第三十二話 出発
この町の木造の建物も、乾いているため燃えやすく、先ほど戦った影が壊したことで手に入った木の板を集めるだけで、その日の火起こしは難なく終了。
狩った魔物を串焼きにしたり、町の鍋でスープを作ったりと、魔界で遭難したにしては中々豪華な食卓を、エレナ達は囲む。
子供達も長い道のりに最後の影との遭遇、限界で疲れきっているなか美味しい食べ物を食べて、元気を取り戻していた。
「嘘だろ、あんだけ歩いたのに走り回っている」
マークがドン引きの形相で子供達の姿に目を丸くする。
「すごいよね、あの子達。私なんかヘトヘトだよ」
「本当、子供の体力には参りますな!」
ドレッドはユーシア王国に残した子供を思ってか、少し寂しそうな、それでいて嬉しそうな声で言った。
「疲れて貰っては困るぞドレッド。俺達の旅は、これから更に険しくなる」
向こうで子供達と話していたグアルが、ドレッドの隣に座る。それを見たドレッドは、全員揃ったことを確認し、1枚の地図を広げる。
「これは……」
「帰るまでの道のりは大体分かっているが、地図があったほうが皆も理解しやすかろうと思ってな。丁度見つけたから持ってきていおいた」
「おー!ありがとうドレッドさん!」
「いえいえ、旅に地図は必需品にございますからな」
ドレッドは一度、この地にやってきた事があった。そう、魔王と勇者が存命の頃に起きていた戦争で、元々プラスの魔力地帯であったため地形が分かるこの地に進軍していた。
その時、ドレッドの仲間は、この地を経由し、ちょうどゴブリンの集団とエレナ達が遭遇した地点で、魔族達との戦闘になり、命を散らしていった。
一瞬その記憶が蘇るが、ドレッドは切り替えて皆に見えるように立ち上がり、地図に指を指す。
「まず、我々が今いるのはここ。アルマ王国跡地北西の町です。そこの城壁の向こうからは、また草原が広がっております」
アルマ王国はかつて、城壁に囲まれた都市だったという。だが、今となっては町の端っこに、高さ4m、横の長さは80m程の壁がちょこんと寂しく残っているだけ。
「我々には時間がありません。本来であればここから1ヶ月ほど歩いた先にあるこの谷を迂回していくのがベストです」
「?どうして本来は迂回するのがベストなの?」
「この谷には今、鳥類系の魔物が多く住み着いています。中でも10m程ある巨大な怪鳥、ファルコンが、縄張りを作っている。そして残された時間も考えると、我々はこの怪物の縄張りを通らねばならない」
谷がそのように変貌していると分かったのは、ドレッド達より先に編成され、アルマ王国跡地へと向かった部隊が、怪鳥ファルコンの群れによって壊滅させられたからだ。
生き残った兵士が命からがら帰還し報告。後にドレッド達は、谷を抜ければ5日で超えられる距離を、迂回して三週間かけたという。
「決して一人の犠牲も出さず進むつもりですが、この谷に入るのに準備も必要です」
するとドレッドは、谷とアルマ王国跡地を真っ直ぐと結ぶ直線の道から、ほんの少しだけ離れた所にある川に指を指す。
「谷ではなるべく、食料調達の為の魔物との戦闘を避けねばなりません。谷の魔物を刺激しないためにも。そして水分を補給できる場所もないため、一旦この湖でできるだけ水分を補給。更に道中で、なるべく多くの魔物を狩って起きましょう」
「でも、お肉とかって数日で腐っちゃうんじゃ」
エレナの質問に、ドレッドはマークをチラリと見る。
するとマークは緑色の魔法陣を展開して、氷を生み出す。
エレナはそれを見て両手を叩き、なる程と目を輝かせて頷く。
「この寄り道で1日ロスしますが、生存率を上げる為の必要な時間です」
「うん、そうだね……そうするしかないと思う」
勇者の光が持続するのは2ヶ月間だけ。だが、帰還には2ヶ月半かかる。ギリギリ足りない。
途中で勇者の力が切れてしまえば、数日で人由来の人物は摩擦病にかかって死に至る。
更に途中で勇者の力を使ってしまえば、光の持続日数は更に15日減ってしまう。
只でさえ時間がない。本来であれば一日でも早く進みたい所。だが、その前に谷で全滅して閉まっては元も子もない。
「ファルコンと遭遇した場合は、やはり俺達が追い払うしかないですよね」
マークがドレッドに問う。
「いや、追い払うだけでは駄目だ。奴らはしつこく追ってくる。遭遇したときは、その場にいるファルコンを全て殺してしまわねば」
「だが……飛ぶ敵を狩るのは骨が折れるぞ」
勿論、ドレッドにもマークにも、グアルにも空に飛翔する力はない。とはいえ、なんとかすれば空にいるファルコンに攻撃を与えることができはするのだが、やはり空中での機動力の高いファルコンを倒すのは至難の技。グアルも強化で飛び上がれはすれど、自由に空で方向を変えられる訳ではない。
圧倒的に不利な戦闘を強いられる。
「だが、やるしかないだろう」
ドレッドがきっぱりとそう言うと、神妙だったグアルもぐっと何かを飲み込んで深く頷く
「じゃあ、そうと決まれば明日からは、この湖目指して出発しよう!」




