99 お約束? 知りませんね
次郎君の事も気になると言えば気になるんですが、近々に考えなきゃいけない事が目白押し?
「ハッキリ言って、こっちの方が何百倍も重要なのは判っているんだけど」
「うん、そう言って貰えて僕も安心かなあ」
今の私は、藤巻君とレストランで食事中なんです。ただ、本日の主題は何かというと保留していたプロポーズに対しての回答?
「でも、今更プロポーズの回答っている?」
うん、これが私の本音なんですよね。
何って言うか既に外堀を埋められちゃってるって言うか、藤巻君の事は既に両家公認になってます。藤巻君のご両親も幾度か名古屋に出て来られて会食していますし、うちの家族とも顔合わせを兼ねた食事会も開いています。
「うん、だって、僕はまだ回答を貰っていないからね」
「むぐぅ」
思いっきり良い笑顔でそう宣う藤巻君ですが、此処まで来て結婚が無理ですって言える訳無いですよね。そりゃあ別に結納とかしていませんし、許嫁っていう訳じゃないですが、実質婚約者扱いされていますから!
「性格悪くなったって言われない?」
私はちょっとふくれっ面でそう尋ねる。すると、それはそれは良い笑顔での返事が此れです。
「そうかなぁ? もともと良い性格だねって言われる事はあったけど、悪くなったとは言われた事無いかな?」
「でしょうね~~~~!」
どちらかと言えば、藤巻君っておっとり系に見える容姿なんです。ただ、性格的には本人も自覚していますがちょっと癖が強いんです。コミュ障だって本人も自覚しているし、周りの空気読まないですしね。
「で? 日和さんは僕と結婚してくれますか? お返事欲しいのですが」
そう言いながらポケットから差し出して来たのは定番の例の小さな箱。
「そっかぁ、態々夜景が見えるレストランって珍しいなって思ったんだけど」
「うん、僕も其れなりだと思うけど、日和さんも相当だと思うよ? 此処まで来て感想がそれ?」
笑顔から一転、ジト目で私を見て来るけど、何って言うか照れ臭いんです!
「うん、私も今から新しい恋愛って出来ないだろうし、邦彦君で妥協します。宜しくお願いします」
「酷いなあ。でも、こちらこそ宜しくお願いします」
お互いに顔を見合わせて笑う。まあ、何のかんのと学生時代から考えれば長い付き合いです。
「でも、よかった。本音言うと不安だったんだよね。ほら、日和さんはモテるから」
思いもかけぬ発言に思わず首を傾げる。
私的にはモテている実感何て沸いたことが無い。強いて言えば中学時代に遠回しに言われたくらい? あれだって本人から告白された訳じゃ無いし、ラブレターだって貰った事が無い。
「比較して何だけど、お姉ちゃんはモテてたよ? ラブレターだって今までも何通も貰った事あるのしってるし。それに比べてって言うのは何だけど、私はモテた事って無いけど?」
思わず素で返しちゃいました。思いっきり邦彦君が勘違いしているような気がします。
「うん、日和さんがそう思っててくれたから助かったかな。大学時代だって結構食事とか、みんなで遊びに行こうって誘われなかった?」
「うん、誘われなかったと思う」
大学時代を思い返しても、食事に行こうって誘われた事あったっけ? 中村さんは別カウントとして、それ以外だとせいぜい坂崎君くらいかな? みんなで食事に行くけどとか、カラオケ行くけど行く? って聞かれることくらい。
「日和さんがそういう事に疎くて助かったかな。特に中村さんの事があって以降、何かとアプローチあったから僕的には気になってたんだ。でも、ここで変に動くと何かお金目当てっぽいし、どうすれば良いのか結構悩んでた」
「え? ぜんぜん判らなかったんだけど」
という事は、それ以前から藤巻君は私の事を意識してた? え? そんな気配有ったっけ?
