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94 忙しい日常

 思わぬ従兄との遭遇がありましたが、それ以降何か大きな騒動も無く時間は過ぎて行きます。


 私の日常は研修医としての生活の中で、休みなども不規則になり夜勤も入る様になって帰る時間もバラバラ。その為に藤巻君とも中々に会う機会が減ってしまっています。


「予想はしていたけど、まず時間が無いのと余裕がない!」


 うん、そう叫んでも何の解決にはならないんですけどね! 食卓で向かいの席に座っていたお母さんが呆れたような表情を浮かべて私を見ています。


「どっちも同じ意味じゃないかしら? それに余裕は自分で作るものとか言うわよ? まあ、昔から要領の悪かった貴方にそれが出来るとは思わないけど」


「うん、無理! そもそも、研修医に人権は無い!」


「馬鹿な事を言わないの」


 思いっきり溜息を吐くお母さんだけど、宿直とか、土日祝日の当番とか、自然と研修医に回されますからね。予定を組む時に自然とそういう雰囲気が作られているんです。勿論、それは私だけじゃ無いんですが、そのせいもあって藤巻君と会う機会も激減してですね。


「でも、前世を知らなければ耐えられないレベルに近いよ? ほんと、良くみんな心が折れずに頑張ってるよね」


 まあ、前世のブラック環境はやはり凄かったですから。


 今後は働き方改革とか、労働環境の改善とか、色々と変化していくはず? ただ、医療関係の改善は結構遅かった記憶がありますし、何と言ってもこの後、例のコロナが待ち構えています。


「そうね。でも、頑張るんでしょ?」


「そりゃあ、此処まで頑張ったんだから。でも、そう言って潰れていく人も結構いたんだなあって今更ながらに痛感してる。どの業界も、あるあるな話なんだろうけどね。たださあ、一億総活躍社会って意味は解るんだけど、本当の主旨から間違って理解されている気がする」


「国民みんなで頑張って働きましょうっていう意味じゃ無いの?」


「違うよ! 思いっきり間違ってるからそれ!」


 最近言われ始めた一億総活躍社会の主旨、最大の課題は人口減少対策何だと思っている。


 1億の人口を維持し、未来に希望を持てる育児環境をが主だったはず。でも、そもそも子供が生まれなければ未来の市場が縮小していくのは避けられない。だから経済は停滞どころか縮小されて行く。


 その為に主旨の中で希望出生率1.8という数字が目標にあるんだけど、出生率は改善される事無く減少の一途を辿る事を知っている。


「子供を生める環境の前に、子供を産みたいと思うかどうかが問題の根底にあるんだろうなあ。私は結局子供が欲しいって思わなかったもん」


 自分一人が生きるのに精一杯だったのは確かだ。それでも、そもそも結婚して家庭を持って、子供を産んで幸せな家庭を作る。ある意味当たり前と思われた生き方に、私は憧れる事は無く人生を終えている。


「ごめんね」


「違うよ。お母さんの所為じゃない。多分だけど、勝手な意見だけど、そういうもんなんだよ。2050年には日本の人口は8000万になるって言われる様になる。日本の人口の3分の1が居なくなるんだよ? でも、その事を真剣に考えてる人って殆ど居なかった。そっから出生率も1を切るようになって、結局2100年には日本人ってどれだけ残ってるんだろ?」


 2100年なんて、自分は生きていないから関係ないって思っている人が殆どじゃないだろうか? でももし私が子供を産んだとしたら、その子供は高い確率で2100年まで生きている。そして、その時の日本がとても幸せだとは思えない。


「いくら何でも悲観しすぎじゃ無いの? 国だって何とかしようとするだろうし」


 うん、お母さんが言いたい事は分かる。でも、結局はそうならなかったんだよね。


「8000万人になったとして、そこまで行くと、もう回復するのは至難の業だと思う。だって、そのうち半数近くが老人だったりするんだよ。妊娠可能な女性の人数は? 経済的に余裕のある人の数は? そう考えると怖くなる。自分の子供をそんな世界を残すのって、凄く怖いんだけど」


 自分達の未来に対し希望を持てない世代。そんな世代を生きる私達の出生率が上がる訳がない。それは今後生まれて来る子供達も同様だろう。経済的な格差が更に拡大し、結婚したくても出来ない人達が増える。結婚しても経済的に厳しく、子供を持てても一人とか。


