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第三話 運の悪い者

前回までのちょー簡単なあらすじ

仮入部した時に、鬼谷っていう高身長無口系男子が大活躍!すっごくびっくりしちゃった神谷くん。その日に一緒にゲームをして、翌日を迎える!

学校に来て教室の扉を開けると昨日と同じような喧騒で包まれていた。だけど、教室の空気は昨日よりもずっと、ちょっと暑いような気がした。あちこちで昨日の仮入部の話で盛り上がっている。

「どうだった?」「サッカー楽しかったよ」「テニスは普通」「野球部の先輩めっちゃ上手かった」「そりゃそうだろ」

教室の隅々までたくさんの賛辞の言葉が交わされていた。


「おはよー」


そう言いながら自分の席に座る。するとともきが後ろから来た。


「よっ」

「おは、どうだったの野球」


あー野球か、と腕を組んで少し考えるように黙る。しばらくしてから口を開ける。


「まあ上手だった。5人ぐらいめっちゃうめーってやつがいて、10人ぐらいはうまって感じで、ほかは俺のほうが上手だなって思ったよ」

「まじか、化物じゃん」


そう言うと、胸を叩いて鼻を鳴らす。ちょっぴりうざい。

それにしても、中学校から上がりたての高校一年生がスポーツ強豪校の手羅枝高校の野球部に対して自分のほうが強いというのは、才能か、ただの俯瞰なのか。おそらく両方だろう。彼は確かな実力とほんの少しの天然があるのだから。

俺からも部活とか色々話していると、チャイムが鳴った。


「それじゃーなー」


軽く手を振って席につく。授業が始まった。



授業が終わり、休み時間が始まる。次は体育だった。


「やべ、着替えないと。」


女子たちがさっそうと出ていき、男子たちだけの空間が出来上がる。ぞろぞろと着替え始める。

俺も服をカバンから出して着替えは始める。


「うわ、ともき筋肉やば」


少し遠くからそんな声が聞こえた。ざわざわと少し人だかりができている。ちらっと見て、少し目を見開いた。確かに、筋肉すごい。筋肉っていうよりかは腹筋。きれいなシックスパックができていた。


「まあ、野球で鍛えてるからね。」

と自慢するように胸を叩く。中学の時よりもずっと、もっとたくましく。俺とともきは中学校からの幼なじみで、高校もなんやかんやで一緒になった。ともきは違う電車からの方が近いらしくて、電車で会うことはなかった。

そんな小さな喧騒の中、鬼谷は一人で着替えをしていたのを、神谷は見逃さなかった。鬼谷も同様、筋肉がついていたことは誰も気づくことはなかった。気づけるはずがなかった。みな、ともきのことを見ていたのだから。


「...」

目線は自分のおなかに映った。


「俺も筋トレしよ」


何度目かわからない決意を行った。



体育は体育館で行われた。教師が笛を吹いたので、急いで集まる。男子は体育館の半分を使い、女子はもう半分を使う。女子はバドミントンをするらしい。

「今日はバスケットボールを行う。」

...まじか。よりにもよってバスケットボール。俺の一番苦手な種目。だからバスケ部の仮入部行ったのに。でも、もしかしたら昨日の練習で上達していて超絶上手くなっていたり——


そんなことはなかった。

「今から試合やるけど、お前一回見学な」

「...はい」

拒否権無し。悲しい気持ちとは裏腹に試合開始のブザーは無情にも鳴り響く。


「こっちパス!」「あごめん」「もーまんたい!」

「ボール取れたとった」「攻めよ攻めよ!」「まわれまわれ、そこ人いない」


ボールがゴールに入る音、拍手、手を重ねる音。ナイスと歓声が体育館の中で響きあう。

待機メンバーも、大声を出して応援する。俺も気持ちを切り替えて応援する。体育理論の知る見る支えるするみたいなやつだ。応援もきっとスポーツを楽しむための一環、のはず。


