第二話 帝国へ
「とうちゃーく」
ルスベリー先輩の声に起こされて、ふと外を見てみる。そこには立派な城壁に、灰生物を叩き落すための兵器が並び、たくさんの人がそこに駐在していた。道は舗装されており、車の揺れも感じなかった。それに反するように、周りは木々や草に囲まれておりここだけ切り取られたような都市に見えた。
検問待ちに今日するべきことを確認し始める。確か、皇帝に合わなければならない上に、そのあとには貴族側のところに行って食事をとらなければならない。あと、天使であることは隠さなくていい。前の救都陥落はかなり広まっていて私の顔はバレているだろうから。
「大丈夫ですよ、さすがの帝国といえど救都の団長に手を出すほどひどい奴らじゃないですから」
「そうだといいんだがな」
ルスベリー先輩は気楽に話しているが、ドークスさんはやはり懸念点があるっぽい。たぶん、皇帝側より、貴族側が怪しいのかな。何してくるかわからないし、帝国騎士団との邂逅なんてしたら大変なことになってしまう。
私たちは雑談をしつつも、すでに順番が来ていた。複数人の兵士がやる気のなさそうにこちらを見ながら話しかけてくる。周りを見ても特に、何かしらの装置や兵器などの害するものはなさそうに見えた。
「はいはい、検問の時間ですよ。荷物チェックと身分証明ができるものを提出してくださいー。」
一人の兵士がそういって私たちの荷物を一つ一つチェックしていくがあまりに適当で困難でいいのかと思ってしまう。バックやその他の荷物の中身を適当に見て、ハイ終わりーみたいな感じだった。帝都の中身が不安になってくるがもしかしたらこれも戦略なのではと深読みしようとしてしまうが、あまりにもひどかったためかすぐに思考を破棄した。
「荷物チェックが終わったんで身分証明書提出してくださいな」
「これで全員分です」
ラニウリさんが矢先に立って、全員分の身分証明書を提出してくれた。といっても発行しているのは救国騎士団が発行した身分証明書であるから特に偽造とかもなく、もはや作り放題な立場にいる。もちろんそんなことしないと決めているけどさ。
兵士は特に疑うこともなくすぐに身分証明書を返してくれた。
「検問も終わったんで、中に入っていいですよ。救国騎士団の皆さまに一つ、帝都で起こっている争いにはかかわらないでとお貴族さまから言われているんでそれだけ。」
最後までけだるそうな雰囲気は収まらずに、彼は門を通してくれた。ただ、引っ掛かるのは帝都で起こっている争い。これがいったい何を指しているのかが疑念になる。
「お貴族様ですか、そんなに争いが好きならチェスでもしてればいいのに」
「おい、それは違うだろ。」
「でも、戦っているのは間違いないですよ。何か違うことありますか」
「そういうことじゃなくてな」
軽い、言い争いをしているのを横目に私は帝都の様子を見ている。私の座っている位置的に私は見えないはずなのだが、やはり救国製のものは珍しいのかこっちを見ている人が非常に多い。
「はーい二人もそこまで、今日することを確認するからさ、ちょっとだけ収まってよ」
ちょっと怒り気味のラニウリさんによって二人の言い争いは止められる。いつもこんな感じで邪険になっているとは思わないけど何かと意見が合わないときが多い二人をラニウリさんに止めてもらっている。私はもう、執務室でこれをされすぎて気にも留めなくなった。
「それもそうだな。今日はこの後、今後泊まるホテルにチェックインした後に皇帝に謁見する。」
「そのあとは貴族側の人たちと食事でしたっけ、大変ですねー。」
「大変なんのはあんたじゃなくてシアハなんだがな」
「そんなことないですー!シアハさんを守るが私の仕事なんで気を張らなきゃいけないんですよ」
そんなことわかっているわみたいな顔で呆れているのはドークスさんだった。まあ、ルスベリー先輩なら私のことを守ってくれるだろうし、いざとなったらLævateinnを抜いて暴れるのもありだと思っている。
「行動方針的には皇帝とはシアハさんとルスベリー先輩、ラニウリさんが貴族とはシアハさん、ラニウリさんとドークスさんが対応する形になりそうですかね」
「そうだね、私はどちらにも出る必要があるだろうね。たとえ、仮の団長だったとしても」
私が自虐的に発言するとルスベリー先輩はむっとした表情をして私を抱き寄せる。
「そんなことないですって、みんなで決めたことでしたじゃないですか。それに、救都の皆さんも認めていますよ。」
追撃するようにドークスさんが話し始める。にこやかでちょっと苦笑するように。
「そうだな、あの時、シアハを神として崇める人が出るほどには神聖性があったからな」
ちょっと誇らしげなのはなんだかいただけない気持ちになってくる。確かにあの時は本当に大変だったから、みんなが頭を下げてまるで神が降臨したみたいな。そんなおとぎ話聞いたことないけれど、もしかしたら救国では昔からある神話でもあるのかな。
気になってみんなに聞いてみる。真っ先に反応したのはドークスさんだった。
「神話か。昔、親に聞かされたことがある。天使が降臨せんとき、彼の者に無礼を働かなければ生きて帰れるだろう。そして、世界が救世せんとするときにのみ現れると」
「なんですかそれ、私、救都に来てから聞いたこともないですよ。」
ルスベリー先輩とラニウリさんも聞いたことのない神話だったらしくあまり反応がよくない。当然私も聞いたことすらないや。そんな他愛もない話をしているとついに今日止まるはずのホテルまでついた。
真っ先にルスベリー先輩が飛び下りて、体をグーっと伸ばす。
「あーあ、疲れましたよ。ずっと座っているのも苦ですね。」
私もおりて、みんなで中に入る。重厚な扉を開けた先は金や銀、豪華な装飾が施された柱に壁、床には高級そうなタイルが張り巡らされており、明らかに帝国の権威を示すためのところであると感じ取れた。
すこし息が止まるような感覚に落とされて、立ち尽くす。そうしていたら、ルスベリー先輩が手を取って話しかけてくれた。
「シアハさん、驚くのはいいですがこれからもっと驚く羽目になりますよ。何より皇帝に挨拶しにいくんですから。」
「そうだね...よし行こうか」
私はそうして顔にバチンと手を当てて目を覚ますように前に進む。この先に待っている皇帝や貴族たちに軽く見られないためにも。




