第二章 — 第十四話:「人生とは、ただの不条理なのか?」
「妹が……死んだ? ははは……何だよ、それ。笑えるな!」
遠い過去から、自分自身の声が聞こえてきた。
あの頃、俺はまだ幼い子供だった。
それなのに、その笑い声には背筋が凍るような不気味さがあった。まるで、妹の死など取るに足らない、ただのくだらない冗談であるかのように。
「お前、頭がおかしいのか!? 妹が死んだんだぞ、この馬鹿! 薬でも盛られたんじゃないのか? ははっ!」
俺が笑っているのを見た、見知らぬ男の声が俺を挑発する。
瞬きをする間もなかった。
握り締められた拳が、凄まじい力で俺の顔面を打ち抜いた。
俺の身体は地面へと叩き落とされる。
男は俺を見下ろし、その目には激しい怒りが燃えていた。
「自分の血を分けた家族が死んだっていうのに、何も感じないのか!? お前みたいなガキは本当に気味が悪い! 答えろ!!!」
俺は男を見上げた。
その表情は空っぽだった。
冷たく、何の感情も宿っていなかった。
「……分からない」
「……っ!」
俺は息を呑み、突然目を覚ました。
ベッドの上に座り込み、身体が抑えられないほど震えていた。
シャツは汗で濡れ、胸の鼓動が激しく鳴り響いている。
震える両手で顔を覆いながら、俺は小さく呟いた。
「くそ……あの記憶が、また戻ってきた……」
あの忌まわしい秘密施設での出来事から、約一ヶ月が経っていた。
丸々一ヶ月。
俺は完全に停滞していた。
暗い天井を見つめながら、俺は考えた。
「この一ヶ月、自分に何が起きていたのかすら分からない。何一つ有意義なことをしていない。日課も捨てた。ただ安っぽくてくだらない娯楽に浸って、あの忌々しい痛みから逃げようとしていただけだ。
もう、この人生に耐えられなくなった。十分すぎるほど苦しんだ。これ以上は望まない。
他人を問題に巻き込みたくなくて、自分から孤立した。でも、思い通りにはならなかった。
あらゆる面で、自分自身に課していたものを捨てた。
自分は良くなったと思った。変わったと思った。
……でも、違った」
突然、頭の奥から冷たく嘲笑するような声が響いた。
「でも、娯楽って素晴らしいだろ? ほら、ストレスだってずいぶん減ったじゃないか。あれほど酷かった精神的な負担も、今では大したことない」
俺は顎を強く噛み締めた。
「黙れ」
「『黙れ』か。それがお前の唯一の言葉だな。俺から逃げるために、いつもそれしか言わない」
「お前のくだらない結論なんて聞いてない」
頭の中の騒音を必死に消そうとして、俺はアパートを出た。
そして、近くの食料品店へ向かった。
食事になるようなものは何も買わなかった。
無意識のうちに、何本もの炭酸飲料と安い菓子の袋を手に取り、それらをレジへ置いた。
年老いた店主は、その不健康な食べ物の山を見てから、心配そうな顔で俺を見た。
「坊主……全部、友達との集まりに使うんじゃろ?」
「はい。その通りです」
俺は静かに嘘をついた。
店主の口調や表情、そしてその思考の流れさえも読み取り、これ以上の会話を避けるためだった。
袋を受け取り、黙ったまま店を出た。
午前三時。
部屋は完全な闇に包まれていた。
そこを照らしているのは、スマートフォンから放たれる冷たい青い光だけだった。
周囲の床には、空になった缶や、くしゃくしゃになった包装紙が散らばっている。
俺は一晩のうちに、買ったものをすべて消費してしまった。
すると、心の奥深くに埋もれていた小さな声が問いかけてきた。
「どうして、こんな人間になったんだ、カニキ。今のお前は、本当に自分自身に満足しているのか?」
俺は空っぽの部屋に向かって、苦々しさを込めた鋭い声で叫んだ。
「そんなふうに俺を責めるな! まるで全部の間違った選択をしたのが俺だけみたいに言うな! 黙れ! お前が俺の味方なのか、それとも……俺の中にはいくつもの意見が存在しているのか、もう分からない!」
俺の理性的な思考が、引き下がることなく反論した。
「なぜいつもそんなに敵意をむき出しにする? それはお前らしくない。
お前はただ、自分の間違いを認めたくないだけだ。
だから俺を失望させた。
