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界渡りの物語  作者: 九重


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願い 4

「ロウド!」



――――翠子は、言葉が見つからなかった。

ロウドの言葉は、真実なのだろう。

ヤトが人間で、自分より確実に早く死に逝くことを思えば、翠子の心はたちまち重く塞がれ、悲鳴を上げる。


……今でさえ、こうなのだ。


今後同じ人間となり、ヤトと共に時と心を重ねれば、別れはなお辛くなるに決まっていた。


神のごとき力を持つ界渡り。

でも、その界渡りの力を持ってしても、生き物の寿命を変えることはできない。


(力を使って、ケガや病を治したり、瀕死の状態から生き返らせたりすることはできても、年老いて死ぬ人を生き延びさせることはできないわ。)


何故か翠子には、それがわかった。



(私は、これ以上ヤトと一緒にいない方が良いのかもしれない。)



翠子は、そう思う。





でも、思った途端――――心が悲鳴を上げた!


(いやよっ、せっかく一緒にいられる道が見つかったのに……)


離れるのは、嫌だ。

つい先刻まで考えていた、年に一、二度会うという方法すらも、もうそれでは我慢できないと思ってしまう。


(一緒にいられるのなら、一緒にいたい!……例え、後でどんなに辛い別れが待っているのだとしても――――ううん。それなら尚更、一分一秒でも長くヤトといたい。)


翠子は、ただひたすらに……願う。


だから、そうロウド達に告げようとして顔を上げた。


決意を込めて、口を開く――――




「ロウド――――」


「ロウド様。どうか、顔を上げてください。頭を下げなければならないのは、私の方です。」


しかし、同時にヤトが、翠子の言葉を遮って声を上げる。

謝らなければならないのは自分だと、話すヤト。


ロウドは、ヤトが自分の話をわかってくれたのだと思い、ホッとして顔を上げた。



「ロウド様の仰りたいことは、よくわかります。竜の皆様のアキを思ってくださる優しい御心も。」


「ヤト!私は――――」


翠子は、ヤトが自分のためを思って諦めてしまうのだと思った。

……優しいヤトが、自分を傷つけないために別れる道を選ぶのだと。

だから、ヤトを制止しようとする。



その時、ヤトは翠子の方に振り返った。


一瞬見交わした目と目。



(……あっ、違う。)



その目の中に、誰より強い輝きを翠子は見出す。

何かを諦める男の目には有り得ない、前を見る瞳。


翠子は自分の間違いを悟った。


その輝く瞳のままに、ロウドに向き直るヤト。



「――――それがわかるからこそ、私は願います。……私にアキをください!アキと過ごす、かけがえのない幸せな時間を、私に与えてください。――――そして、私が死んだ後に………………アキを頼みます。」



ヤトは、再び額を地に着け、竜達に請い願った。



『……なっ!』



「私が死した後、アキは悲嘆にくれるでしょう。……でも、私はアキを一人で残すわけではありません。アキの周りには、貴方達、竜の方々がいてくださる。……アキの悲しむ姿を見るくらいなら、今この場で私を殺そうとさえ思うほどの貴方達が。」



ヤトは……フッと笑った。


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