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?回目の土曜日:繰り返した悪夢の果て

ピピピピ、ピピピピ

アラームが鳴る。

ピピピピ、ピピピピ

目を開けると、見慣れた部屋。

ピピピピ、ピピピピ……カチッ。

音を止め、身体を起こす。



5月7日 土曜日 AM7:13



この日付を見るのは何度目だろう。


何度、今日を繰り返したんだろう。


この日々が夢じゃないと気づいたあの日から、僕はあらゆる手を尽くして柏柳を救おうとした。

無理を言って使うルートを変えてもらったり、行くのをやめようと提案したり。

電車に乗るのをやめてバスを使ったりもした。

でも、全て失敗。


バスに乗ったとき、衝撃の理由がわかった。

僕がフロントガラスの外を見ていると、突然進行方向が壁になった。

壁が"現れた"というより、壁に"なった"という感じ。

真っ黒な壁だった。

運転手が慌ててブレーキをかけたけれど間に合わず、そこからは何度も見た光景。


何度も、何度も、柏柳が死ぬところを見た。

どんなに防ごうとしても必ず事故に遭う。

何か人為的なものすら感じる程に。

ひたすらに柏柳の死を繰り返す日々の中で、僕の精神はもうボロボロだった。


一階に降りて朝食のパンを食べる。

テレビはつけない。見なくても内容はわかっている。

食べ終わったら、外を見ながら柏柳からの電話を待つ。

外は相変わらず晴天。ループの間、雨は一度も降っていない。


そろそろか…… 僕がそう思った直後、電話がなる。

電話が来るタイミングまで覚えてしまった。

受話器を取り、柏柳と会話する。

最初の頃にしていた、知らないはずの情報を言ってしまうような失敗はしない。

一度、柏柳にループの事を話してイベントに行くのをやめてもらおうとしたことがあったけど、信じてもらえなかった。

それどころか、僕が行くのを嫌がっていると勘違いされそうになり、それ以来柏柳に本当のことを話すのはやめた。

「じゃあ10時に駅前で」

約束を取り付け、電話を切る。

出かける準備を済ませ玄関のドアを開けると、5月に相応しくない日差しが僕の肌を焼いた。




駅前に着き、時計を確認すると時刻は9時17分。

こんなに早く来る必要が無いことはわかりきっているのに、それでもこの時間に来るのは神宮寺さんに会うためだ。

神宮寺さんがループの最初の頃に感じていた違和感は、回数を重ねるごとに具体的なものになっていった。

自分の手に持っている新品の本を見て「この本、前にも買った事があるような気がします」だとか、僕の顔を見て「浦見さん、つい最近どこかで会いませんでしたか?」というような発言を今までに何度かしている。

神宮寺さんがループに関わっているんじゃないかと思って、あえて神宮寺さんと会わなかったりしたこともあった。

当然意味は無く、柏柳の死を防ぐことはできなかった。

とにかく、時間が巻き戻っているこの状況の中で唯一変化らしいものがあるのは神宮寺さんだけだ。

会わない手は無い。

そんな事を考えていると、丁度こちらに歩いてくる神宮寺さんが目に入る。

「う、うう浦見さん!? あ、えっと……き、奇遇ですね!」

何度目かわからないこの反応。

もう慣れたもので、軽く受け流して本題に入る。

「神宮寺さん、昨日って何してた?」

「昨日、ですか? えぇっと……」

神宮寺さんは小首を傾げて記憶を探るしぐさをする。

「……家で一日中本を読んでました」

自然に言う神宮寺さん。


…………あれ?