だから、すべてを崩壊させた。
そして馬鹿げているのは……それだけの価値がなかったことだ」
巨大な精神的圧力が頭蓋骨を二つに引き裂こうとしているかのように感じた。
思考の重みに息が詰まり、俺は浴室へ駆け込んだ。
震える手で薬を探した。
もう、ただ一つだけを望んでいた。
この頭の中の騒音を、ほんの少しでも止めたかった。
俺は普段より多い量を飲み、警告を無視した。
ただ、思考が静まり、ようやく眠れることを願っていた。
次第に視界がぼやけていった。
身体から力が抜け、周囲のすべてが霞んでいく。
完全に意識を失う直前、最後の苦しい思考が唇から漏れた。
「でも……本当の問題は……俺自身、どうしてこんな人間になったのかすら分からないことだ……」
その後も、日々は何の変化もなく過ぎていった。
意味のある出来事など何もなく、日々は互いに混ざり合い、恐ろしいほどの速さで過ぎ去っていった。
俺はまるで目覚めたままの昏睡状態に閉じ込められていた。
完全に迷子だった。
理由も分からないまま、無謀さと自己破壊の海を漂っていた。
精神は完全に崩壊していた。
思い当たる理由は一つしかない。
もう、問題や痛みに耐えられなくなったのだ。
あまりにも多くのものが積み重なりすぎた。
俺の精神は完全に壊れてしまった。
この生き地獄から自分を救える人間がいるのか。
そもそも、救いなど存在するのか。
俺には何も分からなかった。
八月九日、午前十時頃。
俺はソファに横たわったまま、身動き一つせずにいた。
その時――
玄関から、鋭く、何度も続くノックの音が響いた。
俺は驚いた。
奇妙だった。
あり得ないことだった。
これまで、俺の部屋のドアをノックした人間など一人もいなかった。
俺は重い身体を起こし、ゆっくりとドアを開けた。
そして、わずかに目を見開いた。
そこに立っていたのは、ヒナタだった。
「夏休み中に、何しに来たんだ?」
俺と彼女の目が合った瞬間、ヒナタの顔に衝撃と驚愕が浮かんだ。
彼女は一歩後退し、唇をわずかに震わせた。
「やっぱり……何かおかしいと思ってた」
俺が何か言うより先に、彼女は俺を押し退け、部屋の中へ入ってきた。
俺はドアを閉め、振り返った。
そして、冷たく鋭い視線を彼女へ向けた。
「なぜここにいる? 前にも言ったはずだ。もう二度と俺たちは話さないって」
ヒナタは答えた。
「もう……本当に信じられないくらい悲観的ね。あなたがどんな人間なのか、正直分からないわ」
いつものような冗談めいた空気を作ろうとしているものの、その声には普段の自信がなかった。
彼女はもう一度、散らかった部屋を見回してから続けた。
「ただ、今回は本当に緊急の用事があって来たの」
俺は腕を組んだ。
「それは具体的に何だ?」
彼女は俺の方へ向き直った。
「学校は夏の初めに、三つの大きな生徒向けイベントを企画したの。学校側は何度もあなたに電話した。でも、あなたは一度も出なかった。
私は生徒会長だから、あなたの様子を確認して、学校側にも安心してもらいたかったの。先生たちが直接ここへ来なくても済むようにね」
俺はすぐにドアを指差した。
「分かった。目の前にいる生徒会長が俺の安否を確認することに、どういう関係があるのかは知らないが……もう確認しただろ。
なら、そろそろ帰るのが適切だと思う」
ヒナタは動かなかった。
それどころか、深い心配を宿した瞳で俺を見つめた。
「変わったね、カニキ。
顔……真っ青よ。
まるで眠れていないみたい。それに……私には分からないけど、何か痛いことを抱えているように見える。
それに、この部屋……。
あなたがこんなふうに自分の住む場所を放置するなんて、絶対にあり得ない。
あなたに、何か酷いことがあったんでしょう?」
「俺の言葉を一つも聞いていないのか!?」
俺は怒りの滲んだ声で呟いた。
「聞いたわ。でも、真実を知るまで帰らない!」
ヒナタは頑固な態度を崩さず、強い意志を込めて叫んだ。
喉の奥から、黒く歪んだ笑いが漏れた。
彼女の存在を嘲笑うための、苦し紛れの笑いだった。
「ふっ……ははは! 何だ? こんなことをして、お前に何の得があるんだ、ヒナタ?