ポカンと藤巻君を見返すと、藤巻君は思いっきり笑い出しました。
「これでも僕なりに頑張ったんだけどなあ。受験の時に太っちゃったから、頑張ってギリギリ予備軍って所まで痩せたし。でも、日和さん、全然気が付かなかったでしょ?」
「え? でも、どっかで藤巻君痩せたねって言った記憶あるよ?」
「それって僕にじゃなく、中村さんとか別の人との会話の中でなく?」
そう言われると一気に自信が無くなってしまう。うん、確かに知り合った頃から比較すると確かに痩せたのは判る。
「でも、どうせならギリメタボ予備軍じゃなくギリセーフじゃないとじゃない?」
実際、BMIの数値とか、腹囲の数値とかで健康かどうかって決まらないんです。血圧だったり、尿酸値だったり、それこそヘモグロビンA1Cであったり、色々と複合的に判断する必要があります。
「うん、まあ継続的に?」
うん、これは結婚しても食事などを含め健康管理には注意しないと駄目っぽいです。
その後、レストランでの食事を終えて藤巻君と我が家へと向かいます。まあ、ここ最近では結構な頻度で我が家に遊びに来ていますし、何なら夕飯まで食べて行きますからね。
今日は初めからお酒が入る予定だったので三島さんが迎えに来てくれました。そして、運転をしない為に車の中での会話が先程の延長となってしまったのは仕方がないと思う。
「でも、結婚するとしても1年以上先になるよね? 焦らなくても良かったんじゃ無いの?」
結婚するとしても、何かと忙しい初期研修医を終えるまでは見送る事で話をしていました。其処を考えれば焦る必要は無かったと思います。
「せめて婚約くらいしておかないと心配だった。研修先も違うし、少しでも安心したかったって言うのが本音」
「そんな心配する必要ないと思うんだけどなあ」
藤巻君が余計な心配をしているだけな気がするんだけど、今度は藤巻君から思わぬ指摘を受けて絶句してしまいました。
「日和さんはそういう心配した事無いんでしょ? 日和さんの持ってる愛情と僕の愛情だと重さとか、質とかが違う気がするんだ。だから何かの拍子でコロッと変わりそうで怖い」
「えっ! そ、そう?」
「うん」
そう言われてしまうと、逆に何かそんな気がしてくるんですが。良く考えれば中身は前世持ちのおばさんですし、何となく自分の子供を見ているような気持ちが無いかと言われれば怪しい。今更、20代前後の気持ちと言われても戸惑う事は間違いない。
「お嬢様、そりゃあ惚れた男は色々と心配するもんですよ。まあ、そこをどう表に出さずしっかりと惚れた女性を物に出来るかが男の甲斐性でもあります」
「三島さんは運転に集中してくださいね! もう、女性を物扱いって時代が違いますよ。今どき、釣った魚に餌を与えないとかなったら即離婚ですよ?」
私達の会話を聞いて、半分笑いながら三島さんが会話に介入して来る。他の運転手さんは聞いていない振りをするんですけど、三島さんは割と普通に会話に入って来るんです。
「これは失礼しました。いやあ、歳をとるとどうしても」
うん、何時もの良く解らない言い訳が出ますが無視です。お茶目で良い人なんですが、時々思いっきり子ども扱いというか、まあ、稀に本当に良いアドバイスをくれる時もあるんですが。
「三島さんは奥さんと結婚前は如何だったんですか?」
何故か此処で藤巻君が三島さんに話しかけました。そして、其処から何か三島さんの昔話が無駄に熱く細かく語られます。
「邦彦君、地雷踏んだね。三島さん、すっごい愛妻家だから」
「いやあ、愛妻家なんて言われると照れますなあ。まあ、妻とは未だにラブラブですが」
「うん、ラブラブは死語」
三島さんが語れば語る程に藤巻君の表情が無になっていきます。ただ、私はそれをBGM代わりに思考を進めました。
そもそも、前世では恋愛敗者なあ。結婚しようって気持ちが根本から薄いのは自覚してるんだよね。
「ゴメン、そこはそうなのかも?」
「え? 其処ってどこ? 若しかしてコロッといくとこ?」
藤巻君が焦った様子ですが、勘違いさせちゃったかぁ。
「違う違う。ほら、私って地味だし臆病だから。恋愛って傷付きたくないから、どうしても一歩引いちゃう所はある。昔から容姿に関してはお姉ちゃんと比べられたし、やっぱりコンプレックスはあるよ」
性格的な物もあると思うけど、やっぱりお姉ちゃんは華がある。良く洋服を貰うけど、同じ服を着ても全然印象が変わるっていうか、私が服に着られているって言うか。
「お姉さんみたいな女性を苦手に思う男も多いと思う。日和さんとは一緒にいて安らぐし、安心出来るから。でも、今までの事はもう良いよね? ごめん、変な事を言って」
自分に自信のない私を励まそうとしてくれたんだと思うけど、こういう事って自分が納得できるっていうか、信じられるかだから。
「私こそゴメン。変な事言って」
私も素直に謝ると、藤巻君が慌てる。
「あ、日和さんが謝らなくて良いって。男性神話、女性神話だっけ? それぞれで抱く考え方が違うって例えだけど、やっぱり男と女だと医学的に見ても考え方が違って当たり前だから。まあ、男性脳女性脳でって考え方は否定されているけど、僕的にはありそうな気はするんだけどね」
「あ、それは私も思う。女性は子供を産んだ瞬間から母親で、男性は子供を育てていく中で父親になるとか言うし。体の構造からして違うんだから考え方が違って当たり前だよね。ホルモンバランスも違うし、そんな事を言うなら毎月の苦しみを男も味わってみろって思う」
私の意見に思いっきり藤巻君は苦笑するし、バックミラー越しで此方を見る三島さんだって苦笑気味?
「でも、こういう話って女性の方が大騒ぎする傾向にあったりするんだよね? なんでかなぁ。男女平等って言うけど、何をもって平等とするかだよね。それぞれの性別内でも平等って有り得ないし」
「うん、それは判る。ただ、話が思いっきりズレ始めている。そもそも、その話題は非常にデリケートな気がする」
「ですなあ。私でもそれは思いますなあ」
どうやら男性には話辛い内容みたいです。こういった話ってお姉ちゃんや中村さんとは普通に話すし、愚痴を言い合ったりするんですけどね。




