↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海冥の檻〜偶像(かみさま)の言う通り~  作者: 空気人形


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/18

episode.01「みーたんがしゃべった」

本作は単体でもお読みいただけますが、全3部作の第2作目となります。

1作目となる『群青の嘘 ~港の廃屋と消えた少女~』の世界観を知ってから触れていただくと、より深く楽しんでいただけるはずです。


▼『群青の嘘』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n5968mp/

「あーもう! 入学式だっていうのに、全然髪型が決まらない……!」


鏡の前で、わたしは頭を抱えて何度もため息をついていた。

今日から憧れの北橋高校での生活が始まる。パリッとした真新しい制服、スカートの丈、ローファーの艶——どれも完璧なのに、肝心の髪型だけがどうしても納得いかなかった。


ハーフアップにしてみたものの、なんだか幼すぎて垢抜けない。じゃあ、と一つ結びに変えてみたら、今度は地味すぎてクラスの隅っこで目立たない陰キャそのものに見えてしまう。


「もっと……もっと可愛くなりたいのに」


焦りと苛立ちで指先が震え、何度もヘアゴムをほどいては結び直す作業を繰り返していた。

中学時代のわたしはいつもパッとせず、グループの端っこで作り笑いを浮かべているだけの存在だった。高校こそは生まれ変わりたい。可愛いって言われたい。クラスの中心で輝く女の子になりたい。


時計の針は無情に進み、このままじゃ初日から遅刻してしまう。パニックで涙目になりかけた、その時だった。


『最初の出会いは肝心だよ。あいかちゃんは本当はとっても可愛いんだから、今日は少し高めのツインテールがいいと思うな』


不意に、部屋の中に鈴を転がすような愛らしい声が響いた。


はっと息を呑む。

あまりにも澄んだ声だった。けれど、それは空気の振動として耳に届いたのではなく、まるで脳の芯に直接、冷たく染み込んでくるような不思議な響き方だった。


「あー、やっぱりそれがいいかな……って、えっ!? 誰!?」


慌てて振り返る。けれど、ドアはきっちり閉まったままだ。

ママの声にしては幼すぎるし、パパの声なわけがない。第一、今この部屋にはわたし一人しかいないはずなのに。


「まさか……不審者……!?」


心臓がバクバクと暴れ出し、恐怖で背中に冷たい汗が流れる。すくみ上がる足で後ずさりながら、部屋のあちこちに視線を走らせた。

ベッドの上でじっとこちらを見つめる大きなみーたん。そして、スクールバッグの金具にぶら下がっている小さなみーたん。


その時、バッグの小さなみーたんが——ほんの少しだけ、ゆらりと揺れた。


『びっくりさせちゃってごめんね。でも、私にはちゃんと聞こえているよ。あいかの心の声が』


まただ。頭の中に直接響く、あの優しくて甘い声。

それは幻聴なんかじゃない。目の前で、小さなみーたんとバッチリ目が合った気がした。つぶらな黒いプラスチックの瞳が、ふっと柔らかく細められたように見えたのは、絶対気のせいなんかじゃない。


「みーたん……? 喋ってるの……?」


震える声で呟くと、頭の中の声がくすくすと嬉しそうに笑った。


『そうだよ。あいか、もう一度鏡を見てごらん? 私はあいかの味方をするために生まれてきたんだから』


言われるがまま、わたしは吸い寄せられるように姿見へと向き直った。

心臓はまだ早鐘のように鳴っているのに、不思議と恐怖はすっと消えていた。代わりに、体の中からじわじわと熱い安心感——ううん、全能感が湧き上がってくる。


わたしは震える手でヘアゴムを掴み、みーたんの言う通り、普段の自分なら絶対に挑戦しないような「高めのツインテール」へと一気に髪を結い上げた。


ゴムをきゅっと縛り上げ、顔のサイドの髪を少しだけ整える。

——その瞬間、鏡に映った自分の姿を見て、わたしは息を呑んだ。


そこには、今まで見たこともないほど鮮やかで、自信に満ちた「可愛い女の子」が立っていた。

ツインテールの揺れ方が、背筋をピンと伸ばした姿勢が、そして何より瞳の輝きが、わたしを別人に変えている。世界が、わたしだけに優しく微笑みかけているような錯覚さえ覚えた。


「……すごい。わたし、こんなに可愛くなれるんだ」


カバンの横で、小さなみーたんが誇らしげにゆらゆらと揺れている。


『でしょ? あいかは世界で一番可愛いよ。さあ、胸を張って行ってきなさい。今日は最高の1日になるから』


「うん! ありがとう、みーたん!」


不安はもうどこにもなかった。


「あいかー! そろそろ学校に向かわなきゃ遅刻するわよー!」


階下からママの呼ぶ声が聞こえる。


「今行くー!」


わたしはベッドの上の大きなみーたんに「行ってくるね」と手を振り、小さなみーたんが揺れるスクールバッグを肩にかけた。

初めて自分の足取りに誇らしさを覚えながら、新しい制服のスカートをなびかせ、わたしは部屋を飛び出した。

他にも、以下の作品を執筆・連載中です。もしよろしければ、こちらも覗いてみてくださいね!


少女たちに迫る悪夢。青春群像ホラー『群青の嘘 ~港の廃屋と消えた少女~』

▼『群青の嘘』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n5968mp/


1分で読めるショートホラー『隙間奇談 ~日常の「すきま」に潜む、奇妙な短編集~』

▼『隙間奇談』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n5264mo/



二人の不器用なすれ違いの淡い恋『すれ違う思い、重なる夏の記憶 』

▼『すれ違う思い、重なる夏の記憶』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n0281mr/



「面白かった!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけましたら、【ブックマーク登録】や【評価(⭐⭐⭐⭐⭐)】を押していただけると、執筆のモチベーションがものすごく跳ね上がります……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。