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ゆきどけの蜃気楼  作者: おかピー
第二章 「周章狼狽な毎日」
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第四話 スポーツテスト

運動場に着くと、みなあまりの暑さにけだるそうにしている。体育館では冷房はまだついていないが、直射日光が避けられるということもあって、そんなに暑さを感じない。だが、外はとても暑い。四月の初旬にしては異常な暑さだ。といっても最近はこれが普通になってきているのだけれど、一体全体夏はどうなるのか。想像するだけで、、なんか気持ち悪くなってきた。

すでに女子たちはスポーツテストの種目に取り組んでいて、体操服で握力を測定したり、反復横跳びをタイマー役と交代しながら行っていて…。

...あれ、これ体育館でもよくね。

握力とか、わざわざ外でやる必要なくないか。ただ、暑いだけじゃないか。疑問が神谷の脳内に思い浮かぶ。案外そう思った人もいたそうで、周りからは、ひそひそと先生に聞こえないように話している。だが、それはごく一部の男子だけで、ほとんどの男子が鼻の下を伸ばして、女子を見ている。


「やばい、天国か...?」


クラスの中で一番の変態と言われている男がそう呟いた。それに多くの男子が振り向いて頷く。自称変態の事実として変態な男の子。名前は、沼田土路(ぬまたどろ)。出席番号23番で、髪はおしゃれ坊主。身長は俺よりほんのわずかに、ごくわずかに、ほんとに微々たる差なんだけど5センチぐらい高い。とまあ、こうやって俺が覚えられるようになったのは、鬼谷の件があったからだ。できるだけクラスの人を覚えようと思って、昨日の寝る前に一生懸命覚えた。そのおかげで名前と顔の一致がやっとできた。まあでも、あいつは入学初日からああいう感じのキャラで印象深くてすぐ覚えられた。土路は鼻の下を伸ばしすぎて、もう口がない。鼻の下ってそんなに伸ばせるんだ、と苦笑する。もう、鼻すらも伸び始めているような気がする。っていうか体操服でそんな風になるんだったら、あいつ毎日幸せだなおい。体育祭とかで死ぬんじゃないの。


先生の招集がかかり、みな惜しむように、先生のところへと向かって行く。一方、先程の変態は、その場で動かず、女子を食い入るように見ていて、それにきづいた先生に怒られていた。そして、それに気づいた男子たちも指をさして大声を出して「沼田らしいわ」と言いながら笑っていた。俺もそれに少しつられて笑ってしまった。

その後、全員、おとなしく座って、先生の言うことを聞いたのちに、みんな立って、言われた場所に向かう。俺らの高校のスポーツテストは、出席番号を基準に1グループを作り、その集団で種目を行う場所を巡っていくらしい。俺は1-10の間だから、始めは...握力か。


「さっさと図ろー」


俺がそう言ってみんなもぞろぞろと動き始める。握力を測る場所につくと、俺も握力計を探して、手に持つ。どうやら新品のようで他よりも光っていた。ただ、新品なはずなのに、針で示すタイプなのは一体どういうことなのだろう。そんな疑問も他所にして、思いっきり息を吸って、精一杯はく!


「ふん!」


声を出して握り、結果を見てみると、針が示していたのは45.8㎏だった。点数でいうと、7点。あと0.2㎏あったら8点にいけたから、ちょっと悔しい。左手も握ると、43㎏。ちょっと弱くなったけど、それでも左右の差は小さい方だとは思う。小学校の時は差が10㎏とか平気であったし、成長したのだとは思う。


「神谷終わった?」

「あと一回ずつ」

「わかった!」


待機している男子に聞かれながら、再び右手に握りなおす。もう一度大きく息を吸って、力の限り握ると、少し伸びて45.9㎏となった。ちょっぴり成長したらしい。反対側はかわらず43㎏。さっき声をかけてくれた男子にかけなおして、


「終わったよー」

「お、じゃ俺の番」


握力計を渡して、他の人の方に向かう。ちょうど、鬼谷も終わったみたいで、ぶらぶらと歩いている。歩いているっていうか、立ち止まってる。ぼーっとしていて、ほげぇってしてる。


「鬼谷ーどうだったの?46ぐらい!」

「俺?俺は、56㎏」


ピキッと俺の中の何かが壊れた音がした。それは、多分プライド。


「え、マジ?両方?」

「左が56で、右が58」


握力弱い方言ったのかよ。さらに悔しいわ。でも、それを悟られないように、笑顔で驚いたように返事を返す。


「うわ、満点じゃんすご」

「ありがと」


えぐ、と言って踵を返す。表面ではそういっても、すでに俺の内心はメラメラと燃えている。絶対、何かで勝つ!

