第四十九話 影
「まさか、本当に見つかるとは」
ドレッドが腕を組んで関心をするが、マークは建物を見つけたからこそ神妙な顔つきになる。
「まだ安心はできません。ここで何も役立つ物がなかったら、貴重な時間を無駄にしたことになる」
「だが、来てしまった物は仕方ない、あるなら良し。ないならないできっぱり諦め、進むだけだ」
心配そうなマークの背中をパシッと叩き、ドレッドはガハハと笑いながらマークを鼓舞する。
そこから20分ほど歩き、ついにエレナ達はアルマ王国崩壊に、奇跡的に巻き込まれなかった家々にたどり着いた。
爆発の中心に一番近い家は、かなり大きな豪邸になっており、建物の素材も、木造が立ち並ぶ他の建物と違い、この建物だけ石造りになっていた。
そして、後ろに立つ木造の建物を守るように、半壊して内部がむき出しになった石造りの豪邸の後ろにある建物だけが、爆発からかろうじて逃れて建っていた。
「じゃあ皆、さっき話したとおり、探す組と警戒組の二手に分かれよう!」
建物の中を全員が必死で探している間に、ゴブリンのような知性のない魔物に襲われて被害を出しては、元も子もない。
そのため、エレナはマークと相談して、護衛のマークを覗いた戦う力のある者達に外を見張らせ、戦う力のない者達は集中して建物を物色する。
「見つけたらこの噴水の周りにどんどん物を置いていこう!いるかいらないかは後から後から決めるから!」
この噴水は丁度、残っている建物群の中心部にある。だが、既に枯れ果て、今では水はなくなり、その水を吹き出す仕組みだけが残っている。
「は!」
エレナの号令で皆がテキパキと己の役割を全うするため動き出した。
「よし、私も探しに行こうっと」
十字路から子供達を含め皆がいなくなり、エレナも建物の物色に向かおうとする。
「エレナ様は、なるべく動かない方がよろしいかと」
「どうして?皆と探した方が早くない?」
マークの進言に、エレナが問う。
「見張りをしている者達の中には、元人間である方が、ドレッドさんを含めて数人。エレナ様のペンダントの放つ勇者の光が届く場所が、いわばその人達の最前線です。エレナ様が動かれると、命を賭して戦っている彼らの最前線の位置がコロコロと変わってしまいます」
「つまり、私が動くと戦いにくいんだね……分かった、私待ってる」
エレナはそう言うと、石造りの噴水の周りの囲いにちょこんと座った。
進言を」素直に聞き入れたエレナに、マークは少し驚いていた。いつもであれば、(皆が生き残るためにやることだから、女王である自分も皆と為にやらなきゃ!その分早く終わるしね)とか言って行ってしまうのだが……。
マークは、そこで、エレナが女王として少し成長したのだと理解する。右も左も分からなかった状況だったが、この過酷な魔界という環境が、彼女に指示と決断の重さを自覚させ、成長に繋がったのだろう。そう、マークは分析する。
15分おきに見張りがマークに現状を伝えに来るというサイクル3回ほど続けた頃、建物を探しに行った者達が、最後の荷物を持って十字路に戻ってきた。
敵襲もなく、トラブルも特になく安全に集合できた為、エレナは安心したようにホッと胸をなで下ろす。
「皆、お疲れ様!早速仕分けしていこう!」
エレナがそう指示し、噴水の周りに集められた物を見渡した時。
「敵襲―――――!!」
ドレッドの馬鹿でかい声に皆がびくりと反応し、驚いて辺りを見回す。
空には見慣れない緑の夕焼け。その美しい光を、3m程の巨大な人型の黒い影が一瞬遮った。
その影が、エレナの瞳の右端にチラリと映る。
「たぁぁすけぇええてえ」
直後、その影は子供のように高い声で奇声を発しながら、エレナ達の元へと走ってきた。
大きな体だがすばしっこく、100mは先にいたのに、体中から真っ黒なチリをまき散らしながら、いつの間にかエレナ達目前まで迫り来る。
「!」
マークは即座に緑色の魔法陣を展開して火球を作り、即座に黄色の魔法陣で火球を3m程に巨大化させて影に放つ。
火球は影に正面からクリーンヒット。だが、影に火球が触れた瞬間、大量の黒いチリをまき散らし、火球はまるで突然酸素を失ったかの用に、フッと消えた。
そして、影の巨大は更に20cm程大きくなった。
「何!」
影は既に、頭を抱えて恐怖に怯えながら蹲る子供達を、その大きな足で踏みつけようとしていた。
エレナの瞳に、その影の全貌が露わになる。と言っても、その影は体中が真っ黒で、声を上げているはずの顔には口どころか目も、耳も、鼻も付いていないのっぺらぼう。
火球が効かないことを目の当たりにしたマークは赤の魔法陣に、黄色の魔法陣を重ねて展開し、身体の強化幅を拡大。
目にも止まらぬスピードで子供達の前に立ちはだかり、今にも子供達を踏みつけようとする影の上半身と下半身を、剣で切り裂こうとした。
だが、影に剣が接触した瞬間、マークの体にみなぎっていた力が、パンクしたタイヤのように一気に抜ける。
「なっ!」
マークはそのまま、車のような早さで迫る影に数mほど突き飛ばされる。
「ぐぁっ」
「マーク!」
エレナはマークを追おうとするが、マークの言ったエレナが動く事による前線のリスクを思い出す。
本来であれば、魔物は前線で食い止められる筈。今は非常事態。非常事態だからこそ、慌てて動いてしまうのは危険。それに、自分が駆け寄ったところでヘンリルのように回復もできなければ、守ることもできない。
であれば、今の最善は動かないことと判断し、エレナは駆け寄りたい気持ちをぐっと抑え込む。
「あ」
その様子を見た影はその場でピタリと止まる。
「あ、ごおおめんなさあい」




