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占い師の戦い方  作者: キモウサ


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第十六話:戦場のお茶会

お茶会を許されたルナリアは、胸の前で両手を叩いて喜び、くるりと回ってみせた。


「ああ、素敵!ずっとお茶会を開くのが夢でしたのよ」


そんなルナリアを見て、土地神は頭を抱えた。


「おいおい!こんな時にお茶会とか正気かよ」


だが、ルナリアはまったく気にしていないようだ。


ブランシュとしては、ルナリアにさっさとお茶を飲ませて、自分の中へ戻ってもらいたい。


もしルナリアが、甘い匂いを放つ存在の注意を引いているのだとしたら、ブランシュやリュカに危険が及ぶかもしれない。


土地神も、この甘い匂いは血の匂いと混じりたがると言っていた。


それに執事の様子がおかしい。甘い匂いを放ち始めたと、ルナリアと土地神も言っていた。


でもルナリアは、お茶会を開くといって聞かない。それなら、さっさと開かせて終わらせるのが得策というものだ。


そういえば、執事ヴェルナーが乗ってきた馬車はどこへ行ったのだろう。確か御者がいたはずだ。


円形広場を見渡すと、ブランシュたちの反対側の端で待機している様子だった。


あの御者と馬もなんとかしなくてはならない。血の匂いを好む存在が、こちらに向かって来ているのだ。不要な犠牲者は出したくない。


それにルナリアが自分の指示に従うかどうか確かめる必要もある。


「ルナリア、向こうに馬車が見えるでしょ?あれを広場から追い出して」


「お安い御用ですわ」


そう言うと、上機嫌なルナリアは軽く腕を馬車へ向けて振った。

すると、どこからか小さな石が飛んできて、一頭だけつながれていた馬の体に当たった。

それに驚いた馬は走り出した。


「こらっ!止まれ!」


御者が慌てて手綱を引いたが、馬は止まらない。

制止の命令も聞かず、馬は御者を乗せたまま馬車ごと広場から出ていってしまった。


ルナリアは去っていく馬車に、満足げに手を振っている。


「言っておきますけれど、私、街は破壊していませんわよ?落ちていた石を飛ばしただけですもの」


少し得意げにそう言うと、気持ちを切り替えるようにパン、と手を打った。


「さあ、お茶会を始めますわよ!」


ルナリアが手をさっと横へ払った。


するとその前に、優雅なテーブルと椅子が現れた。

刺繍の施された純白のテーブルクロスに、金の縁取りがされたティーカップ。


それを見た土地神が、素っ頓狂な声を上げた。


「キョエッ!?なんじゃこりゃ」


リュカも背伸びをして、テーブルの上を見ようとしていた。


「うふふ。素敵でしょう?さあ、おかけになって」


突然座るよう促された土地神とリュカは、どうしていいか分からず視線を泳がせた。


「いや、俺はあんまり茶を飲むタイプじゃないんだ……」

「えっと、僕もその……あの……」


はっきりとした返事をしない二人に、ルナリアの眉がぴくりと吊り上がった。


「――私のお茶会には、参加したくないと……そうおっしゃるのね?」


その言葉に、土地神とリュカはそろって慌てて飛び上がった。


リュカには土地神が見えていないはずなのに、動きだけはぴたりと揃っていた。


「いやいや、そういうわけじゃなくてよぉ……そう、あれだ! 俺が給仕をやってやるよ」


「ぼ、僕はお茶の作法も知らないから……そうだ!僕が給仕さんをやるよ」


断り文句までそっくりだった。 ルナリアはわずかに頭を後ろへ反らし、冷たい目で土地神とリュカを見据えた。


そこへブランシュが助け舟を出した。


「ルナリア、お茶会に道化師でもいれば楽しいのにね?それと忘れないで、時間がないってこと」


ブランシュは土地神のことが見えていないリュカのことを考えて、慎重に言葉を選んだ。 土地神がお茶を飲んだら、それがリュカの目にどう見えるのか分からない。


それに、ルナリアは甘い匂いの存在の注意を引いているかもしれない。そんな危険な存在のそばに、リュカを座らせるわけにはいかない。


傷の手当をすると言って、ブランシュはリュカをテーブルから少し離れた場所へ連れて行った。


ルナリアは、いかにも仕方ないと言いたげな顔で、一人残された土地神に、顎でテーブルの椅子を示した。


「ちぇっ。俺が生贄かよ」


土地神は渋々自分で椅子を引き、どかっと乱暴に腰を下ろした。


「嬢ちゃん、さっさと茶を出してくれ。すぐにでもここを出たい」


「お待ちなさいな。お茶会には執事が必要なのよ?」


「ハァ?何言ってるんだ、お前。……まさか」


「そのまさかですわ。令嬢の椅子を引くのは執事の仕事と決まっておりますもの」


にこやかにそう言うと、ルナリアは優雅にテーブルの前まで歩いていった。椅子の前で足を止め、ふわりとスカートの裾を――ではなく、神官服の裾を整える。


そして――座らない。


代わりに、ヴェルナーを見る。


ヴェルナーは既に石畳から起き上がり、ふらつきながらも落ちていたムチを拾い終わっていた。手の中でムチの感触を確かめているようだった。


「そこのあなた、執事なんでしょう?」


執事という言葉に反応して、手の中のムチを見ていたヴェルナーがルナリアの方を見た。


目は赤く充血し、眼球が飛び出しそうなほど大きく見開かれている。

口の端からは液体が垂れていた。

もはや、さっきまでのヴェルナーではなかった。


返ってきた声もまた異様だった。かすれ、抑揚がなく、人間味がない。


「……何か……言ったか?」


「ですから、あなたは執事ではないのかと聞いています」


ルナリアはヴェルナーの異変など意にも介さず、涼しい顔で話し続けた。

その態度がヴェルナーのかんに障ったようだ。


いきなりムチを振り上げ、近くの石畳を叩く。


――ピシッ! 


