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界渡りの物語  作者: 九重


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願い 5

ロウドが、他の竜達が目を見開く。



「アキは大丈夫です。――――そうでしょう?」



突如、大地を震わすような大爆笑が起こった。


『ハッ、ハハッ、ハハハッ……これは、愉快だ。ヤト、人の子の王よ。お前の勝ちだ。』


低く、地鳴りのようなその声。――――それは、竜の長の声だった。


『これは一本取られたな。確かにお前の言う通りだ。我らが悲しむ陛下をそのまま放っておくはずがない。誰もが心を砕いて精一杯陛下をお慰めすることだろう。』


クックッと喉を震わせながら、長は楽しそうに笑う。



『………だが、ヤトよ。であれば、将来お前を喪って嘆かれる陛下をお慰めする(ろう)も、今この瞬間、“この場でお前を喪い”嘆かれる陛下をお慰めする労も、“同じ”だと我らが判断するとは考えぬのか?――――同じ労をするのであれば、人間などに陛下を横取りされる時間を与えるよりも、今の労を我らが選ぶと。』



底知れぬ長の目が、ヤトを見据える。




ヤトは、ゆっくりと首を横に振った。


「それほど簡単に私を排されるのであれば、既に今頃、私は百回も皆様に殺されていることでしょう。――――竜の皆様は、優しく聡明であられます。……それに私は、少し自惚れているのです。“ヤト”と私の名を呼んでいただけるほどには、竜の皆様に好かれていると。」


ロウドが盛大に舌打ちをした。他の番候補達も、嫌そうに顔をしかめる。


長は再び楽しそうな笑い声を上げた。



『フム。確かに人間とは、あざとくずる賢い生き物だ。』


「そうでなくては、弱い私達は生き残れませんから。」


『……真理だな。』


『長っ!』



もっともだと頷く長に、ロウドが怒る。


ムッとするロウド達に、あらためてヤトは頭を下げたのだった。






――――それから、ずっと同じ事が続いている。


翠子を一緒に人間の世界に連れ帰りたいと土下座して願うヤトと、不機嫌にそれを断るロウド達番候補の竜。


(……いつまで続くのかしら。)


流石に翠子も呆れてきた。

長など、これ見よがしに大きなあくびをしている。陽光を受けて、年老いてもまだまだ鋭い牙がキラリと光った。



「お願いします!」


『しつこい!!』



いつまで経っても、終わりそうにない言い争い。


それでも、翠子の心は明るかった。


どれだけ時間がかかっても、ヤトはきっと諦めない。


そして、最後はロウド達が、渋々折れてくれることだろう。


(……みんな、優しいもの。)


翠子にはその様が、目に見えるかのように想像できる。




優しいヤトと優しい竜の生きるこの世界。


翠子は、いつか見た遥か上空からの、この星の様子を思い出した。

青く美しかった、この世界。




翠子は心の翼で、この星を……抱きしめた。


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