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【余命二年】探索者を夢見たおっさんは、田舎で生き直す ~最期に本気を出したら、救った人たちが放ってくれません~  作者: 待雪 妥当


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帰還者:0人

 どれだけ考えたところでこの違和感は拭えない。緋尋は小さく首を左右に振る。次の瞬間、緋尋の真横を光の線が通り過ぎていた。


 天井から強襲する鳥型のモンスターが緋尋に向かって急降下していたのだが、


(おせ)ぇんだよ……」


 バンッ――と、乾いた銃声が深層に響いていた。次の瞬間、モンスターの頭部が爆散してそのまま肉塊と化して地上に墜落した。


 燐牙の手には漆黒の大型拳銃。しかしその拳銃から轟いた銃声によって引き寄せられるように空中からは鳥型モンスターの群れが一斉に襲い掛かって来る。


「ちょっと……燐牙……」


「どいてろ」


 そのままその手に握られていた拳銃が一瞬で消える。消えたと思えばいきなりガトリング砲が姿を現す。この間、わずか一秒ともいえる速さで燐牙の武装が変化した。


「うっとうしいんだよ……死んどけ」


 そのまま緋尋がすぐに燐牙より後ろに下がって、他の探索者たちも巻き添えにあわないように距離を置く。


 燐牙が両腕でしっかりと握られたガトリング砲から火を噴いた。砲身が真っ赤に染まるまで銃弾がばら撒かれ続ける。その一斉射撃によってモンスターの群れが跡形もなく吹き飛んだ。


――<うおおおおお>


――<武器の切り替ええぐすぎ>

 

――<本来は武器の切り替えって死亡フラグなんだろ?>


――<十数秒かかるって言われてる>


――<えっぐ……やっぱ《踏破者》ってバケモンしかいねぇ>

 

――<たしかスキルの名前は……>


「オレのスキル……《武器庫(アーセナル)》だ。わざわざ武器背負って歩いてる三流とは格が違うってな」


 そう言って、自分の額を親指で小突きながら、


「オレの武器は全部(ここ)にあるんだよ。覚えとけカス」


「燐牙……ウチのリスナーに暴言やめてよ」


「緋尋、おまえさ……《踏破者(クリアラー)》に認定されるのに何年かかった?」


「……五年、だけど?」


 燐牙はふきだすように笑った。


「オレ、三年なんだよね――確かにランキングは十一位で、おまえは七位だが……」


 ポケットに両手を突っ込んだまま、


「追い越すのは時間の問題だろうな」


 そのまま「結局のところ才能ってわけ」と付け足して、拳銃に持ち変えている。


「今の時代は剣より銃なんだよ。いつまでそんな旧世代の武器振り回してんだ?」


 探索者の間でも時折議論される武装問題。


 今や銃火器といった武器も使えるダンジョン攻略にて、剣や槍といった近接武器を使う意味はあるのか?という問題。


 若い世代は特にこれに関して近接武器を使用することが理解できないようでよく掲示板でも言い争っている。


「確かに剣より強いよ銃はね……魔力さえあえば弾丸を込める必要はないし、魔力が高ければどんな武器よりも強い」


 ひとつ咳ばらいをしてから緋尋は話を続ける。


「でもね、魔力がないとそれはただの鉄くずだよ。もし魔力がゼロになったらどうするの? 魔力がなくても、スキルがなくても――肉体の強さに比例する近接武器を選ぶよ」


「魔力保有量が高いオレには関係ない話だ」


「ならこの議論に意味はないよ……みんな燐牙のように魔力が高いわけじゃないんだから――わたしだって、魔力はそんなに高くないから銃は使いたくないだけだよ」


「そうかよ、ならそのまま古い時代に置き去りにされてろ」


 だけど緋尋は内心、戸惑っている。


 確かに探索者のランキングとしては第七位だが、十一位である燐牙は緋尋よりも二年早く《踏破者》と呼ばれるようになった。このままではいつかきっと追い抜かれることは理解している。


