第三話 あれ、おかしいぞ
「ラニウリさん。大変です。団長がまだ残るから撤退するのは待てって言ってました。」
「え、緊急の要件があるっていうのは嘘だったの?」
「なんだか知りませんが、大丈夫だって言ってました。」
「ええ?」
あれ、おかしい。確か、今いる場所がベースキャンプ。そして、その後の書き筋が団長とドークスさんが救都に戻るって話だったはず。ちょっとづつ前とは違う行動をとっている。本来なら私はベースキャンプではなくてどこかの村に止まっているはずだから。
そう考えると、何か、世界を再構築するときにバグが生じた可能性が高い。それとも、夢の主が介入してきたか。だが、私の予測では夢の主に意識はないと思っている。だから、世界を作り替えた時に何か過去のことが残っているのか。それとも小さな影響が凄まじい影響を及ぼしているのか。
考えれば考えるほど深い穴に落ちていく感覚に陥る。おーい、おーいシアハさーん。
その声でふと前を見ると、キスするのではないかというほどに近くまでルスベリー先輩が来ていた。あまりの顔の良さにやられてしまうところだったが飛びのくことで回避することができた。入れ替わったとしてもルスベリー先輩は変わらなくて安心する。
「あ、やっと気づきましたね。」
「すいません...ちょっと考え事してて。」
「それって、あの森に一人でいたことですか?」
「えと...」
返事に困る、痛いところを突いてくる。確かに、あんな場所に一人でぽつんといたら不思議だろう。だが、本来なら存在しないはずの人間がいることになる。公国から、帝国からも存在ごと抹消したはずなのに私は生きている。
そう、私とヴェルツバイだけが消えた世界を作ろうとしたのだ。それも私が帝国に捨てられた段階くらいのところでだ。だが、そうはうまくいくものではなかった。なぜか私はあの場所にいたし、さらに言うとその前の記憶は全くなく、本当にそこに生成されたかのようだった。
ルスベリー先輩の言う通り私が考えていたのはなぜ私は生きているのかと私がなぜあの場所にいるように設定されていたのか、が気になるところではある。確かにあの時死んだはずだったのにだ。
「こら、ルスベリー。困っているでしょ、誰であろうと私たちからしたら変わらないって」
「それはそうですね。すいませんシアハさん、ちょっと気になっただけだったんです。」
「気にしないでいいよ。実際あんなところにいたのは私にもわからないから」
そう言うと、二人とも不思議そうにしている。そりゃそう、言えないのはわかる。だけれども、知らないとなるとかなり話が変わってくる。誘拐からの記憶消去、重罪人の廃棄、最後に、差別による廃棄。触ったら爆発するんじゃないかなくらい考えられることが多い。
ルスベリー先輩はちょっと悩んだ振りをして、ちょっと何かを思い出したかのように外に出ようとした。しかも、ラニウリさんを連れて。
「すいませんシアハさん。ちょっと団長に呼ばれていたのを忘れていました。ここなら安全ですのでゆっくり寝ていてください。」
「えと、わかりました。」
あまりに突然なことですぐに反応することができなかった。さっと外に出て行ったルスベリー先輩たちを追いたいところだったのだが足が痛いのはあまり変わらない。急に用事ができることなんてあるのかな。それとも、答えたことが変だったか。
ゆっくりとさっきまで寝ていたベットに寝る。まさか、私が生きていることが信じられなかった。本当に、生きていることに嫌気がさすような感覚に陥る。私が生きていることは本来はおかしいのに。でも、あの時とは違うことが一つだけある。そう、創造剣を持っていることだから。あの剣を持っているか否かでできることが変わる。
何よりも私が戦えるようになるのが非常に大きい。あの剣に秘めておいた力を扱うには私である証明が必要になるのだが今はどうだろうか。
そう思って起き上がる。ちょっと痛い足を抑えながらも私は剣を取ってみる。
「やっぱり、何も変わってないのかな。」
今、合成技を使うのはできないけれど、灰生物特攻は消えてないはず。ノームオイルを浄化するために作ったやつだから変わってなくて安心する。本来なら、灰人が襲撃してくるはずだから今すぐにでも参戦したいところだが、団長がいるなら犠牲は出ないだろう。
それよりも、誰かに飛び火することが怖いくらいになってくる。
「今日は早めに寝ようかな。」
そう思い、言われた通りにベットに寝ることにした。明日、やることを考えながら。
「へぁあ」
目が覚めた時にはすでに違う場所に飛ばされていた。今世二回目の知らない天井だよ。っておもったけれどここ昔、一週間くらい居たところかもしれない。そう思い起き上がってみるとやっぱり客室に寝かしつけられている。おそらくラニウリさんたちが運んでくれたのだろう。その証に創造剣も机の上に置いてあって、窓からの光に照らされている。
「痛った」
忘れてた、足を怪我しているのに思いっきり飛び上がってしまった。ジーンと足に染みる痛みとともにより脳が鮮明になっていく。けんけん足になりながらも窓のカーテンを開けて光を浴びる。昔はこんな余裕なかったなと思う。劇的な時間だらけで私は休むことを忘れてしまっていたのかもしれない。
だが、まだやるべきこと。いや、残したことがあるはず、だから私は止まるわけにはいかない。そう決意する。
だけど、歩くのが辛いのは違いない。もう一度、ベッドまで戻ろうとすると盛大にこけてしまう。幸い、受け身を取ることに成功したから致命傷を負うことはなかったけど起き上がるのが難しい。
あくせくしていたところ、どたどたと何かが近づく足音とともに扉を蹴り破ってルスベリー先輩が息を切らしながら入ってきた。瞬きする間もなく距離を詰められて話しかけられる。
「シアハさん!大丈夫ですか、意識はありますか。」
「ある、よ。ちょっと慌ててこけちゃっただけだから」
「ちょっといいですか。」
「待っt」
言い切る前にルスベリー先輩は私を担いでどこかに向かっている。廊下を駆け抜け、受付の人に驚かれながら、見知った場所に向かっていることが分かった。間違いない、医療棟にダッシュしていることがよくわかる。
「大丈夫ですよ、ラニウリさんのところに行けば何とかしてくれますから。」
しゃべろうとすると噛んでしまいそうでしゃべれない。それに、救国騎士団敷地内とは言え、ルスベリー先輩がなぞの女の子抱えて医療棟に走っているのはちょっとおかしく思えるだろう。恥ずかしさに耐え切れずにルスベリー先輩の背中に顔を隠そうとしてしまう。だが、これがよくなかった。
「っ!まかせてください。ぶっ飛ばしますよ」
「え!?」
さっきまでのは散歩でもしていたのかと思うほどに爆速で走り出す。背中に丸々ようにしないと風で顔が崩壊しちゃうって。




