第28章:偽りの安心をひと口
病院での対峙から、二週間が経過した。
俺はベッドに横たわり、天井を見つめながら、自分の身体の状態を分析していた。そして、こう結論づけた。
「何の違いも感じない。おそらく、以前に薬の服用を中断していた期間を通して、すでにあの薬物なしで生きることに適応していたからだろう。これといって、致命的な変化が起こることはないはずだ」
俺の思考は、あの捜査官――D・Aへと向かった。
「この男は、いったいどこまで知っている? 今まで一度も会ったことがない。それなのに、なぜか妙に見覚えのあるような、不気味な感覚がある」
俺は倦怠感を無視して、身体を起こした。
「今から店に行くべきだな。朝食用の食料を買わないと」
街を歩いていると、角を曲がったところで、一人の男と真正面から鉢合わせした。
服装と外見を見た瞬間、俺は彼が何者なのかを理解した。
FCIの現場捜査官だった。
心臓が激しく鼓動した。
しかし、俺の顔には無邪気で礼儀正しい表情を保ったままだった。
捜査官は俺を注意深く見つめながら言った。
「こんにちは、少年。君は正式に捜査対象人物として登録されている。もちろん、もう一度君の情報を確認する必要があるだけだ。貴重な時間を奪ってしまって申し訳ない」
俺は軽く、礼儀正しい笑みを浮かべた。
「もちろん、構いませんよ。でも、よければ近くのカフェでコーヒーをご馳走させてもらえませんか? そこでゆっくり話を伺うこともできます」
捜査官は眉を上げ、俺のもてなしに困惑した様子を見せた。
「分かった。受けよう」
カフェに入り、俺たちが席に着くと、捜査官は俺の前腕にある小さく薄い傷跡を指差した。
「この傷の原因を知りたい。傷や打撲の跡のように見える」
「ああ、これですか?」
俺は軽く笑った。
「親しい友人と、ちょっとした口論になったんです」
「証拠を提示できるか?」
俺はスマートフォンを取り出し、ナガミとのメッセージ履歴を開いた。
そこには、俺たちの冗談や友情のやり取りが残っていた。
「ご覧の通りです」
捜査官は納得したように頷いた。
「これなら十分に説得力があるな」
彼は俺に身を乗り出した。
「家族と暮らしているのか? 普段、暇な時間は何をしている?」
「一人で暮らしています」
俺は、慣れた悲しげな口調で答えた。
「両親は事故で亡くなりました。私の生活はとても単純です。運動と勉強、それから少しの在宅ワークです」
「仕事をしているのか?」
彼は目を細めながら尋ねた。
「はい。いくつかのデジタル系のフリーランスの仕事をしています。ほとんどは趣味のようなものですが、生活費をまかなえる程度の収入にはなっています」
彼は俺の親戚について、成績について、そしてなぜ競技スポーツをしていないのかについても質問した。
そして、話が終わる頃には、彼が最初に抱いていた疑念は完全に消えていた。
彼は俺を本気で哀れむような目で見つめた。
この少年は、ただの孤独な学生にすぎない。それでも規律正しく、自分の将来を大切にしている。無謀なことをするような人間には思えない。
彼は明らかにそう結論づけた。
「そろそろ失礼する。君は、今回の件とはまったく無関係だ」
そう言いながら、彼は椅子から立ち上がった。
「せめてコーヒー代くらいは私に払わせてください」
「いえ、いえ」
俺はそう言いながら、自分の金を差し出した。
「俺が払います」
「分かった。ありがとう。じゃあな、少年」
彼が去っていく中、俺はその姿が人混みの中へ消えていくのを見つめた。
二度と戻ってこないでほしい。
俺は苦々しく思った。
こんなくだらない演技に、自分のエネルギーを費やしたくはない。
そのとき、ポケットの中でスマートフォンが鳴った。
ヒナタだった。
「今度は何だ?」
俺は尋ねた。
「あなたと、とても重要なことについて話したいの」
彼女の声は鋭く、真剣だった。
「大学の前にあるカフェで会って」
「俺はまだ大学街のカフェに行くような年齢じゃない。それに、君から二言三言聞くためだけに、どうしてそんなところまで行かなきゃいけないんだ?」
俺はそう返した。
「もうふざけないで、カネキ! 私は冗談を言ってるんじゃない!」
彼女は怒鳴るように言い、電話を切った。
俺はため息をついた。
そして、彼らの絶え間ない問題が、自分の肩に重くのしかかってくるのを感じた。
「俺は……お前たち全員から、ほんの少しの安らぎさえ得られないのか?」