「ファイトー!」


点数を入れてはいれられ、もう一度決めては決められ、攻防一体、伯仲叔季だった。

だが、それは時間ともに崩れていった。点数が入れられ、入れられ、入れられる。点数差がついていった。


「あいつやべえ」


チームメイトの誰かがそうつぶやいた。

あいつ――その正体が誰なのか周知の事実だった。鬼谷冬莉だ。防御も、攻めも、全部してる。原因は身長の高さと、圧倒的な運動神経。実力が違いすぎる。あまりにも。バスケットボールって攻める人と守る人を同じ人がするもんなんだっけ?そんな疑問が出てしまうほど、1人で完結させてしまっている。いや、1人では完結させていない。仲間にも適度にボールを渡している。敵がいない、うちやすいところに渡して、それぞれの見せ場を出している。まさにゲームブレイカーだった。それに刮目しているものは何人いただろうか。少なくとも、待機メンバーは釘付けだった。


「あいつ、バレー以外もできんのかよ」


思わず言葉が出る。思わず、笑ってしまう。

また、ポイントが入った。鬼谷がボールを味方に渡して、その味方がシュート。鬼谷がいなければなしえ

なかった。


「...かっこいいな」


その一言が俺の体内を埋め尽くした。素直な気持ちだった。ただ純粋にすごい、かっこいいっていう気持ちが心を埋め尽くした。俺もあんな風に、さすがに無理か。だけど鬼谷みたいに、かっこよくシュートを決めたい。もっと、うまくなりたい。

終了のブザーが鳴る。結果は...散々だった。ダブルスコアに近い点数を取られた。ともきがすごく悔しそうだった。けれど、切り替えは早く、笑顔で礼をしていた。周りのみんなも最後は笑顔で解散していた。

教室に戻り扉が閉まると、空気が爆発した。


「えっとおにたにって言うの?」

「マジであれなに?」

「うますぎない?」

「ってか身長たけーな」

「スポーツ何してんの?」

「部活はどこ入るの?」

「なんでスポーツ科じゃないの?」


何々、数々の疑問が()()に向かって突き刺さる。


「え、は?俺?鬼谷に聞けよ」 

「いや、だって、雰囲気が!ちょっと怖い。なんか、近づくなオーラ出てんじゃん。それでお前仲良いんだろ?」

「仲良いって…別にちょっと話しただけでしゃべったのはほんの二日間ぐらいだ――」

「いや、しゃべったことあるならいいじゃん!」

「普通に本人に聞け。俺もそんなに詳しくない」


えーまじかぁと矢継ぎ早だった会話が終了する。後から聞いた話によると、嘆いていた何人かは、鬼谷と同じ中学だった人を探しているらしい。なかなかいなくて苦戦しているんだそう。