全員測定を終えて、次に向かう。次はマットが置かれていてそこで、上体起こしと長座体前屈。まずは、上体起こしから。もうすでに俺は準備完了。あとは、タイマー役の合図を待つだけ。


「じゃあ、いくよ」

「おう!」


ペアの腕が神谷の足元をつかみ、がしッと固定される。それに少しのくさぐったさを感じつつも、よーいスタート、の合図とともに、それを忘れるかのように、ふんふんと鼻息を荒くしながら体を動かす。倒れて、太ももに体を近づけて、また倒れて、を繰り返す。とにかく無我夢中で行い、30秒というわずかな時間のタイマーが鳴るときまで必死で行った。

—タイマーが鳴ると、思いっきり後ろに倒れた。


「疲れたーッ!」


大声を出してそう叫ぶ。体感、100回ぐらいできた気がする。さすがにそこまではいっていないだろうけど、俺の中ではそんぐらいいけた。10点は間違いなくとれるはずだ。少なくとも、今行っている鬼谷より、絶対早い。鬼谷も確かに速いけど、それでも俺には劣る。俺は勝ったと思い、口に不敵な笑みを浮かべて、鬼谷を見る。もっとも、気づいていないようなのだけれど。


「えっと、俺何回だった?50回ぐらい?俺めっちゃ行けた気がするんだけど」


自信が声に乗って、少し自慢するかのように、結果を楽しむかのようにペアに問う。周りで、「50!?」と驚く声が聞こえる。


「えっとーあ、え?」

「…?」


ペアが少し申し訳なさそうに、頭をかく。なんでなんだ。あ、余りにも早すぎて見えなかったのかな。じゃあ仕方がないかもう一回やってあげよう。


「見えなかったんだったらもう一回―」

「―16回。」

「…え?」


もういちど、それは神谷にとって、あまりにも残酷に告げられた。


「16回だよ。神谷の記録」


俺の動きが完全にフリーズする。そして顔が驚きの表情で満ちる。え、じゅうろくかい?あの、じゅうろくかい?たったのじゅうろくかい?近くでぷっと笑う声が聞こえる。どいつか知らないけど後で絶対殺す。


「お前―嘘つくなよー!だって、えー?16回な訳ないじゃん。」

「いや、うん、確かに16回ではなかったんだよ。てか普通に35回以上いってたし」


35、満点の回数だ。


「じゃあ、それならなんで」

「だって、お前やってたとき、背中が地面についてなかったじゃん。」

「…え、それだけ?」

「うん、それだけ。それだけでお前、20回ぐらいカウント減らしてるからね。」

「嘘だーあはは」

「嘘じゃないし、だからお前3点ね。」


てかそもそも、多分絶対、地面に背中つかなければいけないなんてルールないって。

俺は急いで、記録用紙に書かれているルールを確認する。項目が上体起こしのところ。記録の部分を急いで探す。


(1)30秒間の上体起こし(両肘と両大腿部がついた)回数を記録する。

ただし,仰臥姿勢に戻したとき,背中がマットにつかない場合は,回数としな

い。

(2)実施は1回とする。


書いてたわ。全然。あー終わった。絶対鬼谷この種目負けたわ。ま、まあ、他の種目あるし。俺が、一番得意な50m走とか、長座体前屈残ってるから。絶対勝てるし。っていうかそもそもペアのあいつが始まる前に記録の注意事項を教えてくれたらこんなことにはならなかったのに、しかもなんで実施が一回だけなんだよ。握力2回だったのに。初見殺しだって。そう、頭の中で言い訳しながら俺は、次の種目の準備と、ペアの分をするために、場所を変わった。



 ――――――――――――――――――――――


「あ、神谷」


後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。すでにスポーツテストは終了し、教室に向かっている。その声は間違いなく、ともきたちと喋っていた俺に向けて声が発せられた。後ろを向いて、すぐに後悔した。嫌だ、という感情が、訳もなく顔にでてしまう。