乾いた音が広場に響いた。


「私は……執事……だ。優秀……だ……」


ヴェルナーの異様な様子を見て、土地神はゆるゆると後ずさりし始めた。


「おい、嬢ちゃん。あれはやばいぞ。悪いことは言わねえ。今すぐここを――」


ルナリアは土地神に最後まで言わせず、片手を上げて黙らせた。


「そう、優秀な執事なのね。では執事の務めを果たしなさいな。こちらに来て、この椅子を引いてくださらないかしら」


ルナリアがヴェルナーを執事として扱っている様子に、ブランシュは呆気に取られ、リュカはぽかんと口を開けた。

土地神は泣き顔の仮面のせいで表情こそ見えないが、口元に手を当てていた。


そして当のヴェルナーのこめかみには、ぴきりと青筋が浮かんだ。


「私は……お前の執事などでは……ない!」


「いいえ、あなたは私の執事よ。私が今、そう決めましたの。不服かしら?」


その傲慢きわまりない言葉に、ヴェルナーの顔が歪む。


「男爵家の娘のくせに、生意気な真似を――!」


怒声と同時に、ムチが唸りを上げた。空気を裂き、一直線にルナリアへと迫る黒い閃光。


だがルナリアは身じろぎもしない。口元にうっすら笑みを浮かべると、指を一本立て、それを小さく横へ動かした。


ルナリアの足元の石畳が、小さく動いた。


――ゴトッ


石畳から、手のひらに乗る程度の石の塊が剥がれ、浮き上がり、飛んだ。

まっすぐに飛んでいった石の先は、ヴェルナーの腹だった。


「ぐへっ!?」


情けない悲鳴を上げて、ヴェルナーが吹き飛ばされる。


いつの間にかテーブルからブランシュの隣にまで後退してきていた土地神は、さらに後ずさりしながら警告してきた。


「あの嬢ちゃん、強すぎねぇか。しかも頭がぶっとんでる。お前が制御できなかったのも無理ないぞ」


確かにルナリアは強すぎるのだ。そして制御しにくい。自分の中から出てきたはずなのに、どうしてこうも破天荒なのだろう。


お茶会が終わったとルナリアが認めるまで、彼女はこの場所を動かないだろう。次にお茶会ができる機会など、もうないとルナリアは思っているからだ。


なんとか街を破壊せず、素早くお茶会を終わらせないといけない。


「ルナリア!街を壊さない約束、忘れてない?」


ブランシュの張り上げた声に、ルナリアは振り返って驚いた顔を見せた。


「石畳の石を一つ剥がしただけですわよ?」

「駄目よ!駄目!」


確かに石ひとつの話だが、ここで甘く出れば、ルナリアは調子に乗ってどんどん破壊の規模を広げていくのは分かっている。


この広場には人影はないが、広場を囲む建物には人がまだ残っていておかしくない。

街を出たくても出られない人は、まだ多いはずだった。


「街も壊しちゃだめだし、人も傷つけないで!」


そこでルナリアが、すっと目を細めた。


「人もですって?」

「ええ、人も――」


嫌な予感がして、ブランシュは話を途中で止めてしまった。


ルナリアはゆっくりと振り返り、腹を片手で押さえながら石畳の上で起き上がろうとしているヴェルナーを指さした。


「では、私の執事も傷つけてはいけませんわよね?変な匂いはしますけれど、まだ人のようですし」


「えっ……」


ブランシュは返答に詰まった。


街の人たちは危険な目に遭わせたくない。

ただ、ヴェルナーに関しては別だ。

この広場から出る障害になる。


命までは奪いたくないが、こちらの邪魔をしないくらいには叩きのめす必要がある。


ブランシュはちらりと隣を見る。

そこにはリュカの姿があった。

リュカは執事に痛めつけられた。その分、ヴェルナーを叩きのめしてほしい気持ちもある。


「ルナリア、執事は――」


ブランシュが執事は例外だと言おうとしたとき、ルナリアは手を口元に添え、高笑いを始めた。


「おほほほ!いいでしょう!街も人も傷つけない。その縛り、受け入れましょう。執事を教育するのも女主人の務めですわ!」


そう言ってから、わざとらしく首を傾げ、甘ったるい声で言った。


「早くしないと、お茶も冷めてしまいますものね」



最後までお読みいただきありがとうございます。


短編「モブ令嬢ですが、婚約破棄を回避しようと恋敵を煽ったら人生が変わりました」を投稿しました。読んでいただけると嬉しいです。

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