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海冥の檻〜偶像(かみさま)の言う通り~  作者: 空気人形


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episode.02「しあわせはつづく」

本作は単体でもお読みいただけますが、全3部作の第2作目となります。

1作目となる『群青の嘘 ~港の廃屋と消えた少女~』の世界観を知ってから触れていただくと、より深く楽しんでいただけるはずです。


▼『群青の嘘』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n5968mp/

ガタゴト、ガタゴトと重い金属音を規則正しく響かせて、路面電車は朝の街を滑るように走っていく。

車窓を流れる景色をぼんやりと眺めながら、わたしはこれまでの長い中学生活の記憶をゆっくりとたぐり寄せていた。


決して、クラスで浮いていたわけじゃない。休み時間になれば気の合う友達と他愛のない雑談で笑い合ったし、修学旅行や文化祭といった学校行事だって、それなりに楽しんできたつもりだ。

けれど、クラスという閉ざされた小さな社会の中で、心のどこかではいつも、空気の端っこで息を潜めているような居心地の悪さを抱えていた。


自分の意見を声高に主張するタイプでもなければ、輪の中心で笑うような華やかさもない。

いつも誰かの後ろをついていくおとなしい「その他大勢」の一人。それが、これまでのわたしだった。


周りの女の子たちが自然にまとっている「キラキラした空気感」が、どこか遠い世界の出来事のように感じられて仕方がなかったのだ。


——けれど、今日のわたしは違う。


ふと、通学バッグの金具に視線を落とす。そこには、朝ママがプレゼントしてくれたばかりの「小さなみーたん」が、電車が揺れるたびにこげ茶色の愛らしい姿を覗かせていた。

そして、頭の中で優しく微笑むみーたんの声が、今のわたしに確かな勇気と、今までにないきらめきを与えてくれていた。


(あいかは世界で一番可愛いよ)


朝、自室の鏡の前でかけられたその言葉が、まだ体温を持ったまま胸の奥で温かく響いている。

そう思うと、耳障りだったはずの路面電車の走行音さえも、まるで新しい門出を祝うファンファーレのように聞こえてくるから不思議だ。


車窓からは、朝のやわらかな陽光を反射して、どこまでも青く輝く海が広がっているのが見えた。

波須町《はすまち》の駅で電車を降りて、潮風に吹かれながら坂道をしばらく歩いていく。

鼻腔をくすぐるのは、どこか懐かしくて甘酸っぱい潮の匂い。

その道の先に見えてきたのは、太陽の光をたっぷりと浴びて白くそびえ立つ綺麗な校舎、そしてこの学校のシンボルである石造りの時計台だった。


県立北橋高校。

今日から始まる新しい三年間、わたしがお世話になる世界の舞台。


一歩一歩、校門へと近づくにつれて、胸の中の高鳴りがどんどん大きくなっていく。

校門の前には「入学式」と書かれた大きな立て看板が置かれており、スーツ姿の保護者や新入生たちで大変な賑わいを見せていた。あちこちで楽しげな笑い声が飛び交い、記念撮影をする家族の姿があふれている。


「あいか、こっち向いて! 笑ってごらん」


わたしたちの番が回ってきたとき、ママが笑顔でスマホを構えた。わたしはレンズに向かって背筋をピンと伸ばし、精一杯の笑顔を作る。バッグの金具にちょこんとついた小さなみーたんも、まるで一緒に写りたがるようにフレームの中に収まった。


校門をくぐり、圧倒されるような人の波をかき分けながら校舎の玄関前へとたどり着く。

そこには、新入生たちの運命を分かつクラス発表の大きな掲示板が張り出されていた。

周囲からは「やった、一緒だ!」「マジか、同じクラスじゃん!」という歓声や、「うわぁ、別々だ……」という落落胆の声が入り混じっている。


「ええっと……わたしのクラスは……」


胸の鼓動が早鐘を打つ中、人混みに押し負けないようにつま先立ちになりながら、張り出された紙の文字を必死で追いかけていく。


「——あっ、あった! 『叶芽あいか』……1年B組……!」


自分の名前を見つけた瞬間、張り詰めていた糸がふっと緩んだ。

そして、そのすぐ下に記された名前を見た瞬間、わたしは自分の目を疑った。嬉しさのあまり周囲の視線も忘れて「やったー!」と声を上げ、その場で小さく飛び上がってしまった。


そこにあったのは、中学からの大親友である『葛氏つみき』の名前だった。

奇跡のように、わたしのすぐ下に彼女の名前が並んでいたのだ。


「これも……きっと、みーたんのおかげに違いないよね」


胸元で揺れる小さなみーたんに、心の中でそっと語りかける。すると、脳裏の奥底から『あいかちゃんが喜んでくれてよかった』と、あの優しく愛らしい声がふんわりと返ってきた気がした。

ありがとう、みーたん。本当に、ありがとう。あなたのおかげで、わたしはもう何も怖くない。


「あーいーかー!」


自分の名前を呼ぶ元気いっぱいの声に、わたしはハッと顔を上げた。

振り返ると、新しいブレザーの制服を少し大きめに着こなしたつみきが、満面の笑みを浮かべながら走ってくるところだった。


「つみきーっ! 見た!? 同じクラスだったよ!」

「見た見た! ヤバいね、これもう運命じゃない!? 高校生活が始まって早々、一緒のクラスになれるなんて最高すぎる〜! ……って、それよりあいか、その髪型なに!? めちゃくちゃ似合ってるし、かわいすぎるんだけどー!!」


つみきは一気に距離を詰めると、わたしの両肩を掴んでぐんぐんと覗き込んできた。

わたしたちは顔を見合わせると、どちらからともなく手を取り合い、まるで子供みたいにその場でピョンピョンと飛び跳ねた。高校で離れ離れになるかもしれないとずっと不安だったから、心の底から救われたような温かい心地が胸いっぱいに広がっていく。


朝、鏡の前で小さなみーたんに勧められるまま結んだ高めのツインテール。自分一人では絶対に選ばなかったその髪型は、大正解だったみたいだ。世界が急に、鮮やかな色を帯びて動き出したような気がした。


「ほら、二人ともいつまでそうやってはしゃいでるの。入学式に遅れちゃうわよ。早く靴を履き替えて、自分の教室に入りなさい」


後ろから追いついてきたママに苦笑交じりで促され、わたしたちはハッと現実に引き戻された。

時計台の針を確認すると、ちょうど8時30分を指している。やばい、40分にはもう教室に着いて席に座っていなきゃいけないんだった!


「はーい! 行こ、つみき!」

「うん、急ごう!」


ママに手を振って見送られながら、わたしたちは新緑の香りが漂う校舎の中へと、胸を高鳴らせながら足を踏み入れた。

他にも、以下の作品を執筆・連載中です。もしよろしければ、こちらも覗いてみてくださいね!


少女たちに迫る悪夢。青春群像ホラー『群青の嘘 ~港の廃屋と消えた少女~』

▼『群青の嘘』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n5968mp/


1分で読めるショートホラー『隙間奇談 ~日常の「すきま」に潜む、奇妙な短編集~』

▼『隙間奇談』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n5264mo/



二人の不器用なすれ違いの淡い恋『すれ違う思い、重なる夏の記憶 』

▼『すれ違う思い、重なる夏の記憶』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n0281mr/



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