 それでも、考えを改めるつもりもない。


「あー、そうそうこの攻略配信終わったらさ」


 更に深層の奥へと進んでいる途中、


「次はオレのチャンネルのゲストで来いよ」


 突然、燐牙はとんでもないことを言い出した。


「どうせそのうちオレのほうが上になるんだからよ。いまのうちに媚び売っといたほうが得だろ?」


――<くっさ>


――<運営はなんでこいつ除名しないの?>


――<これで《踏破者》なんだから終わってる>


――<なんなんこいつ、きっしょ>


――<炎上商法かな?>


――<ってか前も問題起こしてなかった?>


「……あのさぁ」


 燐牙は肩をすくめながら、片手には既に拳銃が取り出されている。そして銃口を配信ドローンに向けたまま、


「画面越しでしかイキれねぇ雑魚。ダンジョンのモンスターと変わらねぇ」


「安全圏からコメント打ってるだけで何ができる? 深層まで降りれるぐらいの実力あんのか?」


――<そりゃ世界に十二人しかいないのはすごいけど……>


――<性格終わってて草>


――<運営ほんまなんでコイツとひひろん組ませた???>


――<深層で単独はさすがに危険なのはわかるけどさ……>


――<おれらがクソ雑魚なんはおっしゃるとおりやけどな>


――<ひーちゃんがかわいそう>


 コメント欄は燐牙への批判で埋め尽くされていた。だがむしろ燃えているぐらいでちょうどいいのか燐牙は愉快そうにコメント眺めている。


「これだけ味方してもらえて緋尋おまえほんと配信の才能はあるよ。顔だけでここまで来れるんだから楽でいいよな。オレんとこのリスナーと違って根暗な感じが吐き気するわ」


「燐牙――――…………」


 緋尋は両目を見開いて、今まででいちばん低い声でその名を呼んだ。


 その表情から笑顔は完全に消えている。


 緋尋を馬鹿にするのはいい――だけど応援してくれているリスナーのことまで侮辱することだけは許せなかった。


 空気が張り詰める。


 その瞬間だった。


 ――ゴォンッ!!!!


 まるで地の底から耳を塞ぎたくなるほどの大きな音が轟いた。突然の異変にダンジョン全体が震え、足元が揺れた。


「……なんだ?」


 燐牙の眉間に皺を寄せたまま、さっきまで浮かべていた余裕も嘲笑も消え去っている。無意識だった。気付けば両手に二挺の拳銃が握られている。


「燐牙」


 緋尋が双剣を持ち直し、燐牙も今だけはふざけることなく頷いた。お互いに既に《踏破者(クリアラー)》として状況を把握している。

 

「あぁ……」


 燐牙も気付いていた。


 地面の下に何かいる――と。


 そう思った次の瞬間だった。


「――ッ!!!?」


 大地が揺れだし、他の探索者たちがざわめく。


「……は?」


 探索者の一人が間抜けな声を上げて、ただそれを見上げていた。


 前方の岩盤が内側から膨らんだような――そして亀裂は入り、何かが飛び出す。


 無数の破片が宙を舞っている。その奥から現われたのは黒い外殻――鋼鉄のような姿。百を超える足。赤黒く発光する複眼。そして視界を埋め尽くすほどの凶悪。


 先程まで笑っていた燐牙もさすがに表情が消えた。そのまま間髪入れずに両手の拳銃が火を噴いていた。しかし怪物は微動だにしない。


「――《武器庫(アーセナル)》ッ!!」


 拳銃からアサルトライフルに切り替えて速射するもこれも通じず。


 そしてこの程度の火力では足りないとすぐに判断した燐牙はすかさず対戦車ライフルに装備を持ち変えていた。


 銃の形こそ現代兵器だが、そこから放たれるのは魔力であり銃の形状で威力が変わるようになっている。大口径から撃ち出される魔力はいかなるモンスターの外皮を撃ち貫く。


 貫く――――

 

「なんだ、こいつ……」


 だが現われたモンスターの身体に間違いなく直撃したはずだというのに外殻に白い痕が残るだけだった。


「…………うそ、でしょ?」


 反射的に緋尋は瞼の下にそっと指を置いて、強く両眼が光り輝く。


 緋尋は世界でも数えるほどしか存在しない二つのスキルを持っている《二重保持者ダブルホルダー》であり、一つは攻撃用のスキルで珍しいものではないが――


 二つあるうちのひとつのスキルが《鑑定眼》だった。


 発動と同時に世界が白く染まり、無数の文字列が視界を埋め尽くす。そして緋尋の視界の奥にモンスターに対しての情報が浮かび上がる。


――――――――――――――――――――

【個体名:黒甲百足ブラック・センチピード


【危険度:終焉級】


【確認個体数:2体】


【討伐記録:0回】


【生存率:0%】


【政府指定:遭遇時即撤退対象】


【レベル…………………………】

――――――――――――――――――――


 人類が確認したモンスターの中で最も危険であるとされる最上位のクラス。世界でまだ二体しか確認されていない生きた災厄。 そのどちらも討伐記録が存在していない。


 深層と呼ばれる危険地帯に、あまりにも他のモンスターの気配がなさすぎること――そしてこの深層に足を踏み込んだ探索者たちが誰一人として帰って来ないこと。


 その全ての理由が、目の前に佇む怪物を前に理解してしまう。


「こいつが……みんなを……」


 何度も口を開閉させながら終焉の名を冠したモンスターが嗤っているように見えた。


 探索者もモンスターもこの凶悪を前に、絶望し逃げることしかできなかったのだろう。誰であろうが喰い潰された――帰って来ないはずだ。


 いちばん下に表示されている終焉級のモンスターのレベルを見て、緋尋の表情が見る見るうちに青ざめていく。


 そのモンスターのレベルは――――()()()()()()()()


 ありえない。


「……は……【899】……?」


 緋尋ですら【600】後半のレベルだというのに、目の前に映る怪物はその遥か上に存在している。


 臆する探索者たち――あの燐牙すら声を失っていた。


 そして、黒甲百足ブラック・センチピードの複眼が――緋尋たちを捉えた。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


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それでは次回もよろしくお願いします。

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