「…鬼谷か、何の用。」

「なんで怒ってんの」

「別に、怒ってないし。」

「それにしては、目合わせてくれないじゃん」

「―っ、」


別に怒ってるわけじゃない。すねているわけでもない。ただ、ちょっと悔しいだけ。


―50M走で事件は起きた。50m走は上体起こしの後で行った長座体前屈の次に行われた。たまたま、事件が起きた。50mで、一緒に走る相手が鬼谷で、0.1秒差で負けた。たった、それだけ。それだけで、神谷は激しい悲壮感に打ち立てられた。たった50mを夢中に駆け抜けた神谷の中に、あったはずの熱が、決意が決壊していった。スポーツテストの結果について、神谷は鬼谷にまだ聞けていない。聞けたのは、50m走の前にあった、長座体前屈と、上体起こしだけ。上体起こしの結果は、無論鬼谷の完勝だった。35と16、実に19回の差を広げて神谷は敗北した。だが、対照的に長座体前屈では神谷の圧勝だった。神谷の記録は、57。対して鬼谷の記録は35。17センチの差をつけて神谷が勝利した。あの時の笑顔と言えば大層明るく、あまりにも幼かった。誰もが確信した。この笑顔は守ろう、と。だが彼らの願いはかなわず、あの笑顔はどこかへいってしまった。今では頬を膨らまし、鬼谷に目を合わせようとしていない。



「ちなみに、お前他どうだったの。反復横跳びは」


訳もなく、神谷はそう呟いた。話す言葉が見つからなかっただけだ。すでにともきたちは神谷と鬼谷を置いて教室に戻っている。あとで殺すリストの中に、ともきたちが追加されていた。


「俺は、45。」


その声で神谷に生気が戻る。目が輝き、鬼谷との距離を一歩ずつ詰めていく。


「え、まじ。俺48!」


やった、うれしい!俺は自分でも喜んでいるのがわかるほど声がいつもより違った。


「シャトルランは...いいや、負けてたし。立ち幅跳びとハンドボールは?俺は立ち幅跳びが229で、ハンドボールが28メートル」

「えっと、立ち幅跳びが230で、ハンドボールは32メートル。」


…やっぱこいつ嫌い。俺は鬼谷からさっと下がる。気づけばだいぶ近くにきていたようで、鬼谷の目と口鼻先がすぐそこまで来ていた。そして、下がる前に思ったことがある。それは、


「鬼谷って肌きれいだな」


もとからニキビとかがないのは知っていたけど、近くで見たら毛穴すら空いていない。もともと毛穴なんてなかったように、閉じられている。しっかりとケアしているのがわかった。


「え、あぁ、ありがとう」


少し耳を赤くして、ありがとう、と述べた鬼谷。それに、話の飛躍に混乱しているようだった。その姿が少しレアで、口元がにやけてしまう。


「まあ、次こそは勝つ!割といい勝負だったし。」

「勝負…?」

「あ、やべ」


そういえば、俺一人で勝負してたんだ。1人で勝負して、勝手に負けて。それで落ち込んでるとか、だっさ。それで目を合わせないのとか普通にやばいわ。


「いや、なんもない!さっきはごめん。まじでなにも怒ってないから!」

「それは別にいいけど」


あ、いいんだ。やった。


「よっしゃ、じゃあこれからもよろしくな!」

「あうん、じゃなくて勝負っていっ—」

「―うんじゃあな!またゲームしよ!」


と、俺は鬼谷を置いて、急いで階段を駆け上がり自分の教室へと帰還する。急いで逃げてきたのには理由がある。さっき鬼谷は勝負といった。つまり、おそらく、勝負について言及をするはずだった。そんなこと聞かれたらどうしようもなく恥ずかしい。さすがに嫌だと思い、仲直り(?)をしたらすぐに戻ってきたわけだ。危なかった。教室で着替えてくると、案の定、そりゃ同じクラスなのだから鬼谷がやってきたのだけど、俺に聞きにくるっていうわけでもなく、何事もないように、黙って自分の机に向かって行った。案外、鬼谷はこういうことを気にしないのかもしれない、そう思った神谷であった。

スポーツテスト:文部科学省参照


どうも、おかピーです!四話更新となります。次回の更新は、6月中です!これからもご愛読のほどお願いします!

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