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王立魔導機管理取締部第七小隊〜落ちこぼれ貴族が辺境の吹き溜まりで魔導鎧を駆る〜  作者: 武内陣


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第六章「鉱山のあと、交差する思惑」(1)

 ノルド逮捕から三週間が過ぎた。

 砦の日常は、表向きには何も変わっていない。

 朝の訓練、裏庭の整備、当番の飯、夜の見張り。それが繰り返されている。

 ただ、ヴァルタの街の空気はまだ戻っていなかった。レン達が市場に顔を出しても以前のような気安さがない。

 マーダ婆さんは相変わらずパンをくれるが、世間話が少し短くなった。それだけのことだが、レンにはそれが気がかりだった。


 一番機の調子は良かった。だがあの時のような機体と一体になる感覚は全くなかった。

 模擬戦でも問題なく動いている。先日の訓練後にオーグ整備主任が機体を確認して「悪くない、悪くないが……」と言った。


 ある昼下がり、裏庭の草むしりを終えてレンが一番機の状態確認をしようと格納庫に入ると、バッハが二番機の足元に寝転がっていた。

「何してるんですか」

「昼寝」

「そんな場所で」

「整備してない時は静かだからな」とバッハが天井を見たまま言った。「格納庫ってなんか落ち着くんだよ。でかい奴らが並んでて、何も言わないし」

「それは、魔導鎧だからでは」

「うるさい。なにか食い物持ってきてくれ」

「余ってないですよ」

「最近飯の量、減ってると思わないか?」とバッハが上半身を起こして言った。

「予算の問題だと思います」

「あのな、私ら乗り手は結構動いてんだよ。訓練で魔力を消費して整備の補助もやってさ、腹が減るんだよ。それなのに飯の量が―――」

「バッハさんの食べる量が多いだけでは」とセナが格納庫の入口から言った。

 二人が振り返り「いたのかよ」とバッハが驚く。

「影が薄くてすいませんね、で、何の話をしてたんですか?」と自嘲気味笑ってからセナが尋ねる。

「今は飯の量の話をしてました」

 セナがレンの方を見て少し頷いた。「確かに最近食材の量が減っています。先月予算が圧縮されたので、仕入れ量を落とさないといけなかったそうです。」

 バッハが「どうにかならないのか予算」と言いながら二番機の足を枕にして また寝転んだ。

「幽霊の話をゴシップ誌かどこかに売り込めば金になるかね」

 バッハが適当に発した幽霊という言葉にレンが反応する「幽霊って?」


 バッハが体を起こした。

「知らないのか?街で噂になってるらしいんだ。夜中に北の山道で、大きな影を見たってな。人間じゃない、獣でもない。デカいのに音がしないってさ」

「音がしない?」

「そうだったよな、セナ」バッハはセナに話を振る。どうやら情報元はセナのようだった

 セナがいつの間にか椅子を用意して腰を下ろして手帳を出していた。このあたりの準備の早さが、セナらしかった。

「最初の目撃報告が十七日前に2件、ヴァルタの北東にある街道で行商人が夜間に目撃。ついで同日北の集落の猟師が山の斜面で未明に目撃。

 そして十日前、街道沿いの 宿屋の主人が夜明け前に裏手で目撃」

「待ってください」とレンが言った。「三件とも夜中か明け方じゃないですか。本当に幽霊なんじゃ。」

「昼間の目撃情報はありません」

「魔物じゃないんですか?」

「魔物だと情報は自警団に上がりますが今回はそういった報告はないんです。自警団が一応ここ二、三日夜に見廻りをしたそうですがなにも無かったと」

「鉱山のさらに北の奥は森林地帯が広がっていますし、なにがいてもおかしくないですね」とレンが少年のようにワクワクした顔で話に乗る。

「はい。ただ―――」セナが手帳のページをめくった。「それぞれの目撃時刻を並べると、ルグナ鉱山周辺をグルっと回ってどこかへ消えたって感じなんですよ」

「夜に鉱山の周りを偵察してるってことですか?」レンが今聞いた情報なんとなく繋ぎ合わせて推理する。

 格納庫に沈黙が走る。

 レンは慌てて「そんなわけないですよね」と訂正を入れようとするがそれを遮ってバッハが「もしかしたら幽霊じゃないのか」と言った。

「幽霊は足跡を残しません」とセナが答えた。「この前最初の目撃地点に行ってみたら、地面になにかが通ったような形跡がありました。

 それに高い箇所の枝が折れてました。それこそちょうど魔導鎧の肩の高さ辺りまで」と一番機と二番機を見上げた。

 レンが「魔導鎧!」とハッと気付いたように大きな声を出す

 セナは落ち着き一拍置いてから「そう考えるが自然かと」

「でも音がしなかったって言ってたよな」とバッハが言った。「魔導鎧なのに音がしないって―――ウチのは歩くと結構うるさいぞ」

「消音の魔道具を機体全体に組み込めば、理論上は可能です」セナが答えた。「ただ、かなり高度な技術が要りますし相当な予算もかかります」

「うちの機体には付けられないのか?」とバッハが言った。「そもそもそれを申請したとしても通常の装備品として予算に計上されるかどうか」

「我々の仕事は音も相手を威圧する際にあった方がいいですからね」「そうだな。赤色灯をブンブン回すのも仕事だし」とバッハが笑いながら言う。

「それに食材費ですら削られてるんだぞ。そんな夢みたいな魔道具は夢のまた夢だよ」バッハは呆れたような声で言うとまた横になった。

「格納庫の屋根の修理も今年は後回しになりましたしね」とセナが言った。

「昨日その下で寝てたら肩が濡れたから早く直して欲しいんだがな」とバッハが漏れ箇所を指差して言う。

「だから格納庫で昼寝はやめてくださいって言ったじゃないですか」

「いやここはこの時間誰もいないから昼寝に最適な場所なんだよ」

 レンは二人のやりとりを聞きながら気になったことをセナに質問する

「その幽霊は十日前の報告の後は目撃されてないんですか?」

 セナが少し間を置いた。「街に目撃情報が出たことに気付いたんでしょうね」と静かに言った。

「夜間に動いていても人に見られてしまうと分かり行動をやめた。あるいは別の経路に変えた。」と続けてセナが言う

「なにか目的があって、ルグナ鉱山辺りの経路を確認していた。」とレンが誰に言うでもなく推理したことを口にする

「そうとも考えられますね。あの辺は初見では魔導鎧で動きづらいですから」

 セナが手帳を閉じた。

「何度も夜間に確認するということはまだ本番ではなく何かしらの準備段階ということでしょう」

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