第11話 オオカミをキレイキレイ
オオカミを、俺の部屋まで連れてきた。
本当に、人が変わってしまったように、俺の部屋までおとなしくついてきた。
やたらとしっぽを振っているのだが、味方に合図を送っているわけじゃないよな……?
近くに、オオカミ以外の見知らぬ反応はないし、尻尾が見える範囲にクソクはいない。
後ろから刺されることもなく、無事、俺の部屋まで戻ることができた。
こうなると、ちょっと拍子抜けだ。
「まあ、何もないが、少しの間、ゆっくりしていてくれ」
「ゆ、ゆっくりって……。そ、それで? わざわざ部屋に連れ込んで、何する気さ!」
「別に、何ってわけじゃないんだけどな。ただ、もうすぐ来るとは思う」
「もうすぐ? 来る?」
オオカミは、落ち着かない様子で、部屋のものを見て回っては、においを嗅いでいるようだ。
オオカミのような見かけをしている分、鼻がいいのか、新しい場所のにおいが、気になるということだろうか。
俺は、彼女について、詳しいわけじゃないから、細かいことはわからないが、暴れないなら好きにさせていいはずだ。
しかし、思ったより遅いな。
この魔王城で、一際強い反応が、俺の部屋に迫っていることは、確かなんだが……。
「待った? 待ってないよね? すぐだもんね!」
「ああ。そんなに待ってない」
入ってきたのは、もちろん魔王パトラだ。
「獣人の女の子が仲間になってくれるって話、本当?」
「ああ。あそこに、ってあれ? いない……」
「……あれは誰だ?」
「あ、そこにいたのか」
オオカミは、俺以外のことを警戒しているのか、俺の背中にピタリとくっつき、パトラの様子をうかがっている。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だぞ?」
「本当か……?」
「すっかり懐かれちゃったみたいだね。あなた、お名前は?」
「……」
「そういえば、俺も聞いてないな」
「そうか……」
戦闘時の、はつらつとした様子をどこへ置いてきたのか、オオカミは、パッと立ち上がったかと思うと、今度は、迷ったようにうつむいた。
それから、少しの間、口をぱくぱくさせてから、深呼吸してこちらを見てきた。
「ルグレーだ。ただのルグレー」
「ルグレーちゃんかー。よろしくね? 私はパトラ」
「ああ。よろしく、パトラ」
「俺はカイセイだ。よろしくな」
「よろしく! カイセイ!」
「なんか私とカイセイで態度違くない?」
「パトラが驚かせたからだろ。ルグレー、大丈夫だよ。パトラは魔王だけど、いいやつだから」
「魔王だけどって、まあ、そうだけど……」
「マオウ……?」
ルグレーは、キョトンとした顔で、首をかしげた。
すると今度は、大きく目を見開いて、勢いよく飛びのいた。
「ま、魔王!? どう見ても人間じゃないか! まさか、嘘を流させるつもりでこんな演技をしてたのか?」
「違う違う。知られてないだけで、今はパトラが魔王なんだよ」
「わざわざ魔王が変わったとか言わないからね。この魔王城内くらいでしか知らないと思うよ」
またしても驚いたのか、ルグレーはその場にへたり込んでしまった。
「どうした? 大丈夫か?」
「いや、あたしは本当に、狭い世界のことしか知らなかったんだな、と思ってさ」
「それなら、少しずつ知っていけばいいんだ」
「そうそう。私だって、まだまだ知らないことばっかりだし」
「ありがとう」
パトラのことにも少し慣れてきたのか、ルグレーは少しリラックスした様子で笑っている。
短い間だが、これはパトラの人徳だな。
「って、違うよ! そんな話をしに来たんじゃないって。ルグレーちゃんをキレイにしないと」
「あたしをキレイに?」
「ああ。ルグレーから話を聞きたいが、すぐに聞くのは悪いかと思ってな。疲れてるだろう?」
「いや、そんなことはないが」
「遠慮しないの。るグレーちゃんも女の子なんだから。戦った後はケアが重要。カイセイは見ちゃダメだからね」
「じゃあ、なんで俺の部屋なんだよ」
「カイセイの部屋が、一番、シャワールームが整ってるから」
「そうなのか?」
「シャワー……。水か?」
「ルグレーちゃんは水苦手? でも、大丈夫だよ。少しの間だから、じっとしててね」
「ま、待て。何をする気だ? ひゃめへぇ」
二人は俺の部屋でシャワールームに入って行った。
少し、声が漏れて聞こえてくる。
どこかへ出かけていてもいいのだが、誰かが入ってこられると困るし、ここは、壁でも作って少し気をそらしておくかな。
「ぶるるるるるるるるる!」
シャワールームから出てくると、ルグレーは、すっかり汚れの取れたツヤツヤの髪に、キレイな肌へと生まれ変わっていた。
くすんでいた茶色の目にも、光が戻っているように見える。
「元からかわいいお顔をしてたから、ちょっとキレイにすれば光ると思ってたけど、やっぱり、私の目に狂いはなかったね」
「あ、あたしがかわいいって? はは。それはさすがに、何かの冗談だろう?」
「かわいいよー。ね、カイセイ」
「ああ。俺もそう思うぞ」
「そう、なのか? あたしが、かわいい……」
言われ慣れていないのか、ルグレーは目を泳がせて赤くなっている。
そんな様子も、かわいらしいと言えるんじゃないか?
「ふふっ。ちょっと気分が上がってきちゃった。こうなったら、もっとかわいくしたくなっちゃうよね!」




