第二話 一度落ち着いて
泣き崩れてその後そのまま意識を失ってしまったのかな。起きた時にはすでに森にいなかった。見知らぬ天井と言いたいところなんだけど、昔の記憶がここが遠征するときのキャンプ地の中であることを教えてくれる。
混濁した記憶が昔の私であることを否定しようとしてきてうまく体が動かない。なんだか、体の中に鉛を埋め込まれたかのように前と比べて動きずらさが半端ない。なんていったって若返っていますからね。本来なら動きやすくなるはずなんだけどね、まだ15歳くらいの研究者なんて体力マジでないからね。
重い体を起こして、周囲を見渡すとここはおそらくラニウリさんの診療所かな。それも、診察室とかじゃなくて自室みたいな場所なのかもしれない。ところどころに彼女の私物のようなものが置かれていて私が逃げ出すとか考えてなかったのかな。
それとちゃんと剣は丁寧に私の隣に置いてあって、危なくならないように鞘を見繕ってくれたのかブレード部分が隠されている。ちょっとだけはみ出しているから急速に持ってきたことが分かる。
そう周囲を見渡していると、ドアをガチャリと開ける音とともにラニウリさんとルスベリー先輩が入ってくる。ここで間違えてルスベリー先輩と呼ぼうとしたらびっくりさせてしまうだろう。その辺も注意しないといけないか。
ルスベリー先輩は私を見てびっくりした表情でこちらに駆け寄ってくる。
「起きましたかシアハさん!突然泣き崩れてびっくりしたんですよ。」
「それは...うん。ごめんなさい。」
何とも言えない、実際剣を受け取った瞬間に泣き崩れてそのまま意識を失うっていう。まあ、だいぶみんなからしたら意味不明だろうし、それに、私が直接殺した人はいないとはいえ、彼らが前世で死んだのは大体私の過去のせいだし。なんといえばいいだろうか。私は彼らに何を持って贖罪にすればいいのか。
「シアハちゃん。起きて早々申し訳ないんだけど、健康診断させてもらえないかな。」
白衣を着たラニウリさんはいつもと違う雰囲気を纏っており、いつものやんわりとした感じとは全然違う。私はラニウリさんの指示におとなしく従うことにした。
「それじゃあ、まずは今、一番痛い場所はどこですか。」
「えと、今は包帯を巻いている足です。」
「そうだよね。ここ痛いよね。ルスベリー、ノード抑制剤持ってきて。」
「はーいわかりました。」
ルスベリー先輩はラニウリさんの指示に従ってすぐにその場を離れていった。ノード抑制剤が必要なのは今世も変わらないのか。ノードを治すのは今世ならできるかもしれない。だけど、多分生きているであろうヴェルツバイがどうなっているかが分からない。だから、まだ過去のことが消えたわけではない。
「シアハちゃん、言いたくなかったらいいんだけど、あの剣を持ってからいったい何があったの?」
「それは...」
言えない。さすがに、昔に救国騎士団に救われて、そして、団長の意思を引き継いで、最後は世界を滅ぼして再構築しましたとか言っても意味不明すぎて発狂したのかと思うだろう。まあ、荒唐無稽なことにしか聞こえないし、自分で言うのは憚られる。
もじもじと何を言えばいいのか考えて、悩んで下を向いていた時に急に目の前が真っ暗になるとともに温かい感覚に見舞われる。
「大丈夫だよ、言いたくないことはみんなあるから。ゆっくり、呼吸に集中して落ち着いて。」
言われた通りにする。すーっと息を吸って、ゆっくり吐くように意識する。深呼吸をするとともにラニウリさんがゆっくりと頭をなでてくれる。なんだか子供になったみたいで、ラニウリさんがお母さんに見えてきちゃったよ。
さっきまでのことはあまり気にしないようにしよう。追及してくる人もあまりいないだろうし。あ、でもあの剣がなくなるとさすがに困る。ヴェルツバイと対抗することになった時にあの剣は特効薬のような役割を果たしてくれるから。
ちょっと恥ずかしくなってラニウリさんから離れる。ニコニコ笑顔でこちらにおいでと両手を広げて待っているのだけれど、もう恥ずかしい気持ちが勝っちゃうよ。
微妙な空気を切り裂くようにドアをバーンっと開けて入ってきたのはルスベリー先輩だった。ノード抑制剤を持ってきて。
「あら?私邪魔でしたかね。」
「大丈夫ですルスベリー先輩。そんなことないですから。」
あ、やべ
「シアハさんそれいいですね!これからもルスベリー先輩って呼んでください。」
あ、いいんだ。突然、先輩呼びしたからめっちゃ戸惑うと思っていたんだけれど、彼女的にはいいらしい。よかった、これからうっかり昔の時みたいに話しても大丈夫そう。
「ルスベリー。ノード抑制剤貸して、あと包帯もよろしくね。」
「はいはーい」
てきぱきと注射器のようなものから抑制剤を取り出してくれる。あれ前にも食らったことがあるんだけどまあ痛い。
手袋をして、マスクもして、準備万端のラニウリさんが寄ってくる。
「シアハちゃん、ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね。」
「はいぃ」
注射を打つのはやっぱりいつになっても嫌になってしまう。どれだけ文明を発展させようと無痛にしようとするのは難しい。私は腕をまくって彼女に差し出す。それとともに、注射するところを見ないようにする。こうすればちょっとは怖くないからね。
「ちょっとチクっとするよ。」
「う、」
「はい、よくできました。」
注射が終わって右腕を見るとくまさんマークの絆創膏が張ってあった。こんなかわいいのあったんだと思いながらもまた、扉をこじ開けてきたルスベリー先輩が出てくる。
「ラニウリさん。大変です。団長がまだ残るから撤退するのは待てって言ってました。」