俺のことを学校に報告するのか?
仮に、お前の意図が本物で、俺を助けようとしているんだとしても……結局、お前はただの障害になるだけだ。
俺の隣には誰も必要ない。
帰れ。
俺なら大丈夫だ」
ヒナタは声を震わせながら叫んだ。
「あなたが何を抱えているのか知りたいの! あなたを助けるために!
私は学校に報告するために来たんじゃない!
あなたを……救いたいから来たの!」
「俺を……救いたい?」
俺は突然、彼女を嘲笑うように笑い出した。
だが、その直後。
声の調子が鋭く、冷たいものへと変わった。
俺の我慢は、少しずつ限界に近づいていた。
「聞け、価値のない偽善者。
俺はお前なんか必要としていない!
誰も必要としていない!
俺は人生のすべてを、周囲にいる人間を憎むことに費やしてきた!
なのに、どうして誰かが見返りもなく俺を助けると思う!?
人間は誰だって、隠された動機か、秘密の目的なしには何もしない!」
俺は一歩前へ進んだ。
胸を大きく上下させながら、抑え込んできた憎しみをすべて彼女へぶつけるように、声を荒らげた。
「それに、俺は自分の私生活に干渉してくる人間が大嫌いなんだ!
分かるか!?
俺はお前のくだらない助けなんて一度も求めていない!
お前が必要だなんて、一度も言っていない!
だから……帰れ!」
怒りを爆発させたことで、俺の身体に残っていた最後の力まで消耗した。
足元がふらついた。
そして、俺は彼女の目の前へ激しく崩れ落ちた。
再び口を開いた時、先ほどまでの怒鳴り声は消えていた。
その代わりに、俺自身が望んでいなかった、凍りついたような絶望が声の底に残っていた。
「お前らは……全員ただの馬鹿だ。
自分自身に嘘をつくのはやめろ。
一体いつから、誰かが本当に俺を助けたいと思った?
この世界にいる人間は、結局、自分自身の利益しか求めていない。
欲しいものを手に入れた瞬間、俺たちを捨てて、どこかへ行く。
俺には……もう、こんなくだらないものに耐えられない……」
部屋は息苦しいほどの静寂に包まれた。
聞こえるのは、俺の荒い呼吸だけだった。
そして、まるで合図でもあったかのように、俺の中に巣食う否定的な思考が意識の奥深くへと爪を突き立て、狂ったように笑い始めた。
「うわぁ……見ろよ、お前を。
この哀れで、弱くて、価値のない人間を。
自分の気持ちを、よりによって女の子にさらけ出すのか?
ついに自分の弱さに屈服したのか?
なんという失望だ。
お前はいつも言っていたじゃないか。
感情なんて、弱者が作り出した無意味な概念にすぎないって」
もう、その嘲笑に耐えられなかった。
俺は強く頭を抱えた。
そしてただ――
自分をこの状態から引きずり出してくれる何かが現れることを、必死に待ち続けた。




