第四章 第一話 世界に見捨てられた?少女は悲しみに暮れるだろう
”ここは?”
今まで私は一体どこにいたのだろうか。ぼんやりとした記憶しかなく、その記憶も思い出したくない数々に思える。それにしても、雰囲気の悪い森だなと思う。
目の前が真っ暗になるほどに先が見えなくて、木々の匂いが湿気で変になっている。何かがおかしいと感じて、私はすぐさまその場から離れようとする。
「痛った!」
立ち上がろうとすると足から強烈な痛みを伴う。今の私の状況がどうなっているのかをぼやけた頭では把握しようとしていなかった。改めて、脚を見ると何者かに切り裂かれたかのようにな傷跡があってとても歩くのがつらいだろう。
ここから離脱するのは難しいかもしれない。持ち物なんてものはないし、誰かに連れてこられたのだろう。それに、服も奴隷が切るような布切れに過ぎないし、肌を守るには適していない。
仕方ない痛みを伴ってでも動くしかないかと思い、歩き始める。目的は森から抜けることなのだが、もし野生動物に襲われたら間違いなく死んでしまうし、灰生物なんて出てきたらすぐに死んでしまう。
のそのそと歩きながらも、周囲の警戒を怠らずに私はこの森を果てしなくさまよっていくのだろうか。
そんな暗い感情に包まれて、失明しそうになりそうな私に一筋の光が差し込む。
”なにこれ...”
私が見た、暗い森の中に差し込む光に誘われてその場所に向かおうとする。そこに鎮座していたのは光る剣だった。それも、まるで私を導くように。
その導きに従うように私はその剣を取ろうとする。草木をかき分けてその柄を取ろうとしたその時。
「痛ったい!」
剣を取らせまいと何者かに弾き飛ばされた。運よく草がクッションになって何とか意識を保っているが絶望するにふさわしい光景だった。
「あ、ああ...」
今、一番合いたくなかったキメラだった。その姿は赤黒いノームオイルに包まれており、とても人には勝てなさそうな見た目をしていて、逃げられそうにない。
生物を掛け合わせたかのような彼の者には様々な器官が生えており、その目が私を狩り殺さんとしていて、恐怖で足がすくんで動けない。
なんで生きているのかすらわからずこのまま塵となるのかと一種の諦めが襲い掛かる。
一歩、また一歩とその歩みが進むたびに私の死期が近づいてくるのがわかる。逃げようにも、脚が動かない。そのうえ、私ではケガも相まって逃げることは不可能だろう。あいつらのことはなぜかよく知っているから。
今まさに死にそうになった時に目をつぶって諦める。
だが、その時は来なかった。耳に突き刺す甲高い音とともに体がふわっと浮く感覚に落とされる。
「大丈夫ですか!」
その声に目を見開く。その目に映るのはきれいな茶髪を垂らした美少女だった。澄んだ快晴のような瞳に、整った顔立ち、誰もが振り向く間違いのない美少女だった。彼女が助けてくれたことが間違いないだろう。だが、少女一人でどうにかなるほどキメラは甘くないと思っていたところだった。
私が見たのは森に似柄しくない炎の渦だった。もともと私がいた場所一面が焦土になるように強烈な隕石が落ちたかのようだ。キメラが生存できるとは思えないほどの強烈な攻撃のさなかにいたのは銀色のヘルムをした背の高い騎士だった。灰生物に突き立てた燃え盛る剣はなぜだか見覚えがあるようだった。
「ひどい怪我ですね。今すぐラニウリさんに見てもらいませんと。」
美少女はそう言って私を連れ去った。木々を駆け抜けるのは魂が抜けるかと思うほど驚いて、彼女に抱き着いてしまった。なぜだか久々に人肌に触れた気がして、その前の記憶がないかのようだった。あれ、よく考えたらなんで私はあの場所にいたのだろうか。その前の記憶がごっそり抜けている。覚えているのはそれこそ知識とか、私の名前とかで、なぜだか何者だったのか。誰と一緒に、何をしていたのか、一切わからない。
「大丈夫ですよ、心配しないでも私たちはあなたを虐げることはしませんから。」
「え、と...」
