第四十八話 方針
「それじゃあ皆、この後どうしようか」
エレナ、ドレッド、マーク、グアルの四人が焚き火の周りを囲い込み、神妙な顔つきで腕を組んでいた。
彼らが話し合っているのは、これからどう進んで行くか。
この魔界に満ち溢れるのは、マイナスの魔力。生きとし生けるものだけでなく、彼らの食らう水や食料もまた、人間の暮らす世界とは異なった魔力が流れている。
そして、異なった魔力を持つ物を食べても栄養にはならず、当然プラスの魔力が体に流れるエレナ達は、長く食べ続ければ摩擦病を発症する。
加えて村の住人を含め元人間だった人々の体は、マイナスの魔力に適応できないため、エレナのペンダントが放つ勇者の光が届く変形100mの外に出ることはできない。
「ならば、エレナ様を中心に、勇者の光が届く範囲を我々の本陣とし、元魔族である物が食料を調達するのはどうでしょう」
「そうだね、私もそうするしかないと思う。二人は?」
「反対する理由がない……が、我々はマイナスの魔力が流れる魔界の食物を食べることができないぞ」
「そのまま食すことはできない。だが、お前達が魔法で放つ炎はプラスの魔力の流れる物だ。その炎で焼けば、その食物にはプラスの魔力が満ちる」
「……そんな方法が。しかし水は」
マークの問いに、グアルはフッと笑って答える。
「若者は想像力に欠けるな。水など、貴様の緑の魔法陣で作り出せば、どうとでもなるだろう?」
「……」
小馬鹿にされ、プライドを少々傷つけられたマークが、グアルの言葉に苦い顔をする。
「マークは、グアルさんの意見に賛成?」
エレナの言葉に、マークはすぐに表情を変え、答える。
「護衛の観点から見ても、俺とドレッドさんがいれば、エレナ様を充分に守る戦力があるでしょう」
満場一致でこの案は決定。食料の問題はひとまずなんとかなる兆候が見えた。
次の課題は、どこへ進むか。
「それについてですが、ここから3時間ほど歩いた先にある、アルマ王国跡地へ向かうのはどうでしょうか」
マークの提案を聞きいたドレッドは、アルマ王国の事を知らないエレナのキョトンとした表情を察し、確認するように付け加える。
「アルマ王国、魔王がこの地に降臨してすぐ、滅ぼされたというあの小国か?」
「そんな、国を滅ぼしちゃうなんて……」
エレナの瞳に悲しみが宿ったことにマークは気がついたが、話を進めるためにすかさず返答する。
「えぇ、そうです」
「しかし私は、魔王様がアルマの町を滅ぼした際、そこに残ったのは炭となった残骸のみだったと聞いたが」
「小国とはいえ、国を……炭の残骸。常軌を逸している」
驚きを隠せないマークの肩をポンと叩き、ドレッドは言った。
「あの強大な力を持った三人の勇者様でも、相打ちでやっと倒せるくらいだからなぁ」
グアルのその情報を、マークは知らなかった。ドレッドは薄々想像がついていたようだが、その頃は未熟故に前線へ出たことがなかったマークは、魔王の強大さを書物や人づての噂でしか知らない。
魔王が魔法を放って滅ぼしたアルマ王国付近は、魔王が去った後も、その強大なマイナスの魔力が大気中に残り、ユーシア帝国の兵士達は近づくことすらできなかったという。
情報が不足しているのは、当然のことだった。
「でも、もしかしたら残骸の端っことかに少しは何か残ってるかもよ?」
「うむ、エレナ様の言う通り。時間は限られているとは言え、効率的に進むためにも行く価値はあると俺は思う」
エレナのフワッとしていながらも前向きな言葉に、ドレッドが同調する。
「少々寄り道することにはなるが、方向はプラスの魔力地帯よりだ。そう大きく時間を失うこともないだろう」
グアルも同調した事で満場一致。
エレナ達一行は戦いの疲れをここで休め、明日の朝アルマ王国跡地へと旅立つこととなった。
※
「グアルさん……魔界の空って、昼間は黄色なんだね」
「はい、昨日の緑色の空は、魔界の夕焼けです」
翌日、そんなことを話ながらエレナ達は朝出発し、4時間半ほどかけてアルマ王国跡地へとたどり着いた。
いつもはどちらかと言えばお喋りな性格のエレナが、歩いている間ほとんど喋ることがなかった。
「エレナ様、右腕が痛みますか?」
「……うん、お願い」
ヘンリルがそんなエレナの異変に気付き、桃色の魔法陣で痛みを和らげる。
「はー、ありがとう。少し楽になったよ」
「いえ、当然のことをしたまでです」
お互いニコリと笑い合うと、エレナはその場で歩みをピタリと止めた。
「マーク、ここで合ってる?」
エレナの視線の先にあったのは、炭が大地を覆い尽くし、一体が黒一色となった異様な光景だった。
「はい、ここが魔王誕生の日に滅びた、アルマ王国の跡地です」
「ここに住んでた人達も、町も、皆……」
人と建物の区別も、炭となってはつかない。
その恐ろしい光景に、エレナの心臓がドキッと波打つ。
「エレナ様……参りましょう」
グアルは、エレナが内心魔王に複雑な感情を抱いている事を理解しながらも、エレナの背中をそっと押した。
「うん、そうだね」
エレナが一歩を踏み出すと、そこから先の足音は、ザクザクと硬い砂の上を歩いている様な音だった。妙に乾いた空気と無機質な景色が、ここまでの疲れも相まってエレナの不安感を少し煽る。
一行はそのまま、その真っ黒な大地の外周をなぞって歩いて行く。
外周を歩いて行く理由は、魔王の魔法によって炭となっていない可能性がある建物は、爆発の端っこにあると思われるからだ。
子供達がこの一面黒く変色した大地に気味悪がると、エレナは子供達の横に立って、一緒に歩いた。
子供達が歩き疲れると、ドレッドを筆頭に大人達が子供達をおんぶして進む。
事前に用意していた薪と食料で昼食をとり、かれこれ6時間ほど歩き、空が魔界に転移してきたとき同様、夕焼けで緑色になってきた頃。
「あ」
向こうに落ち始めた緑の夕日が、いくつかの建物の影を映し出した。




