第九話 ヴェルツバイはここに?
あり得ない。あの見た目で私が見間違えるはずない。鉄の塊のような外装に、移動するための強力なタイヤたち。中までは見えないから確証はないけれどそれでも古代文明の時にあった巨大な戦艦のようなものだ。かつてこの移動型の都市があったからこそ強力な外敵にも立ち向かうことができた。
今の都市のほうが私にとっては不気味に見えるが、結界装置にように外敵から身を守る手段さえあれば何とかなるだろう。
不自然にならないようにゆっくりと少しだけ大きな声で驚いたようにしゃべりだす。
「えっと、何でしょうかこれ?兵器でしょうか」
「ああ、おそらくな。だが、これが乗り物である可能性は否定できない。それに」
団長の言葉が一瞬詰まる。何か言いたくないことがあるかのように。団長は逡巡したのちにドークスに何かを持ってきてもらって、その何かを見た瞬間に私はフリーズしてしまった。あれは。
「これは、君の名前が入った手帳だ。まるで未来のことが事細かに書かれているように、」
「それは、」
「勝手に見てしまってすまない。見られたくないこともあったかもしれない。だけれどもこれがあった場所が問題だった。」
団長は鋭い視線を隠さないでこちらを見つめてくる。けれどもその瞳には苦しみが、悲しみが、どうも見えて、彼女を責める気になれない。
「それは、」
言い淀む、書いてあることは私が人類を滅ぼしつくした後まで書いてあるはず。だから、救国騎士団に来た時から、みんなが死ぬまで。その過程が詳しく書いてあるはず。それを団長に見られてしまった。それも何も知らない状態の団長に。
「シアハさん。こんなことを言うのは間違っているかもしれません。ですが、私たちに力を貸してくれませんか。」
「我々は以前と比べ物にならないほどの脅威に晒されている。彼の国が何をしたいのかを教えてほしい。」
それは、私が背負うべき罪であり、帝国がこの現世に顕現したのは間違いなく私が夢の主に情報伝達をミスしたからだろう。本来存在しない何かがこの世界に存在してしまっている。それがあれだけとは限らないのだ。それに、ヴェルツバイがあそこにいるかもしれない。
「わかりました。情報を教えます。ですが、私もあの怪物を止めるために戦います。これだけは譲れません。」
団長やルスベリー先輩はあまりいい顔をしていなかった。私にこんなことをしてほしくないのだろう。もう、戦いに身を置かなくていいようにと。だけれども、あの帝国だけいや、統一国家だけは私が消さなければならない。
「わかった。君の意思を尊重しよう。」
「!ありがとうございます。ではまずどこから話せばいいでしょうか。」
話したいことはいっぱいある。なぜ、私が今、記憶を引き継いだ状態で存在するのか。あの国はいったい何者なのか。あの兵器みたいなものはいったい何なのか。話したいことはいっぱいある。
「そうだな。やはり、あの国が何者なのか俺は聞いておきたい。」
「そうだな。一番の脅威はあれだろう。」
無言だったドークスさんが突然しゃべり始めた。彼もあんまり変わらないし、何か考えていたのだろうか。団長の容貌もあるからまずは帝国兼統一国家について。
「あれは私が昔いた、統一国家と名乗る皇帝を君主とした亡国です。」
「皇帝がいたなら帝国と言ったほうがいいんじゃないでしょうか。」
「それなんですが、一度大きな反乱があって、玉座についた人間を皇帝と認めている人があまりいなく。結果的に彼らは統一国家と名乗り、各地に宣戦布告を仕掛けました。」
「つまり、奴らはまだ古代にいると思っているのだろうか。」
団長の疑問は間違いなくあっていると思うのだが、さすがに突然知らない場所に飛ばされたのにも関わらず、全世界に向けて宣戦布告するとは考えにくい。だから、関わっているのは。
「確かに、そうかもしれません。ですが、私は、ヴェルツバイが、彼らを扇動している。そう考えています。」
「手帳に書いてあった、君の助手のことかい?」
「そうです。彼がもともとの私の目的のために動いた結果、救都は滅びました。」
見られたくない、言いたくないのは間違いなく救都を滅ぼしたのは私が原因だからだ。みんなのためにと思って行動していたら、すべてが裏目にでて、みんなの殺してしまった。たとえ間接的だとしてもだ。
当時のことを思い出して泣きそうになってしまう。だって、私は、誰も悪くないのに、なんでこんなことになったんだろう。
「シアハちゃん。落ち着いて。」
ラニウリさんに諭されて、ゆっくりと深呼吸をする。そうするとある程度は今までの恐怖、罪悪感が和らいで心に平穏をもたらしてくれる。
「すいません取り乱しました。次は、私が記憶をもって、この世界に来たことでしょうか。」
「簡単に言うと。ノームオイルを作っている、夢の主に干渉して、神に等しき存在に世界を書き換えさせました。」
「すまない。もう少し補足をしてもらえないだろうか。」
「そうですね。ノームオイルの真価が現実改変なんですが、それを根本的に世界に行える存在に問いかけたみたいな感じだと思ってください。」
「なるほど、とにかく超常的な存在がいることはわかった。詳しくはまた後で聞こうか。」
まだ、話したいことがいっぱいあるのだが、その言葉を切り裂くように轟音が響く。あの時と同じだ。慌てて窓に走り、外を見上げる。




