第十二話 私はいったい
あの後、団長に剣を借りて、ルスベリー先輩を抱えながら空を飛んでいた。暴れないようにと警告をしていたのだが結構楽しんでいるようで安心したよ。
「すごいですね、シアハさん。こんなことできたらなんでもありじゃないですか。」
「なんでもできたらあの統一国家とかいう奴をなかったことにしているよ。」
「それもそうですね。ねえ、シアハさん。」
いつもよりかしこまった感じの口調でしゃべり始める。ルスベリー先輩は敬語でしゃべることが多いが、その一方で砕けた感じの声でしゃべることが多い。いったい何を聞きたいのか。
「よければでいいです。なんで手帳は私が死んだところで途切れているのでしょうか。」
「それを聞く?ちょっと暗くて、聞きたくなくなるかもしれないけど。」
「それでも、シアハさんが頑張ったことを聞きたいのです。」
悩みどころだ。頑張ったことなんて世界中の人々を殺しまわって、世界を再生成するための生贄にしたくらいだし。さらに言えば、自殺してこの世から存在ごと抹消するつもりだったから。濁してしゃべるにしても言いづらい。
「ごめん。やっぱり言いたくないや。」
「そうですか。それはすいませんでした。誰しも言いたくないことだってありますもんね。」
「あ、でもヴェルツバイについてはしゃべっていいかもしれない。」
「お、それは誰でしょうか。」
そうルスベリー先輩が言った時にはすでに雪原から建物が見え始めて、巨大な大穴が見え、懐かしい気持ちと二度と来るとは思わなかった人々の墓場があった。私はひとまず、ルスベリー先輩をおろすことに集中して、建物目指して歩きながらしゃべる。
「よっと。じゃあ、ヴェルツバイについて、あいつは私が作った人工生命体だよ。」
「ん?シアハさんの日記にはそんなこと書いてありませんでしたけど。」
「ああ、それね。私が古代文明の人間だから。そん時にいろいろ作ったんだけどその名残がヴェルツバイだよ。」
ルスベリー先輩は驚きを隠せないといった感じで開いた口が止まらない。突き刺すような雪が口に入ってようやく閉じるほどだ。大雪になる前に仕事を済ませなければ。
「まあ、そんで彼が私の作った造物を起動して、各地を荒らしまくっていたんだよ。それが、今回は統一国家だったってこと。」
「なるほど、かなりひどいことをしてくれていますね。」
私のためにしてくれていたなどと言えない。だけれど、決して彼が悪いとは思っていないのだ。すべて、悪意なき善意が、ある人にとっては殺意だっただけで。
「それは、私のためにしてくれたんだよ。彼が。」
「それまたいったいなんででしょうか。」
キョトンとした顔でこちらをのぞき込んでくる。寒いのか若干距離感が近い気がして、後ずさりしそうになってしまう。
「それは、私が世界を作り直すときに憂いなくできるようにかな。」
「それが、手帳に書いてある前の世界ですか?」
「そうだね。基本的にはヴェルツバイは私の命令に従っているし、私のためになるように動いている。」
「なら、なおさらわからないですね。なんで統一国家なんてものを動かしているのでしょうか。救国騎士団に来てシアハさんのところにいればいいのですが。」
「それもできないかな。だって彼は人間じゃないから。人間だけの世界に順応できない。」
昔話をしていたら、私が自殺した大穴の近くの建物までついた。依然として雪は降り注いでおり、踏み込むたびに耳に突き刺す痛快な音がする。私は壊れそうな扉を開けて中に入る。おそらくここにあの移動都市の設計図があるはずだから。
「おー、すごいですね。」
ルスベリー先輩が驚くのも仕方ない。誰も手入れをされていないはずなのにまだ動いているディスプレイたち、それに大量の資料にデータの詰まったものが散乱している。ここにはありとあらゆるデータが潜んでいる。だけれど、移動都市ほどとなるとハードディスクに収まるかどうかほどのデータ量になるはず。
「先輩、こんな感じの白くて長い金属製のものを探してくれませんか。」
「はーい、私に任せてくださいね。」
そう言って、いろんなところを物色しながら探してくれている。私はおそらくここにあるであろうという目星をつけた場所を徹底的に探してみる。次いでにそれがちゃんと動くかもね。
そうして、探しているうちにある一つのディスクからお目当てのものが見つかった。ただ、これを紙とかに移して配るとなると相当な苦労を掛けてしまう。何処かにプリンターはなかっただろうか。
ルスベリー先輩を探そうとしていると、少しいいにおいがしてくる。探索していて気付かなかったが確かにお腹がすくほどに探索していた。それに、一度休むのもいいだろう。おそらくプリンターの位置は目星がついているし何よりでかいからすぐに見つかるだろう。
「ルスベリー先輩!」
大きな声で呼んでみる。反応はくぐもった声で聞こえて少し遠くにいることが分かる。すぐさまそっちに向かってみると料理しているルスベリー先輩がいた。
「あ、シアハさん。なんだか見つからないし、おなかすいたので料理していました。いりますよね。」
そう言って彼女は私にスープのようなものをお出ししてくる。いったいどこから水を持ってきたのかそれにこんなに凝ったものどうやってと思ったが確かにルスベリー先輩は荷物が多そうに見えた。それに、彼女の職分を考える妥当かもしれない。
「ありがとうございます。」
私はそれを受け取って、ゆっくりとすすってみる。温かさがこの極寒に近い極地の地獄に染みわたる。帰るときにはちょっとでも暖かくしておきたいな。
「あ、そうだ。」
私は立ち上がって、ちょっと離れたところにあるプリンターで侵入するための設計図を印刷しに行く。まだ動くのはあの大穴のおかげであるかな。そうなるように作ってあるし。
雑用を終わらせた私はすぐにルスベリー先輩のところに戻ってご飯を食べる。和気あいあいとしながらその後すぐに帰った。
「疲れた。」
一日中動いていたからか、それとも剣を使っていたからか。帰ってきた私は疲れを癒すために身支度を終えたらすぐに寝てしまった。明日は団長のところに行かなければ。
朝起きた私はすぐに資料とともに団長のところに向かおうとした。寮の廊下を走って、すぐに向かおうとしたのだが誰かに捕まれてしまって動くことができなくなってしまう。
「ちょっと誰ですか」
「シアハちゃん。ご飯も食べずにどこに行くつもりかな。」
振り向くと怖い顔したラニウリさんが力強く私の肩をつかんでいた。確かに、ご飯も食べずに団長のところに向かおうとしていたけれど。
「シアハちゃん。急いでいるのはわかるけれどご飯は食べないと気分が落ちちゃうよ。」
「う、それもそうですよね。」
あの後、ラニウリさんと一緒にご飯を食べて、一緒に団長のところまで行くことになった。
いつも通りに扉を開けて中に入る。
「「失礼します。」」
中に入ると珍しく仕事をしないで瞑想をしていた。何処か、死地に向かう前の戦士のように研ぎ澄まされてた空気が出ており、威圧感と美しさが同時に混在していた。
ぱっと目を開けてこちらに微笑みかける姿はまさに天から舞い降りた使者のようだった。私とはまた違う。
「二人ともおはよう。シアハはもう設計図を手に入れたのか。」
「はい、なので皆さんにお話ししたいのですが。」
「いいだろう。ルスベリー、ドークス、そしてグラハムもだ。」
「む、」
「今回だけだ。少しでいい、我慢してくれ。」