「否定できない処が辛いわね。でも、こんな言い方は駄目かもだけど、日和に限れば経済的には何とかなるでしょ?」


 確かに今の私は平均的な生涯獲得賃金の何十倍もの資産がある。ただ、お金があったとしても世の中が不安定な状態であれば、幸せな人生を送れるかは不透明だと思う。


「お金が無いよりは断然有利だと思うけど、それで幸せになれるかは不明だから。でも、だからと言って私が何か出来るかって言うと出来る事は殆ど無いんだよね。日本の経済を立て直したり、それこそ人口問題を解決したりなんて無理! あ~~~、もう! 考え出すと鬱になりそう!」


 現状の様々なストレスと将来への不安。心に余裕がない状況だと、そういった物が思いっきり影響して来るのを実感する。


「そう考えるとお母さん達は良い時代を生きて来たのね。少し前に遭った苦しい時代を避けて高度経済成長の波に乗って、勿論バブル崩壊の影響はあったけどバブルの恩恵もあったわ。もっとも、それ以上に娘の齎してくれた恩恵が生半可じゃなかったけど」


 そう言って私にウインクするけど、結構強引な話題転換だね。


 お母さん達の世代は、団塊の世代と言われた人達の若干後になるのかな。ただ、それでも思いっきり高度経済成長期の恩恵は受けていたし、バブルの頃にはブイブイ? 言わせていたらしい。其処ら辺の話は今までに幾度も聞かされています。


「ねえお母さん、何が問題だったんだろう? 私思うんだけど、やっぱりドラマとかかな? ほら、お母さん達には悪いけど、幸せな家庭像ってテレビで観た記憶がない。お母さん達の世代だって24時間働くのが良い事だみたいな感じだったんでしょ?」


「そうねぇ。でも、お母さん的にはやっぱりテレビとかじゃなく、生活が贅沢になった事だと思うわね。昔はもっと質素な生活だったわよ? でも、段々と色んな物が世の中に増えてきて、豊かな生活がおくれる様になって、当たり前だけど其れにはお金が掛かって。結婚や子育てってやっぱり我慢する事が多くなるでしょ? それに我慢できなくなった事が一番の原因じゃないかしら」


 お母さんが結構真顔で話をしてくれる。そして、贅沢になったという部分には少々身につまされてしまう。


「贅沢かあ。確かに贅沢になったよね」


 特にお金に不自由しなくなった事が大きい。外で外食する時なんかも、値段ではなくお店の人気とか、料理の質や味などで判断する。身に着ける衣類なんかは未だにお姉ちゃん任せな所があるけど、そのお姉ちゃんから回って来る衣類の質は確実に上がっていると思う。


「あら、お金のある人はお金を使って経済を回さないと駄目なのよ?」


「今度は何の受け売りですかぁ? 言わんとする事は分からないでもないけど、これ以上の贅沢は私には無理で~す」


 そこまで贅沢している気はなかったけど、ではこれ以上の贅沢と言われても何をすれば良いのか判らない。


「ほら、どうせなら結婚式を盛大にするとかどう? お母さん達の時代には、金鯱ホテルでゴンドラに乗って登場するとか、3回以上のお色直しとか、それこそ色々と派手な演出もあったのよ? 式代で億超えとかも時々のレベルで聞いたわ。勿論テレビや噂の中でだけど」


 結婚式で億超えって、馬鹿じゃ無いだろうか? って思いますが、そんな事を言ったら駄目なんでしょう。


「お菓子まきとかも聞いたことあるけど、今時もうそんな家見た事無いよね。でも、名古屋だとあるんだっけ? あれ? 流石にもう無いよね? でも、あれだって普段はきしめん食べて我慢してお金を貯めるんでしょ? 本当なのかはしらないけど!」


 名古屋は特に結婚式を盛大に行うという噂は聞いたことがあります。過去に名古屋の結婚文化を題材にした映画すら作られたらしいです。ただ、今時は地味婚ですよ! ただ、藤巻君の実家を思い出すと思いっきり不安が沸き上がってきました。


