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暗闇の中で

真っ暗だった。

音も無く、風も無く、感覚すら無い。

地に足がつかない感じ。いや、事実ついてはいないのだろう。

何も無い空間を漂っていた。


……ここはどこだろう。


虚ろだった意識がゆっくりと浮上する。

同時に、自分が異常な状況に置かれているのを理解した。

辺りは完全な暗闇で、自分の目が開いているのか閉じているのかわからなくなりそうな程だった。

壁も地面も無く、身体は浮かんでいる。

何でこんなことになったのか、記憶を探るとすぐに答えがわかった。


そうだ。僕は死んだんだ。


つまりここは死後の世界?

なんだかつまらない場所だ。

もっとよく考えようと腕を組みかけた時、視界の隅を何かが横切った。

慌てて後を追うと、それは自分が動かした腕だった。

あれ……? 辺りは真っ暗なのに、やけに身体がはっきりと見える。

というか、自分の身体が自分の物に思えない。

自分で自分に触れてみても、生温かくて柔らかい何か別の物に触ってるみたいだった。

腕は思い通りに動くけど、自分で動かしている感覚が無い。

別の生き物が僕の意思を読んで勝手に動いてるような感じがして気持ちが悪かった。

視線をさらに下に向けて自分の胴体を見てみると、電車に乗っていた時に着ていた服のまま。

汚れも、傷も、血の跡も無い。

まるで新調したかのような自分の身体に、疑問が生まれる。


ここは本当に死後の世界なのか?

辺りを見渡すと、左の方向に何かが見えた。

僕の身体と同じように、暗闇の中でもはっきりと見える。

何とか近づけないかと身体をがむしゃらに動かしてみると、案外すんなりと移動できた。

近づくにつれて、だんだんとその正体がわかってくる。

その何かは少年だった。

黒い髪のショートカットで、力なく空間を漂っている。

肌は白く痩せ気味で、身長は僕より拳一個分ほど高い。

目は閉じられていて意識は無いみたいだ。


そして、なんだか見覚えのある顔だった。


とても大切な……友人だった。


名前は……



―――ゆうた。



そうだ。ゆうただ!

その瞬間、忘れていた記憶が蘇る。

中学生になって、やっとできた初めての友達。

趣味も思考も特徴も全てかけ離れていたのに、なぜか仲良くなれた友達。

一緒にいる時は楽しかった。

学校に行くのも辛くなくなった。

幼い頃憧れていた光景を、やっと手に入れた。


そのはずだったのに。

なぜ忘れていたんだろう。


ゆうたの――死を。


目の前にいる失ったはずの友達。

僕は無意識にその身体を揺さぶっていた。


ゆうたっ! ゆうたっ!!


叫びたいのに声が出ない。

いや、声は出てるはずなのに耳に届かない。

感触もそうだった。

ゆうたの身体に触れているはずなのに、その感覚が全く無い。

さっきまで別の生き物のようだった腕は、だんだんと自分の物に感じられるようになってきたのに。

その手の感覚はまるで、空気を掴んでいるかのようだった。


ゆうたは目を醒まさない。


感触も無く、反応も無い。

辺りには音も無く、光も無い。

本当にここにゆうたがいるのか。

もしかしたら僕が見ているのは幻影なんじゃないか。

そんな考えが浮かんでくる。

それを振り払うように、僕は一層強くゆうたの身体を揺すった。


その時突然、視界がぼやける。

意識が薄くなっていく。

今まで何度も経験した、ループの一日が終わる予兆。


……また、ゆうたを失うのか?


嫌だ!! 絶対に嫌だっ!!!


身体から意識を引き剥がされるような感覚に、必死で抗う。

けれど、まるで何かに強いられるように、理不尽に、僕の思考は停止する。

もう認識すらろくに出来なくなった視界に最後まで映っていたのは、無機物のように眠ったままのゆうたの姿だった。

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