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海冥の檻〜偶像(かみさま)の言う通り~  作者: 空気人形


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File.EX -side:ゆう-「友(ゆう)情の代償」

本作は単体でもお読みいただけますが、全3部作の第2作目となります。

1作目となる『群青の嘘 ~港の廃屋と消えた少女~』の世界観を知ってから触れていただくと、より深く楽しんでいただけるはずです。


▼『群青の嘘』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n5968mp/

氷雨先輩が亡くなり、その直後には佐野先輩までが屋上から落ちて亡くなった。

学校中では「仲間の死を苦にした悲しき後追い自殺」ということになっている。

たしかに、それもありうるのかもしれない。でも、佐野先輩は氷雨先輩のためにも「今年こそ全国に行くんだ」と誰よりも熱く奮闘していたはずだ。


あんなに前向きだった先輩が、突然自殺なんてするだろうか?


私の中では、決して答えの出ることのない黒い疑問が、まるで澱のようにずっと渦巻いていた。


◇


放課後、私は重い足取りで帰ろうと昇降口を出て、自転車を押しながら学校の裏門に向かった。そのとき、校舎の裏手に、小さな影——あいかの姿を見つけた。

あいかも、相次ぐ先輩たちの死で相当ショックを受けているはずだ。様子がおかしくないか、声をかけてあげよう。

そう思って近づきかけたところで、私は思わず足を止めた。あいかは誰かと話しているみたいだった。


「ねえ……みーたん。どうしよう……佐野先輩までいなくなっちゃった……。わたし、怖いよ……。どうしてこんなことになっちゃったんだろう……」


校舎の片隅の陰で、気弱な涙をぽろぽろと浮かべながら、あいかは自分のスクールバッグにしがみつくように、ぶつぶつと呟いていた。


「あいか……?」


私は思わず声を漏らした。その声に驚いたように、あいかが肩をびくりと震わせて振り返る。


「……ゆうちゃん。どうしたの?」


「ううん、部活もないし、今から帰ろうかと思って……ねえ、あいか、さっきから誰と話してたの?」


「え? みーたんとだよ」


あぁ、なるほど。そういうことか。

最近ネットや本で見たことがある。強いストレスや孤独から逃れるために、脳内で空想の友人を作り出す「イマジナリーフレンド」というやつだ。きっと、あいかも今回の相次ぐ事件のショックで、心がそれほどまでに弱り切っているのだ。


「それって……そのバッグにつけてる、ただのぬいぐるみでしょ? あいか、さっきからずっと一人でブツブツと会話してて……それって、もしかしてネットでよく言う……」


私は明らかな戸惑いと、得体の知れないものを見るような目を、無意識にあいかに向けてしまっていた。


「違う! みーたんは本当にいるの!! わたしを守ってくれる、一番の大切な存在なの!」


私の言葉に反応するように、あいかは思わず声を荒らげ、ムッとした強い口調で食い下がるように否定した。


「あいか……それは、ショックで現実から目をそらしているだけだよ……。氷雨先輩や佐野先輩にあんなことになって、あいかも精神的に追い詰められているんだよ。お願いだから、正気になって、あいか……!」


私の必死の訴えに、あいかは一瞬、ハッとしたような顔をした。


「そっか……そうだよね、ごめんね……ゆうちゃん」


よかった。ちゃんと私の言葉が届いたんだ。

まだショックは深いだろうけれど、あいかはまだ大丈夫だ。一人にしておくのは心配だから、あとでつみきにも相談しよう。そう胸をなでおろした。


「え……? うん、じゃあ、また明日ね」

「うん……じゃあね、ゆうちゃん。また明日、学校でね」


その時のあいかの笑顔は、どこか奇妙にぎこちなかったけれど、私は深く疑うこともなくその場を離れた。


◇


夕闇が急速に迫り、空が不気味な紫色に染まり始める下校時。

警報機も遮断機もない、住宅街の小さな踏切の前で、私は自転車を止め、すぐ目の前をこれから通り過ぎる電車の通過を待っていた。ガタゴトと重い鉄の音が線路から響き、遮断棒のない空間に冷たい夜風が吹き抜ける。