ぎゅっと、彼女の裾をつかんで彼女の胸元に顔を埋める。今は死にかけたことから現実逃避するように寄りかかることしかできなかった。
しばらくすると彼女の仲間たちがいるのかゆっくりと地面におろしてもらった。周りには、ピンク髪のミドルくらいで胸もそこそこあり、快活な印象を与える女性が一人、さっきの銀色の騎士がヘルムを外して、その長い整えられた銀髪を垂らし、凛とした印象を受ける女性、それに、しゃっきとした印象とすらっとした体型に整えられた黒髪が際立つ男性が一人。
そして、銀色の騎士さんが持っていたのは燃え盛る剣とキメラが吹き飛ばした剣を持っていた。その剣はなぜだが見覚えがあるような、もともと私が作ったのではないかと思うほどに見たことがある。
そう周りを観察したところにピンク髪の子が近寄ってきて、話しかけてきた。ふんわりとした雰囲気に、何かの花の香りが漂いすこし安心する。
「君が、ルスベリーが助けた子かな。ちょっと足を見せてもらってもいいかな。」
「はい...っ大丈夫です。」
「うん!いい子だね。」
そう言って彼女は手袋をつけて私の足を触る。改めてみるとふくらはぎの部分に黒い何かが付着しているようでそこを意識してしまうとものすごく痛くなってきた。
「ちょっと痛いかもしれないけど、周りを消毒させてね。」
「痛」
おそらく、アルコールだろうか、傷にものすごく染みて痛い。動きそうになるのを我慢して、目を瞑って我慢する。
「はい、よくできました。」
ピンク髪の子が私にそう言った時にはすでに包帯が巻かれていて、ちょっとは動きやすくなっただろうか。だが、歩けば再び痛みで動けなくなるだろう。
「ラニウリさん、終わりましたか。こっちも周囲に敵影なしです。」
「ありがとうね。それじゃあ、君名前はなんていうのかな。」
私の名前は、
「シアハ、それだけしか覚えていないよ。」
「わかりました。シアハさんですね!よろしくお願いします。私は救国騎士団所属の偵察エリートオペレータールスベリーです。」
茶髪の美少女は何かの騎士団に入っていることくらいしかわからないのと割と偉いのかなという印象を受ける。だが、彼女の立ち振る舞いからは優しさやおおらかな雰囲気が感じ取れる。
「じゃあ、私の番だね。私は救国騎士団所属、医療部門所属の医者、ラニウリだよ。よろしくねシアハちゃん。」
ピンク髪の子は実は医者だったのか。道理で私の足の応急手当に慣れているのだろう。こちらもなんだか元気な印象が受け取れる。そう自己紹介をしていると彼らの後ろから銀色の騎士がやってくる。それも例の剣を持ってだ。
「応急手当は終わったか。まずは自己紹介と行こう。私は救国騎士団団長グラージスだ。」
ヘルムを取った彼女はとても美人で驚くほど背が高い。私だと見上げないといけないほどにだ。
「次は俺か。俺は救国騎士団所属、戦術エリートオペレーター、ドークスだ。」
彼が言い終わった後にすぐさま、団長が前に来て、剣を持って私の目線まで下がってくる。
「一つ聞きたい、これは君の者かな。あの怪物の近くに落ちていたから大切なものかと思う。」
差し出すように、剣を渡そうとしてくる。その振る舞い的に私が敵だった時に致命的な怪我を負いかねないのにその自信が見て取れた。それと、やはりこれは私にとって大切なものであったのかもしれない。
「多分、大切なものだったと思います」
「そうか、じゃあこれは君に渡そう。」
そう言って、彼女は私に剣を渡してくれた。だが、その瞬間に、膨大な情報が頭の中に駆け巡る。誰かの記憶か、それとも悪夢か。私が、私が、私が、
すべて、滅ぼした、そうなのか。
「あ、あああ、ああああああ!」
思わず剣を手放して、頭を抱えてその場でうずくまってしまう。そうだった、私が彼らを殺したんだ。私は死んでこの世から消えるはずだったのにも関わらず、神に呪われているのか私は死ななかった。いや、転生しなかったはずなのに転生してしまったんだ。
合わせる顔がない。ただ、その一言に尽きた。




