第9話 対オオカミ
壁には石を投げられたような感覚しかなかった。
ただの壁ではないことは国にも知られているだろうし、どのようなもんか実際に目の前にして確かめてるのか。
「この壁、壊せないね?」
「壊せないことはないぞ。今まで壊されたことはないだけで」
「ほとんどおんなじじゃないのかい?」
この様子だとどうやら無闇に攻撃してなかったらしい。腰から下げている剣は無事なようだ。
人とも魔物とも若干違うと思ったが、なるほど、亜人族。犬やオオカミのような見た目の種族か。
人の優秀なヤツより速い気がしていたがそれでか。
「魔王城に来たのに、あんた、人間だね? においでわかる」
「ああそうだ。隠すことじゃないしな」
「やっぱりね。ってことはターゲット自ら出てきてくれたってことかい」
「ターゲット、か。なるほどな。俺を消して勇者は魔王に負けましたってことにしたいのか」
「さあね。でも、そうなんじゃないかい? ま、どっちにしてもあたしには関係ないことだけどね」
国から送られてきたはずなのに、勇者やら国に特に頓着がない。
むしろ頓着がないから選ばれたのか。
歳は俺より少し上か。
背が高く体格もいい褐色の女。くすんだ灰色の髪はボサボサで特に手入れがされている様子はない。
防具はなさそうだと思ったが、軽装すぎる。
言葉遣いや見た目からしてあまり育ちはよくなさそうだな。
「値踏みするような目。あくまで自分が上だと思っている訳だ」
「どんな相手であれ、相手を観察するのは必要だろ?」
「言えてるね。じゃあ教えてあげるよ。今まであたしより強いヤツはいなかった。だからあんたはせいぜい楽しませてくれよ? 勇者もザコだったからね」
目の前を一閃。会話から攻撃までのスピードが速い。
そして、立て続けに攻撃が飛んでくる。
相手がどこにいるのかわからなければ今の一瞬で体はバラバラになっていたかもしれない。
相手は女。しかし、野生みあふれるヤツ。しなやかでありつつも、攻撃的な太刀筋。
本人の自信からしてもそうだが、バドンより明らかに強い。
一度風で吹き飛ばし距離を取る。
「これがあんたの力か」
「ああそうだ」
「ってことはこの壁もあんたの力で」
「そうさ。だいぶ維持しつつ動くことにも慣れてきたんでね」
「その言い方は実力が制御されてるってことだろう? 案外口が軽いんだね」
別に漏れたところでどうということはない。
なんとなくわかることだろう。
それにしても、壁で吹き飛ばしても、体がこわばったようには見えなかった。
勘が鋭いだけあって壁との距離も常に把握できているってことか。
「しかし驚いたな。国にここまでの実力者がいたとはな」
「それは褒めてるのかい? それともおちょくってるのか? なんにせよ、かわしてるだけじゃ勝てないよ!」
確かに相手の言う通りだが、俺としては負けると思っていない。
そもそも俺はほとんど体を動かしていない。
今、俺は分身に戦わせ、上から見下ろしているのだが、相手はそのことに気づく様子はない。
においに敏感みたいだが、その程度でばれるようなやり方はしていないからな。
しかし、動き自体はいいのも事実。俺としてはなぜ勇者のパーティメンバーに選ばれなかったのか不思議なほどだ。おそらく……
「その様子じゃあ、実力は勇者と大差ないんじゃないかい? 攻撃手段がないってのは致命的な弱点だろう?」
性格に難ありといったところか。
攻撃をかわしている内に、性格だけじゃなく、攻撃パターンも見えてきたし、一撃くらって威力を確認しておくか。
「もらった! なっ……」
剣の方が粉々になる程度の実力。
分身の腕は今も健在。
バドンより強くても、俺にとっては微々たる差でしかなかったな。
「攻撃手段がないように見えて。防御力が攻撃になるってわけさ」
「……」
「なにをしている?」
「ふぅ……」
相手は剣の残骸を捨て、短剣を取り出した。
それから、四足獣のように、身を低くし始めた。
が、俺にとってそんなことは関係ない。
「上っ!?」
「ほう?」
「二対一だったのか。通りで余裕そうなわけだよ」
突然上を見上げ、本体である俺と目が合った。二対一だったと気づくとはなかなか鋭いな。
武器を無くしたことで俺に気づいたってところか。
「せっかくだ。俺も本気を出してやるか」
新作を書きました。
「TS薬を同僚にぶっかけられた精神魔法研究者は追放を機に全力を出してみたい〜研究者時代は力を抑えていましたが、晴れて自由の身になったので力を解放していこうと思います〜」
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