「案外、鬼谷はおもしろいけどな。しゃべってみたら」


そんな一言は教室の熱気にかき消された。


今日はバドミントン部が体育館を利用するので部活はないのだそう。場所の関係で、バレー部もないので、せっかくだし鬼谷と帰ろうと思った。



今日最後の授業のチャイムが鳴り、教室はざわざわと騒ぎはじめた。

部活動の準備をするもの、急いで準備をするもの。その中で鬼谷を探す。鬼谷は、ゆっくりと帰りの準備をしていた。俺は軽く声を大きくして呼びかける。


「あ、鬼谷」

「なに?」

「今日一緒に帰ろ」

「わかった」


まるで業務連絡のような、淡々とした話であっけなく一緒に帰ることが決まった。

陰で、ほらあいつらやっぱ仲いいじゃん、と言われたが、神谷は無視することにした。

終礼を終えると、鬼谷とともに校門へと向かう。


「そういやさ、俺今日ご飯ともきたちと食べてたから知らないんだけど、鬼谷は何食べたの?」

「メロンパン」

「あーそうなんだ」


変なものじゃないことに安心したのもつかの間、

「他は?」

「それだけ、四個食べたから」

「4個!?」


声が裏返った。


「食べすぎじゃない?いくらなんでも」

「そう?美味しかったから」

たべすぎだろ、と内心思った神谷だった。

ふと、空を見上げたら雲の量が少しずつ増えてきていた。


「やべ、雨かな、いそご」


二人とも少し早足で駅へと向かう。

電車に乗るころには、ぱらぱらと雨が降っていた。電車から見える景色は灰色で、いつもよりもずっと、薄暗かった。


「危なかったー、あとちょっとで濡れるところだったわ」

「帰りは濡れるけどね」

「いうなよ。考えないようにしてたのに」

「ごめん」

いいよ、と少し笑う春斗。景色見ててもしょうがないってことで鬼谷の方を見る。鬼谷の髪の毛が、湿気で少し髪が広がっていた。

そういえば、と俺は口を開く。


「鬼谷、お前おにたにって言われてたよ。やっぱむずい名字だわ。っていうか初見殺しみたいな文字してるもん」

「そうなの」

うん、とうなずく。

電車の人混みは少し混んでるぐらいで、ほんのり雨のにおいがしていた。がたんごとんと電車に揺られ、駅に着いた。


「それじゃあね」

「うん、雨気を付けて」

うっす、と返事して手を振って別れる。改札を抜けると、雨はぱらぱらではない量の水が降っていた。

「やば」

鞄を頭に掲げて走って自宅へと向かう。雨で濡れないように時々、雨宿りしながら。



自宅に着いた時にはびしょぬれだった。特に足元。がむしゃらに走っていたら水たまりがあることに気づかず、思いっきり水たまりの中に入ってしまった。うわ!って叫んだら、隣にいた子供がそれ見て笑ってた。冷笑してた。当然、だいぶ恥ずかしかった。


「なんかついてないわ、今日。」

時刻は22:30。すでに寝る準備を終えた神谷は部屋でベッドに寝っ転がっていた。体育が俺の苦手種目だったし、水かかるし、トイレでトイレットペーパーの紙がちょうどなくなるし。いろいろダメな日だった。でも、そんな今日という日もおしまい。明日にはまた違う一日がやってきて、いつか今日も忘れる。そう願って目をつむった。数分後、春斗の部屋からは寝息が聞こえてきた。


次の日にも、体育はあった。心の中で、願う。

バスケはやだバスケはやだバスケはやだバスケはやだバスケはやだバスケはやだバスケはやだバスケはやだバスケはやだ「バスケはやだバスケはやだバス…」

「聞こえてるっつーの」

ともきに頭を叩かれる。まあまあ強い力で。そしてともきはニヤリと笑って、こういった。


「今日も体育館だってよ、いったい何するんだろうね?女子たちはグラウンドなんだって」


願いは届かなかったのかもしれない。また見学する未来が着実に頭に鮮明に浮かんできた。

体育館に着くと、バスケットゴールはすでにおろされていて、ボールも準備されていた。

全員が列にならび、出席を確認すると、先生は開口一番、こう言った。


「えー今日もバスケットボールの方をしていこうとおも―」


その時、体育館の扉が開いて、人が一人入ってきた。もう一人の先生だ。確か、女子の方の担当の先生のはず。

その先生は男子の方の先生を見つけると急いで向かい、確認するかのような口調で言う。

「あの、先生?今日って」

イマイチ声が小さくて何を言っているのか聞こえない。

ただ、俺らの先生がすみません、と謝っているのだけは聞こえた。

2分ぐらいすると、確認を終えたのか先生が戻っていった。俺らの先生は扉から出ていったのを確認すると俺らにむけていった。


「すまんお前ら。今日バスケじゃないわ。スポーツテストを行うから、外靴はいて急いでグラウンドに出てくれ。」

どうやら願いはかなったらしい。スポーツテストもいいのかはわからないが。だが、バスケよりかはいい結果に期待できるだろう。この男子の中で、少し笑顔になっているのは神谷だけだった。みなブーイングだらけだった。


直ぐ向かおうとして、みんなが座っている中1人だけ立って向かって、恥をさらしたのはまた別の話。

今回の話も見てくださりありがとうございます!次回更新予定は五月中旬予定です。それまでの間も他の作品では更新しますので、ぜひお読みください!

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