「えっと…… 何か違和感とかない? 本当に昨日はずっと家にいた?」

おかしい。昨日までと反応が違う。

今までは、自分の言葉に納得がいかないような様子だったのに、今のリアクションはすごく自然だった。

神宮寺さんは僕の言葉を聞き、少し考えると再び口を開いた。

「はい。昨日は家から一度も出ませんでした。間違いないと思います」

迷いの無い、まっすぐな言葉。

そこには自分の言葉を疑う様子など、微塵も感じられなかった。

「そ、そっか…… 変なこと聞いてごめん」

「いえ……」

神宮寺さんは最後の希望だった。


もしも神宮寺さんが記憶を思い出して、二人でループのことを説明したら、柏柳も信じてくれたかもしれない。

二人で解決策を考えれば、いい案が浮かんだかもしれない。

なにより、一人は辛かった。

これが本当に夢ならと何度も思った。

せめてこの状況を理解してくれる仲間がいれば少しは気も楽だっただろう。

でも、その希望も潰えてしまった。

このままこの悪夢のような日々を延々と繰り返し続けないといけないのだろうか。

僕の心が絶望感で満たされる。


神宮寺さんが必死で何か言っている気がするけど、頭に入ってこなかった。


「浦見君、もう来てたんだ。僕も結構早く来たつもりだったんだけどなぁ」


気がつくと、柏柳が目の前に立っていた。

いつものように楽しげに笑いながら。

これからこの笑顔が血に染まるのかと思うと急に辛くなって、柏柳から目をそらす。

「あれ? どうかしたのかい?」

「さっきからずっと元気が無いんです。何かあったんでしょうか……」

二人が心配そうに見つめてくる。

慌てて僕は二人に向き直ると、わざと明るく見えるように声を出した。

「なんでもないよ! ちょっと寝不足なだけさ! やっぱり連休だと寝るのが遅くなっちゃうよね!」

僕の反応を見て安心したのか、柏柳はため息をつくと再び笑顔を浮かべた。

「じゃあ僕の電話で起こしちゃったかな。ごめんよ、朝早く呼び出して」

そんなに朝早くもないだろうと思ったけど、きっと柏柳も冗談で言ったんだろう。

僕は「あはは」と曖昧な笑いで返す。

「そう……ですか。何事も無いならよかったです。もし何か困ったことがあったらいつでも呼んでください。私にできることならなんでもお手伝いしますから」

そういう神宮寺さんはどうやら納得がいかない様子だ。

やっぱり女の子は勘が鋭いのだろうか。

「ありがとう。その時は頼りにさせてもらうよ。じゃあ柏柳、行こうか」

あまり長居するとさらに心配させてしまいそうなので、柏柳と二人で駅へ向かう。

「じゃあね、神宮寺さん」

「はい。また……」

別れを告げる時の神宮寺さんの不安そうな顔が、妙に印象に残った。




地下鉄の車内。

僕は入り口付近で、窓から外を見つめていた。

目に映るのは暗闇ばかり。

この後、電車は事故を起こす。

きっと柏柳は再び死ぬ。

いろいろ考えて、防ごうとはした。

それでも、ことごとく失敗した。

これ以上僕にはどうすることもできない。

これが悪夢ならどれだけよかっただろう。

終わりの来る夢ならどれだけ楽だっただろう。

僕はもう諦めていた。


「……おっと」


今まで無言だった柏柳が声を出す。

見ると、小さな女の子が柏柳とぶつかってしりもちをついていた。

「ごめんよ。立てるかい?」

柏柳が女の子に手を差し出す。


ああ、そうだ。この子はループの1回目で会った子だ。

この電車に乗るのは2回目のとき以来だから、忘れていた。

日付は変わらないけど、ずいぶん昔の事のように感じる。

最初、柏柳はこの子を守って死んだんだ。

誰かのために死ぬなんて、漫画やライトノベルの好きな柏柳らしいと言えばらしいのかもしれない。


……そうだ。まだ一つ、試していない事があった。


前と同じように、仲良く会話している柏柳と女の子を見て気づく。

本来、真っ先に思い浮かぶはずの方法。

なぜ思いつかなかったんだろう。


「そろそろ次の駅だね。ドアの近くにいると邪魔になるかな」


今まで何度も聞いたその言葉に、身体が硬直するのを感じる。

それでわかった。

なぜ思いつかなかったか。

その答えは簡単だった。

怖かったからだ。


―――突然、車内に金属の擦れ合う耳障りな音が鳴り響く。


電車の急激な減速で、身体が持っていかれそうになる。

近くの手すりにしがみつきながら横を見ると、あの時と同じく女の子を守る柏柳がいた。


怖い。

どうしようもなく怖い。


でも、こんな日々を延々と繰り返すくらいなら。

これが、デッドエンドしかない悪夢なら。



―――僕が代わりに!!



力を振り絞って、柏柳と女の子を覆うように僕の身体を重ねる。

次の瞬間、一際強い衝撃が僕たちを襲った。

刹那の浮遊感の後、壁に背中から叩きつけられる。

腕の中にある二人分の質量が、僕の胸をさらに強く壁に押し付けた。

何かが折れる嫌な感触。

焼け付くような痛み。

込み上げてくる感覚に耐え切れず何かを吐き出すと、それは赤い色をしていた。

頭からも熱いものが流れてきて目の前を赤く染める。

しばらくすると痛みは無くなっていき、寒気のような冷たい何かに変わった。

目を開けると、眩む視界に必死で僕を呼ぶ柏柳と女の子の姿が映る。


やった…… ついに、柏柳を助けられた……


達成感と喜びの中で、僕の意識は闇に消えた。

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