「お母さん、藤巻君の所って親族の数とかが凄いの。数もそうだし、団結力? 一族で牧場経営しているし、曾祖母さんもご存命だし、もし結婚するとして式にご招待ってどの世代まで?」


 我が家の参加者を考えると、それこそ親族側は家族と四日市のお祖母ちゃんくらい? 片手で足りちゃうね! 友人、職場の関係者、恩師などは結構二人でダブルから別枠? うん、圧倒的に比率が偏るね。


「前世であったお姉ちゃんの結婚式は、両家とも身内だけ呼んでレストランの一室で終わったからなあ」


 まあ、今回は藤巻家側で結婚式に参加する人数が読めない処が問題。ただ、それを今から悩んでも仕方が無いと言えば仕方がない。


「お互いバランスをとる事が多いかも? でも、我が家はちょっと特殊かもだしねぇ」


 お母さんも首を傾げますが、親戚付き合いが此処まで無いのは珍しい? でも、一人っ子の家とかは此れが普通になるんじゃないでしょうか?


「うん、まだどうなるか判らない事を悩んでいても仕方ないよね。其処ら辺はチラッと藤巻君に聞いとく。ただ、話が変な方向に言っちゃったけど、お父さんの動向には注意してね? 万が一にでも所在バレしたくないから」


 実家とは縁を切っている状況だけど、お父さんの古くからの友人付き合いにまで口を出す事はしていない。その為、お父さんは今も時々飲みに行ったり、ゴルフに行ったりと交流が続いている。ここ最近は60歳を過ぎて定年を迎えた人達も増えて出かける事も増えてきている。


「そうね。和夫さんの事は話をしておくわ。でも、長男にも見放されるなんてねぇ」


「一番可愛がっていたはずだけど、結婚すると奥さんの方の考え方とかも出て来るから。仲の良かった兄弟がお互いに結婚してから仲が悪くなるとか普通に聞くし。でも、中村さんの所もだけど、厄介な親が多すぎる気がする」


 私の言葉にお母さんは苦笑を浮かべる。目が合った私も思わず苦笑を浮かべてしまった。


「まあ、他人様の家の事を言えないかあ」


「そうねえ。でも、我が家は優秀な娘達のお陰で助かっているわ」


 前世では決して幸せだったとは言い切れないけど、そこまで不幸だったかと言われると何とも言えない。上を見ても切りがないけど、下を見ても切りが無い。


「他の人から見たら色々と反則だけどね。でも、今はお金のありがたみを痛感してる。心に余裕がある」


 前世の事は、今でも時々思い出す。

 決してブラックな仕事環境では無かったと思う。言ってグレーだろうか? 高卒で入社してからその会社一筋だったから、他の会社との比較は出来ないけど。


 毎日6時に起きて、7時過ぎに家を出る。8時半くらいに会社について、定時の6時を過ぎて大体7時に帰社する。月の内数日は8時とか9時になる事もある。決してお給料は高くなかったし、ボーナス何て夏冬合わせて2か月分くらい。それでも、人間関係でギクシャクする事無く仕事が出来ていたのは幸せだったと思う。


 そう、何処にでもある普通の環境だったと思う。ただ、日々の生活の中で少しずつ、少しずつ疲れて行った。私が無趣味だったのもあるかな? リフレッシュ出来る事が殆ど無かった。


「前の人生では、いっつもお金があったらなあって妄想してた。あの時、株を買っていたらとか、それが今生で生かされたから、ほんと世の中って不思議」


 ただ、そもそも逆行転生なんて起きないんだろうけど。そもそも何故、逆行転生が出来たのかもわからない。


「そうね。でも、生まれ変わってから頑張ったでしょ? 今も頑張っているんでしょ? 日和はそれを誇れば良いの」


「でも、もっと何かしなきゃダメなんじゃないかって考えちゃう」


 今が幸せだからこそ、もっと何かをしないといけないんじゃないか。そんな思いが常にある。


「あら、ちゃんと頑張ったじゃない。アメリカ大使館にも行ったわ。あれだって、若しかしたら日和の身に危険があったかもしれないわ。実際、お母さんは行っても良いのか最後まで悩んだわ」


 お母さんの思わぬ告白に私は思わず目を丸くしてしまった。

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― 新着の感想 ―
資産があっても手に職をってことで働こうとするの偉いわ
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