ちょっと前まであんなに楽しかったのに、最近なんだか憂鬱になる。

ダメダメ! 気をしっかり持たないと。


気合を入れなおす私の背中に、足音もなく忍び寄る影があった。


「バイバイ、ゆうちゃん」


「えっ???」


耳元で低く囁かれた直後、私はあいかに力任せに、全体重を乗せて強く突き飛ばされた。


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁッ——!!」


目の前には、減速が間に合わないことに抗うかのような「ギーーーーーーッ」という悲鳴のような金属音を上げ、しかしどうすることもできずに迫りくる黄色いライト。それが、悲しげにこちらを見つめていた。


◇


気がつくと、私は冷たく白い集中治療室のベッドに寝かされていた。

全身が包帯まみれで、数え切れないほどのチューブや人工呼吸器の管に繋がれている。指一本、動かすことすらできない。


——なんで? どうして私がこんなところに……?

そうだ、あいかちゃんに突き飛ばされて……。


ガチャリ、と重い扉が開き、看護師の案内で、あいかとつみきちゃんがゆっくりとベッドの脇に歩み寄ってきた。


私の濁った視線が、まっすぐにあいかを捉える。

喉から「ヒッ……ヒッ……、ぁ……ぁ……」と、血を吐くような掠れた恐怖の声を鳴らし、私は酸素マスクの奥で、恐怖に歪んだ口元をガタガタと激しく震わせた。

私の目は、言葉はなくとも確かに訴えていた。


——あなたが私を押したんでしょ。あなたが、あの化け物なんだって……!


「ゆうちゃん、大丈夫……? 痛いよね、苦しいよね……。わたしだよ、あいかだよ……」


あいかは何も知らぬげな、ただただ悲しそうな顔をして、私の冷たい手に触れようとそっと手を伸ばしてきた。


ちがう。触らないで……!

今度こそ、殺される——!!


私は極限の恐怖に正気を失い、跳ね上がる心拍数を抑えられなくなった。その瞬間、枕元の心電図モニターが、耳障りな警告音をけたたましく、連続して鳴り響かせた。


「患者さんの容体が急変しました! お友達はすぐに外へ出てください!」


医師や看護師たちが、血相を変えて病室へと飛び込んできた。


あいか? いや、あれは一体誰なの……?

あんなの、私の知っているあいかじゃない! 私は、あいかの姿をした、何者かの底知れぬ悪意に魅入られてしまったの……?

イマジナリーフレンドなんかじゃなかった。あいつは本物の……!


もう、私には何もできない……。


◇


その日の深夜。

意識の底で、奇妙な夢を見た。

あいかちゃんと、つみきちゃんと、私。その楽しかったはずの日常の背後に、すべてを呑み込むような真っ黒な何かが佇んでいる。


その真っ黒な何者は、私を見つめて、ねっとりと不気味に笑った。


私は現実に戻ることなく、そのまま二度と目覚めることのない永遠の眠りについたのだった。

ひっそりと、誰にも救われることなく。

他にも、以下の作品を執筆・連載中です。もしよろしければ、こちらも覗いてみてくださいね!


少女たちに迫る悪夢。青春群像ホラー『群青の嘘 ~港の廃屋と消えた少女~』

▼『群青の嘘』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n5968mp/


1分で読めるショートホラー『隙間奇談 ~日常の「すきま」に潜む、奇妙な短編集~』

▼『隙間奇談』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n5264mo/



二人の不器用なすれ違いの淡い恋『すれ違う思い、重なる夏の記憶 』

▼『すれ違う思い、重なる夏の記憶』はこちらから

https://ncode.syosetu.com/n0281mr/



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