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三十三話 道中 

 アルマ王国跡地を出発してから、目的地の湖への道のりは、かなり順調に進んでいった。

 本来5日間かかるところを、4日で到着。

 エレナも腕の痛みに耐えつつ、ヘンリルが一日に一度治療をする度に、徐々に痛みが減っていった。

 回復魔法という物は、かなりの魔力を消費する。軍に属したことがなく、魔法の訓練を受けたことのないヘンリルが、魔法を使ってエレナの痛みを和らげ、回復を促進させることができるのは一日に一20分程度。

 村がゼロ地帯になり、魔法が使えない体へと体質が変化した彼女は、なおも村人達の医者になれるように工夫を重ねた。

 村の中では、彼女だけが、人が病から回復していく体のプロセスを知っていたからだ。

 彼女の工夫と知識と経験のおかげで、エレナの右腕はおかしな形に治らないように、真っ直ぐな太い木の枝を紐でくくりつけて固定されている。

 歩く度に無意識に手を振り、その都度痛みを感じていたエレナにとって、右腕を振らないよう固定されたことは、かなりの痛み軽減に繋がった。


「本当にありがとう」


「いえ、お役に立ててないよりですよ」


 おかげでエレナの歩くペースも上がった。

 皆旅にもかなり慣れてきたようで、一日の大まかな動きの流れを掴み始める。

 まず、起きたら大陽の位置と地図を見て方向を確認し、皆で歩き出す。

 勇者の光を放つペンダント、それを持つエレナを中心に、グアル達元魔族の村人が、光の届く範囲内で周りを警戒しつつ、食料を得られそうな場所の捜索。

 そして、見つけたらエレナに伝え、食料に余裕がなければ、皆でそこへ向かって食料を調達。必要とあらば、グアル達が戦闘を行う。

 食料調達を終えたら、その場で食事。

 持って行けない食料をその場で調理し、腹を満たす。


「ごめんなさい……・ありがとう」


 エレナは食事の度に、食料を恵んでくれた木々や草花、魔物の亡骸に必ず手を合わせ「いただきます」と言うようになった。


「どうしてそんなことしてるの?」と子供がエレナに問うと、エレナはニコリと笑って答える。


「何だかね、私達って本当に、命を貰って生きてるんだなって思ったの。そしたら何だか、何にも言わず食べるのが申し訳なくなっちゃって」


 皆も、このような狭いコミュニティでの自給自足の生活をするにつれ、エレナと同じ事を思っていたのだろう。

 いつしかそれが、食事前の皆の恒例行事になった。

 食事を終えたら再び出発。

 日が落ちても勇者の光で辺りが明るく見えるため、基本的には皆の体力が続く限り進み続けた。

 そして皆の様子を見て無理と判断したら、その場で火を起こし、広大な大地という名のマットレスの上に横たわる。

 寝ている間、見張りはドレッドやグアル等、魔族や人問わず軍人の経験があり、睡眠不足でも動ける物で四人のペアを三つ作り、その四人のペアを二人ずつに分けて、交代で辺りを見晴らせる。

 2日に一回ほど魔物の襲撃に遭ったが、小規模故に見張りの応戦で事なきを得る。

 

 この旅が順調に進んでいるのは、エレナや子供達、そして元人間だった村人を覗いたら、ほとんどが軍での経験があること。そして、そうでない者達も役割をしっかりとこなしていることだろう。

 元魔族の村人達は、基本的に元魔王軍に属していた者達で、戦闘を行うことができる。

 そして、元々人だった村人達は、食事。そして、戦闘経験がないため、基本的には子供達の面倒を見ている。

 旅に飽きてきた子供達の鬱憤を、あの手この手で解消していった。


「じゃあエレナ様のところまで競争!一位の人には、さっき通った場所に咲いてたお花で作った指輪を差し上げまーす」


「欲しい欲しい!!」


 といった具合に。


 他にも昔話を聞かせて上げたり、勉強を教えたり(グアルとドレッド、人と魔族の視点からの魔王と勇者の戦争の歴史や、マークによる魔法の授業等)と、本当に様々な方法で。

 村で遊んでいたエレナも、しょっちゅう子供達を楽しませる為のアイディアを提供したり、時には自分が混ざって遊んだりもした。


 本来であれば、大人達は大事故に、子供達を叱って静かにさせ、ただ黙って歩かせようとしていた。

 だが、死ぬかもしれない旅、皆の気が滅入ってしまわないようにと、自ら子供達の輪に入っていったのが始まりだ。

 いくら疲れていても、左腕が痛んでも、エレナは子供達の前で決して笑顔を崩さなかった。

 初めは重苦しかった旅の一行の雰囲気が、徐々に明るくなって行く。エレナを中心として。

 

 そしてようやく、エレナ達は目的としていた湖へとたどり着いた。

 食料はその場で調達できるが、水はマーク含む、緑の魔法陣を扱える三人程度が作り出した分だけ。

 マークがかなりの量を作り出せるが、子供含め20人ほどの一日の水分を賄うにはギリギリの量しかない。


「えー、すごい、湖がピンク色だなんて」


 エレナは目の前に広がる美しい光景に、目を丸くする。

 かなり大きな湖で、直径は約600m程度。広大な真っ赤な谷をバックに形成された湖の光景は、この魔界という大自然の偉大さを、エレナに実感させる。


「では、湖の水を回収、ろ過した後その水を10分程度沸騰させる」


 グアルのかけ声に、村人達はキビキビと動き出した。


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