第七話 受け入れましょう。
「君も天使だろう。よければでいい、私の養子とならないか。」
「え?」
その言葉に固まってしまう。なんて?。聞き間違いでなければ養子にならないかと言われた。しかも、私も天使とあっさりと言ってしまっている。本来ならここでは救国騎士団に入るかどうかとかを聞かれると思っていた。
正史と全く違う。これでは今まであった情報のアドバンテージがほとんど意味をなさなくなってしまう。これだとヴェルツバイが何を考えて行動しているかすらわからない。なんなら、記憶を継承していてもおかしくない。
返答に困るというのもそうなのだが私にとっては何かが団長に影響を及ぼして、それが今大きな歪になるのではないかと危惧しているところだ。
「返事は後でも構わない。君が天使であることは見ればわかる。そして。」
団長が一方的にこちらに話しかけているところ、ふと私もそちらを見てみると団長は天窮剣を持って掲げるようにすると彼女から隠れていた天使の光輪と羽が生えてくる。美しい銀髪と相まってまるで神が降臨したかのように思える。
「どうかな、信じてくれるかい?」
「ええ、その剣についても気になりますがひとまず納得はしました。」
「それならよかった。」
「ただ、一つだけ問題があります。なんで見ず知らずの私なんでしょうか、天使だから?」
団長は一瞬考えるふりをしてすぐさま答える。
「そうだね、君が天使だからってのは大きいかもしれない。救国騎士団ができる前、私たちが暮らしていた国ではこんな言い伝えがあった。」
「”光り輝く剣を持った天使が我らの救世主となるだろうって”」
「それに踏まえて、この剣は天使にしか扱えない。そしてこの剣を扱えることが救国騎士団団長にふさわしい。」
団長の言うことは、昔聞いたことと同じに聞こえた。あの時の私は救国騎士団がどんな経緯でできたかなんて知らなかったし、天窮剣がそれほど重要な役割を果たしているのは知らなかった。
ただ、団長は団長で、お母さんと呼ぶのはなんだか不思議というか、ちょっと言葉に詰まるというか。なんだか変な感じでいっぱいになりそうだよ。
「わかりました。団長、私はあなたの養子になります。」
「!そうか。では一度この剣を取ってみてくれないか。あと、お母さんって呼んでいいぞ」
「えと、さすがにお母さんとは呼びたくないです...。あ、でも剣は触っていいですか。」
"さすがに強引すぎたか?"
物音にかき消されるほどの小さな声でそう言った。お母さんと呼んでもいいが、それは過去の私含めてのお話で、今の私がお母さんと呼び始めたらもはや怖いだろう。
「ああ、もちろん」
そう言って団長は剣を渡してくれた。本来なら持てないはずの剣が持ててしまう。やっぱり何か、条件が違うのか、それとも忘れていることでもあるのだろうか。
手に取ってみても特に転生前と変わりない。ただ、じっと観察するのもよくないと思ってすぐに団長に返す。
「ああ、そうだ。研究所にいる人たちには新人が来るとあらかじめ報告しておこう。そうだな、明後日には君の研究室を用意しておこう。」
「そんなに早くできるんですか?」
「あそこはね、ちょっと特殊で空き部屋も多いからすぐに行けると思う。」
「まあ、わかりました。」
「ああ、そう最後に。」
団長は区切るように何か声色を変える。その声は優しく何かを包み込むように。
「もし、何か抱えていることがあれば気にせず私に話してほしい。ではシアハ、また今度ね」
そう言って、私を車いすまで連れて行き、すぐに外まで運んでくれる。何か抱えているように見えるほどやつれているのか、精神的に参っているように見えたのか。疑念は止まらず、思考の波に押しつぶされてどうにかなりそうだった。
「あ、シアハさん。終わりましたか。」
寝ているガベーラントと何か小さな本を読んでいたアネモネが待っていてくれた。
「ガベーラント?また寝ていたのか。そうか」
「ひぇ」
扉を閉じる前、団長の怖い声が聞こえてしまった。ああ、ガベーラントは成仏できるといいね。本当に。




