第九章:かすかな残響
放課後を告げるチャイムが鳴り、その日の授業が終わった。
俺は荷物をまとめて教室を出た。しかし、校舎の正面出口へ向かったその時、不意にキハラが俺の前へ立ちはだかった。彼は明るく自信に満ちた笑みを浮かべ、軽く笑いながら口を開いた。
「なあ、カネキ。本当にあそこまで勉強を手伝ったのか?」
俺はいつもの無表情な声で静かに答えた。
「ああ、間違いなく助けてもらった。」
キハラは俺の言葉を疑うことなく信じ、大きく微笑んだ。
「それは良かった! あんなに良い成績を取れたなんて、本当に嬉しいよ。悪いけど、これから会議があるんだ。また後でな、カネキ!」
「また。」
俺は小さく呟き、走り去っていく彼の背中を見送った。
その頃、街の反対側では、ゾランが無残な最期を迎えた暗い路地に冷たい風が吹き荒れていた。
現場は黄色い規制線で囲まれ、凍ったコンクリートに描かれたチョークの跡のそばでは、厚手のコートを着た二人の刑事が事件資料をめくっていた。
片方の刑事は手袋をした両手に息を吹きかけながら言った。
「現場の状況を見る限り、これはホームレス同士の激しい喧嘩だろう。縄張りか金を巡る争いが死者を出した……そんなところじゃないか。」
年上の刑事は手帳を閉じ、小さくため息をついた。
「私もそう思う。この地域ではよくあるパターンだ。これで事件を終わらせよう。」
翌朝。
凍えるような朝だった。
俺はいつも通り早朝に目を覚まし、朝の日課を何事もなく終えると学校へ向かった。
しかし校門に着くと、一人の見覚えのある人物が入口で待っていた。
日向だった。
目が合った瞬間、彼女は一歩前へ出て俺の進路を塞いだ。
「カネキ……」
彼女はためらうような小さな声で言った。
「少しだけ……話せる?」
俺は立ち止まり、彼女を見つめた。
日向は視線を落とし、小さく息を吸った。
「私……本当にごめんなさい。あなたをあんな危険なことに巻き込んでしまって……どうか謝らせて。」
俺は静かに彼女を見つめた。
「謝罪は受け入れる。」
そして続けた。
「でも、これが君が俺に話しかける最後であってほしい。」
日向は驚いたように小さく肩を震わせた。
俺は淡々と続ける。
「君は有名人だ。成績も優秀で、人を惹きつける存在でもある。そんな君と一緒にいるだけで周囲の注目を集める。俺は余計な関心も疑いも欲しくない。」
「それに、君の問題にはもう関わるつもりはない。もしまた何かあったら、警察か家族を頼ってくれ。」
「言いたいことは以上だ。じゃあな。」
返事を待つことなく、俺は彼女の横を通り過ぎた。
冷たい朝の空気を肩で切り裂きながら歩いていく。
日向は校門の前に立ち尽くし、大勢の登校する生徒たちの中へ溶け込んでいく俺の背中を見つめ続けていた。
やがて彼女は、小さくため息をついた。
「……そう。」
彼女は落胆と寂しさの滲む声で、自分自身にそっと呟いた。
「やっぱり……あなたなら、そう言うと思ってた。私はただの他人だもの。あなたが気にかけてくれるはずなんて、ないよね……。」
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
物語の序盤は少しゆっくりとした展開に感じるかもしれません。ですが、物語が進むにつれて、謎や展開、キャラクターたちの物語はさらに深く、より面白くなっていきます。
最後まで楽しんでいただける作品を目指して、一話一話心を込めて書いています。これからも応援していただけたら嬉しいです。




