい大きい建物。厩舎の方向からは馬の声と、干し草の匂いがした。

 誰もいないかと思ったとき、厩舎の扉が開いて、女性が出てきた。

 年齢はレンより二、三歳上くらいか。動きやすそうな作業着姿で腰には魔道具の入ったポーチを付けた皮のベルトをしている。

 綺麗な赤みがかった髪を後ろでまとめていた。厩舎の仕事をしていたのか干し草が身体についている。

 レンを見て、ぱちりと目を瞬いた。

 「えっと……もしかして今日来るっていう新入りさんですか」

 「はい。本日付けで配属になりました、レン・アシュバルといいます。隊長はどちらに」

 女性は少し考えるような顔をした。

 「多分寝てます」

 「……は?」

 「いい天気だしね」笑顔でそう言う女性を見て、返す言葉が見つからないでいると、建物の入口から早足で出てきた人物がいた。

 三十代だろう、きっちりとした小隊の制服に金色の髪をまとめた女性。

 書類を脇に抱えて、レンを見るなり「あなたが新入りのレン・アシュバルですね」と少し息を切らして言った。

「副隊長のアイナ・マルヴィンです。こんなに早く到着するとは予想外でした、待たせしてしまい申し訳ない」深々と頭を下げた

「あ、いえ、大丈夫です。道中どこかに寄ることもなかったので」と答えると先程の厩舎から出てきた女性が、

「えー、それは勿体ないですよ。王都からヴァルタまでに観光名所も結構あるのに」と残念がった。

「荷物はそれだけですか? 宿舎はこちらです。先に隊長へご挨拶を―――ファリス、あなたも一緒に来てください」とアイナ副隊長は女性に声を書ける。

 どうやら女性の名はファリスというようだった。ファリスは「はーい」と干し草を払いながら歩き出した。


 アイナ副隊長に連れられて砦内を歩いていると格納庫らしき大きな建物の前を通りかかった。なにか不思議な感覚を覚えレンが内部を覗くとそれはあった。

「これが…魔導鎧」レンは驚いたように呟いた。

 

 魔導鎧まどうよろい―――魔力を動力源とする人型の巨大機動兵器。古の魔導ゴーレムの技術を発展させて生まれたものである。

 全長は約四メートル。二階建ての建物より少し低い高さ。

 乗り手は背中の首元にあるハッチから乗り込み、体の動きを直接機体に伝える構造になっている。魔法の才能は要らない。

 必要なのは魔力だけで、乗り手の魔力次第では人間の数倍の出力を叩き出す。

 

 この目で見るのは初めてだった。

 黒みがかった鈍色にびいろの装甲の二機の魔導鎧が薄暗い格納庫に立っている。

 関節の継ぎ目に走る魔力回路が、昼間の太陽の光に照らされて静かに薄く輝いている。

 一体目は人型に近い、なめらかなシルエット。もう一体は腕の部分に砲撃用の機構が組み込まれた、より無骨な外観。

 どちらも止まっているのに、生きているような存在感があった。

 レンには魔法の才能がない。それだけで十八年間、ずっと何もできない人間だった。しかしこの機体は、魔力さえあれば動く。

 出力は出来ないが魔力なら充分にある。

 

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