第三章 移りゆく季節
その日の夕方、俺は自分のアパートへ帰った。
部屋の中は整然としていて、静寂だけが広がっている。
(こんなに疲れているのに……夕食なんて作れるのか。)
小さく呟きながら、重い足取りでキッチンへ向かった。
簡単な食事を作って食べ終えると、疲労が一気に押し寄せる。
そのままベッドへ倒れ込み、夢も見ない深い眠りについた。
翌朝。
いつもの道を歩いて学校へ向かっていると、A組の男子生徒が俺に近づいてきた。
「君、カネキだよね? おはよう。元気?」
彼は礼儀正しく声をかけてきた。
「ああ。元気だよ。君は?」
「俺も元気。」
そう微笑んだ後、少し真剣な表情になる。
「単刀直入に言うよ。A組では一年を通して図書館で勉強会を開くんだ。ぜひ君にも参加してほしい。」
「答える前に、一つ聞いてもいいか。」
俺は彼を見る。
「君の名前は?」
「あっ、そうだった!」
彼は照れ笑いを浮かべた。
「ちゃんと自己紹介してなかったね。俺は木原 ナノ。」
「そうか。」
俺は軽く頷いた。
「クラス全員が参加するなら、俺も参加するよ。」
(昨日の自己紹介は、あまり聞いていなかったな。)
そんなことを考えていると、木原は嬉しそうに笑った。
「よかった! それじゃあ教室でまた。」
手を振りながら彼は去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、俺は思った。
(このクラスでも特に優秀な生徒なんだろう。)
(話し方も自然で、人を惹きつける雰囲気がある。)
授業が始まると、教師が教壇に立った。
「今日は昨年度の内容を軽く復習し、次回から最初の授業に入ります。」
授業が進むにつれ、教室は活発な雰囲気に包まれた。
ほとんどの生徒が積極的に発言し、教師の質問にも次々と答えていく。
ただ一人、俺だけを除いて。
(この教室は……俺が何もしなくても十分賑やかだ。)
やがて最後のチャイムが鳴り、生徒たちは教室を後にした。
教師は静かな教室で一人ノートを見返しながら、満足そうに微笑む。
(今年は、本当に素晴らしいクラスになりそうだ。)
一方その頃、俺は校内を歩き回りながら学校の構造を覚えていた。
気づけば、大きく静かな建物の前に立っていた。
(ここが、みんなで勉強する図書館か。)
本棚を眺めていると――
「え、えっと……カ、カネキ……こ、こんにちは。」
後ろから、緊張した少女の声が聞こえた。
振り返る。
(ああ……。)
(入学初日、ずっと俺を見ていたあの子だ。)
「その……お願いが……い、いや! やっぱり何でもないです! もう見つけたので……気にしないでください!」
少女は顔を赤らめながら慌てて言い直した。
俺が何か言う前に、彼女はくるりと背を向け、そのまま走り去ってしまう。
言いたかったことを言えなかった悔しさが、その背中から伝わってきた。
俺は何も言わず、その姿を見送った。
それからの日々は、静かに流れていった。
授業、図書館での勉強会、体育。
そんな毎日を繰り返すうちに、気づけば数週間が過ぎ、やがて季節は冬へと移り変わる。
ある朝、登校中に冷たい風が頬をかすめた。
灰色の空を見上げながら、俺は小さく呟く。
「……冬が来たか。」
【次回 第一の殺人】
皆さんは、あの少女はカネキに何を伝えようとしていたと思いますか?
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです。




