第10話 対オオカミ決着
「気づいた褒美に教えてやる」
俺は、分身体を消した。
「……っ! まさか分身と戦わされていたとは思いもしなかったよ」
「俺に気づいただけすごいさ」
「癪に障る話し方だね。もう勝ったつもりってことかい?」
図星だ。
事実考えているのだが、問題は、どうやってあまり傷つけずに生きたまま捕えるか、だ。
捕まえるのは殺すよりも労力がかかるからな。できればおとなしく言うことを聞いてくれる形がいいのだが……。
「ふっ! あっ?」
「こうか?」
何も音がしない。勘が鋭い。
壁を出すタイミングを察知して攻撃を止めるとは。
「残念だったね。大技はそう連発できないだろう? ん?」
雨、沼地化。動きの鈍りで接近を止める。
これでもまだ動き回るか。
どうやら戦闘センスがずば抜けているらしい。それだけに特に芸がないのが惜しい。
「これほどの実力で、存在がさほど知られていないなんてな」
「あん? それがどうしたってんだ。知られてないのの何が悪い。育ちが悪いことがバレるってか!」
どうやら本人の触れてほしくないことだったみたいだ。
動きに粗が増えた。
が、やはりといったところ。センスも動きもよかったが、どれも荒削り。おそらくスキルを扱えていないのだろう。優秀なスキルは勇者たちのように、家系として持つことが一般的。
特に知らなければ目の前のオオカミ女のように、自分の体と力の限り戦うことになる。つまるところ、単なる身体能力だけということだ。
しかし、特に優れた血統でないにも関わらず、ここまでの実力ならば、何か持っていてもおかしくない。
指導者に恵まれずにこれなら、これからもっと化けるかもしれない。
ただの情報源にするには惜しい。
パトラには悪いが、このオオカミ女は戦力として引き入れるべきだ。獣人の好物はなんだったか。
いや、今から出しても警戒されるだけか……。
俺は、壁を消し、相手の足場を沼地にした後、即座に固めた。さらに、盛り上げた土で腕を拘束する。
ここまで一瞬の出来事。
音もなく移動していたオオカミ女は、無力にも驚き目を見開くばかりだ。
「いったい何をしやがった!」
「実力がわかったからな。もう戦闘の必要はないと思って拘束させてもらった」
「ふっ。ここまでの実力差だったのか…………そりゃ、あたしに任せるって話だ……」
さすがに土で動けなくさせられるのは初めてだったのか、先ほどまでの威勢はどこかへ消えてしまったようだ。うなだれ、諦めたように微かな笑みを浮かべている。
だが、相手が先に攻めようとしたんだ。これくらいは許してもらおう。
「さて」
俺はオオカミ女のアゴに手を当て、顔を持ち上げた。
「……キスでもするのか。あんた、あたしがいいなんて変わった趣味だな」
「そうじゃない。それに、別にお前を好きというヤツもいるだろう」
「どうだか……」
「そもそも、そんな話じゃない。俺はお前が欲しい」
「……は?」
「お前は何が欲しい?」
「いや、いや待て。あたしはお前の命を狙った張本人だぞ? 相手が誰かわかってて言ってるのか?」
「もちろんだ」
こんな取引も初めてなのか、目を泳がせて考えだした。
疑われても仕方がない。だが、どうしても戦力にして手元に置いておきたい。
拘束こそしたが、俺も誰も特に被害を受けていない。何かするほどの被害は正直受けていない。
どんな気持ちで来たかまでは知らないが、もし仮に金で動いているのだとしたら、そうだとしたら……。
「……信じられないな。あたしの命を簡単にどうこうできるあんたに、あたしができることなんてないはずだ」
「ならば言い方を変えよう。俺が勝ったんだ。お前を飼ってやる。国よりいい環境で過ごす権利を約束しよう」
「だから」
「先ほどの言葉はどういう意味で言ったのかわからないが、俺はかわいい顔してると思う。それに、洗えばもっとキレイになるんじゃないか?」
「は、はあっ!? あんた本当に何言い出してんだ! あ、あたしがかわいいぃ? キレイィ?」
「あ、ああ」
やばい。またミスってしまったみたいだ。
こういうのはきっとパトラとかに任せた方がよかったんだ。
焦ったなぁ。
服従するくらいなら死をみたいにならないといいけど……。
「……それ、本当だろうな」
「もちろんだ。仲間になれ。この実力は正当に評価されるべきだ」
「あたしは負けたんだぞ? 実力不足の間違いじゃないか?」
「疑り深いな。もちろん。俺には勝てなかった。だが、俺は無限にはいない。だから実力者が欲しい。もっとも、国のために死ぬと言うなら俺は止めないが」
「…………」
目だけ伏せるオオカミさん。
やっぱりダメだった気がする。
強者として接しないとと思ったが、それがそもそもの失敗だったか。
オオカミ女がしばしの逡巡の末口を開いた。
「……わかった」
「え」
「わかったって言ってんだよ!」
「本当か?」
オオカミ女は急に黙り込むと、顔を真っ赤にしてまっすぐ見つめてきた。
「ぜひとも仲間にしてくれ!」
「ああ。よろしく」
なんだか、俺への視線が変わったような……。
いや、気のせいだな。達成に気が大きくなってるだけだ。
むしろ、表情、態度の急変が怖いが、反抗を起こすには実力不足だ。中に入られても問題はない。
まあ、そんなことにはならないだろうが。
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