第二章 突然の溶け込み方
教室の扉が静かに開いた。
整ったスーツを身にまとい、蛍光灯の光を反射する眼鏡をかけた教師が教室へ入ってくる。
さっきまで騒がしかった教室は一瞬で静まり返り、生徒たちは慌てて席へ戻り、姿勢を正した。
教師は一年生に向けて自己紹介を済ませ、新しい学校の規則や厳しい校則について簡潔に説明した。
眼鏡を軽く押し上げながら、穏やかな笑みを浮かべて言う。
「それでは皆さん、高校生活が素晴らしい一年になることを願っています。まずは、お互いを知るために自己紹介から始めましょう。」
最前列の女子生徒が勢いよく手を挙げた。
「先生! 最初に私がやってもいいですか?」
教師は優しく微笑む。
「その意欲は嬉しいですが、順番に行きましょう。一人ずつ立って、自分の名前、これまでの成績や得意なこと、そして今年の目標を話してください。」
生徒たちは一人ずつ前へ立ち、自信に満ちた表情で自己紹介を始めた。
優秀な成績、スポーツ大会での受賞歴、さまざまな特技。
トップクラスの生徒たちらしい自己紹介ばかりだった。
(……少なくとも一つくらいは趣味か特技を言っておくべきだ。)
(A組にいるのに、「何の取り柄もありません」なんて言えば、不自然すぎて逆に疑われる。)
「次。金木 宗千田。」
教師に名前を呼ばれ、俺はゆっくりと立ち上がった。
どこにでもいる普通の高校生に見えるよう意識しながら、表情はできるだけ無機質に保つ。
「金木 宗千田です。」
静かで落ち着いた声で名乗る。
「趣味は絵を描くことです。それと……数学が少し好きです。これから一年、よろしくお願いします。」
話している間、誰とも目を合わせなかった。
視線は床、左、右へと自然に動かし続ける。
自己紹介が終わると、教室には拍手が響いた。
心から拍手する者もいれば、礼儀として軽く拍手する者もいる。
俺は何事もなかったかのように席へ戻った。
その後は昨年度の復習を軽く行い、やがて昼休みを告げるチャイムが鳴る。
教室は再び活気を取り戻し、生徒たちは友人と話したり、お菓子を分け合ったりし始めた。
俺は誰にも気づかれないよう教室を出て、食堂へ向かった。
昼食を済ませると、人の少ない静かな席を見つけ、一人で食事を続ける。
(……このクラスは本当に活気がある。)
(しかも、優秀な生徒ばかりだ。)
そんなことを考えながら一口食べた、その時だった。
「カーーーネキー!」
聞き覚えのある声が食堂中に響き渡る。
顔を上げると、タトマが真っ直ぐこちらへ歩いてきた。
笑ってはいるものの、どこか不満そうな表情を浮かべている。
「なんでC組だなんて嘘をついたんだよ!」
両手をテーブルにつきながら問い詰めてくる。
「……さあ。俺も知らなかった。」
俺は平然と嘘をつきながら、食事を続けた。
「はいはい。そういうことにしておいてやる。」
タトマは目を細める。
「でもさ、本当にA組だったなら、どうやってほぼ満点なんて取ったんだ? 中学じゃ成績は普通だったじゃないか。」
「運が良かっただけだ。」
俺は淡々と答える。
「試験監督が全然見てなかったから、少しだけカンニングできた。」
タトマはしばらく無表情のまま俺を見つめていた。
「……カネキ。本気でそんな話を信じると思ってるのか?」
「いや。」
それだけ呟く。
タトマはため息をつき、これ以上追及するのをやめた。
「まあいいや。それより、新しいクラスメイトとはどうだった?」
「普通。」
短く答える。
「そっか。俺、まだ昼飯食べてないんだ。休み時間も終わりそうだし、また今度話そう!」
そう言うと、タトマは急いで食堂の奥へ走っていった。
その背中を見送りながら、俺は心の中で呟く。
(……できれば、その『また今度』は来ないでほしい。)
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