第六話 私は、
「ここが最後だな」
ガベーラントがそう言って指差しているのは団長がいる本部のような場所だった。前は確か、ここに団長の執務室があったはず。アネモネに車いすを押してもらいながら、あの重厚そうな扉を開けて、中に入ろうとする。
思った以上に、清潔な印象を与えてくれる。割と、几帳面な人が掃除しているのだろう。外を走り回った車いすで爆走するのはあまりよろしく思えない。綺麗なところを汚すのは気が引けるからね。
「ねえ、アネモネ。このままここに入っていいのかな。」
「それも、そうですわね。ちょっと待っていてくださいまし。」
そう言って彼女はガベーラントに話しかけに行ってしまった。彼らは少しばかり話した後、ガベーラントが走ってどっかに言ってしまった。それとともにアネモネはこちらに寄り添うように歩んできた。
「今、ガベーラントに室内用の車いすを持ってくるように言いましたわ。確か、掃除担当の人があまり中を汚してほしくないと言っていたのは覚えていますの。」
「だから、室内の車いすが置かれているんだね。」
「そうですわ。ところで一つ聞きたいことがあるのですがよろしくて」
突然、かしこまったかのように彼女は語り掛けてくる。何か、聞きたいこと。私が何者か?それとも、昔の設定が残っているのかな。公国の天才という設定はあれ?そのままかもしれない。どこをどうするかなんてきっちり決めた覚えがない。ただ、この時間軸あたりの世界を生成してほしいと夢の主に頼んだだけだから。
「いいよ、何が聞きたいの。」
「そうですね、いやなら否定してほしいのですが、その、背中の羽って本物ですの?」
え?それを今聞くの。いや確かにね。ほかの人と比べてなんか変な輪っかが浮かんでいたりさ、背中から羽が生えているのは珍しいだろう。だが、つけているとは思わないだろう。
「もちろん、本物だよ。あ、でも触るのはちょっとやめてほしいかな。」
「そうですの。ということはシアハさんはやはり天使様でしたのね。」
「天使様って、そんなたいそうな者じゃあないって」
つい、謙遜してしまう。天使であることは種族として間違いないのだけれど、そんなに敬われるほどに高尚な種族ではない。だけど、私が団長になると決めた時に救世主みたいなことを言われていたことがあったはず。何か伝わっている伝承でもあるのだろうか。
そんなことを考えていると畳まれた車いすを持ってきたガベーラントがちらりと見える。
「二人とも、車いす持ってきたぞ。アネモネ、シアハ、団長から伝言がある。」
「”案内が終わったら最後にシアハを私の執務室に来てくれ。”だそう」
まるでモノマネするかのように胸に手を当てながら大げさにしゃべる。ちょっと変な感じがするけれど。
「芝居っぽいことはやめてくださいまし。伝わりづらいですわよ。」
「そこまで言わなくてもいいだろ。ねえ、シアハ。」
「うーん」
二人に迫られるようにしてここから離れたくなるけれど車いすに乗っているから自分で逃げるのは難しい。それに今歩けないから顔をそらすくらいしかできないや。
「まあいいか、案内の続きしようぜ。」
「まあ、そうですわね。」
他愛もない話をした後に私はアネモネに押されて本部を回っていく。あまり、ここをちゃんと見たことはなかった気がする。私が団長になった時は混乱のさなかいろんなことをさばいていたから。ここまで体系的になっているんだなと感心する。
ある程度、アネモネに解説されつつも最後に団長の執務室まで来た。ノックをすると団長の声が返ってくる。
「入っていい。」
すぐさま扉を開けて中に入る。そうすると、大量の書類に囲まれた団長が仕事しているところが目に入る。
「失礼します。」
「お疲れ様二人とも、今からシアハに話すことは君たちには聞かせることができない。すまないが、外に出てもらってもいいだろうか。」
申し訳なさそうにしている団長にアネモネとガベーラントはすぐに外に出ようとする。聞かせることができないことって何だろうか。
「さて、シアハ、各部門を見てどこがいいと思った。」
ああ、なんだその話か、確かにあまり聞いてほしくないのかもしれない。というよりも私が正直に話してくれるとは限らないから、なるべく話しやすい環境にしたのだろう。二人とも自分のいるところの悪口なんて聞きたくもないだろうから。
「そうですね。医療部門はすごく優しい人ばかりでしたが、同時にノードの残酷さも身に染みました。作戦部門はそうですね。訓練しているようすからは真摯にこの救国騎士団を脅威から守りたいとそう感じさせられる気迫がありました。研究部門はそうですね。自由な人が多いって感じでした。」
「そうか、どこがいいかとかはもう決まっているか?」
優しく問いかけてくる。私は当然、研究部門一択なのだが、それをすぐに伝えてもいいのだろうか。まあ、大丈夫か。
「えーとそうですね、私は研究部門に行きたいなと思いました。もとから、ノームオイル関係の知識はありますし、それに一番貢献できそうなのがここしかないと思ったから。」
「それは...なんでだ?」
「そうですね。なんといえばいいのでしょうか、昔のことはあまり覚えていないのですが、その、ノームオイルを知りたいと思う強い気持ちがあるからですかね。」
まあ、本当は研究部門にいって今すぐに結界装置を改造したいところだけれど。それには、信頼が必要になってくる、だからゆっくりでいい、そして信頼される人になってからここを絶対的に守れるほどの強度を発揮する安息地にして見せる。
「いい心構えだ。シアハ、一つ聞きたいことがある。」
「なんでしょうか」
団長は剣を取って、何かをするような動作をして見せる。そうすると、私と同じ、天使の光輪に、背中から羽が生えてきたのだ。
「君も天使だろう。よければでいい、私の養子とならないか。」
「え?」




