第三章 第一話 2年後
「失礼します。シアハさん、報告書持ってきましたよ。」
新調した木のドアを開けて中に入ってくるのはルスベリー先輩だった。2年たってもあまり変わらない容姿で、変わらない態度は私の心を安定させてくれる。
ルスベリー先輩から受け取った報告書を見ながら、今後のことを考えている。まだ、ノードを治療する方法は確立されていないし、結界装置の安定はあるが、造物が来たら私が命を懸けて奴を殺さなければならないことはいまだ変わらない。
もちろん、いいこともあって、アーティファクトの研究が進んで少しずつ生活が良くなっているのは成果として数えていいだろう。
報告書とにらめっこしているといつの間にかルスベリー先輩が紅茶を入れてくれていた。
「シアハさん、団長になってから働き続けているのもどうかと思いますよ。たまにはちょっとした休憩が必要ですから。」
そういって、ソファーにだれている。大人の女性が見せていい姿ではないことがよくわかる態勢で呆れるばかりだった。
ゆったりとリラックスしているような感じになっている。突然、丁寧な座り方をして、ひざをポンポンとしてこちらにおいでと誘導される。
「ほーら、お姉さんのお膝においで~」
彼女のいい方はますますラニウリさんに似てきている。人が少なくなって、必然とラニウリさんとかドークスさんとも話をする機会が増えた。依然として、問題解決が出来ていないけれど少しずつ進んでいると感じる。
私はそんなことを考えながらゆったりとルスベリー先輩に寄りかかる。膝枕まで行くとなんだか子供みたいで団長としての威厳がないと思われちゃう。
「素直じゃないんですから。」
「ちょっと、頭をなでるのもやめてくださいまし」
「そういわずにですよ」
彼女も、2年前から私を隙あらば甘やかそうとしてきて、なんだか私のお母さんにでもなったみたいな感じになっておかしくなっちゃうよ。
そんな時間はすぐに過ぎ去ってしまい、私は再び報告書に目を通す。救都は2年前に壊滅的な被害を受けた。団員は数多く死に、団長を失った。それに、団長と造物の争いによって城壁は崩れ落ち、結界装置は壊れかけた。
さらに、被害は当然、民家まで及び様々な人が居場所を失って、混乱のさなか私たちは今、生きるために努力してきた。
おかげで、住む場所は作られていき、それに応じて人の仕事が出来ていく。農業をしていた者たちも再び立ち上がることが出来て、今年は飢えに苦しむこともないだろう。それほどまでに救都は復興してきたのだ。
「やっぱり、これは断るべきかもしれないね」
そんな順調にことを進めてきたのだが、一つ懸念があった。ここまで救都が崩れ落ちてきたにもかかわらず一切の手出しをしてこなかった帝国が話をしたいと今更、使者を送ってきたのだ。
2年前の時には一切関わることがなかった。ただ、話によると帝国の中でもかなりの内戦が起きておりそれどころではなかったとは聞いている。
当然、この話が完全に嘘で、私たちを嵌めに来ている可能性は否めない。ただ、当然行った場合の利益もある。今後、5年間の援助とノームオイルの輸出量を増やそうということだった。
私たちが払う代価は当然、結界装置の研究成果についてだった。奴らからすればこの装置についての情報は欲しいに決まっている。ゆえに、莫大な資産を渡すのは構わないということだ。
その時、ドアのノックとともに低い、疲れていそうな男性の声がして中に入ってくる。事前に読んでいたからだろうか、許可する前に入ってきた。
「失礼します。ってルスベリー、何をしている。お前の仕事はどうした」
「そんなことより、シアハさんの許可なく入るのはどうかと思いますよ指揮官さん?」
「はあ、仕方ないか。いつものことだろう。2年前にシアハを団長にしようといったのは我々だからな。補助はいくらいてもいいか」
最後のほうはなんて言っているかが聞こえなかったことにしておこう。まだ私が、団長ほどの問題解決能力に優れていないのは事実だし。それよりも、今解決すべきことに集中するために彼を呼んだのだ。疲れているだろうから手短に話さなきゃ。
「ちょっと二人とも落ち着いてくれないかな。私が二人とも呼んだからね。そう気にすることもないから」
「なるほど、そういうことでしたか。それなら納得です。」
「そうですよ、指揮官さん。私は団長に呼ばれたんですから。」
呼んだのは事実だけど、指示は報告書をもってきて、までだったんだけどね。まあ、ルスベリー先輩がいることには損はないだろうから。
言い合っているのが止み、ドークスさんは真面目な顔に戻る。多少の緊張感が走るがここ数年でだいぶ場数を踏んできたから慣れてきた。
「さて、シアハ。帝国の件についてだが、戦術作戦部としては行くことをお勧めしない。」
「それは帝国との対立を許すということですか?」
ルスベリー先輩がいうことも正しいし、ドークスさんが言っていることも一理ある。むやみに帝国に行ってそれこそ罠だったら最悪の場合、死んでしまうだろう。
だが、外交的な面を見るとルスベリー先輩のほうが正しいだろう。我々は帝国と対話する気があるという気概を見せなければならない。そうでないと関係が悪化するばかりである。
難しい問題に立ち向かっていたら、さらに面倒ごとが舞い込んできた。そんな憂鬱な気分にさらされるが、それでも私は救国騎士団の団長であるから私が矢先に立たなければならない。
「ルスベリー先輩のいうこともわかります。それにドークスさんがいうこともわかります。今は敵を増やすべきでないことも、私が死んでさらに苦境にさらされることも。」
「そうだな。現在、帝国は旧皇帝派と共和貴族側に分かれている。内戦状態にもかかわらず、我々を招待したことは明らかに罠だ。」
「そうですが、力がある方は現在、共和貴族側ですよ。そこの招待を受けるのは合理的ではないですか。」
「だが、我々が関わってしまうと内政干渉にとどまらず、邪魔者を消すために旧帝国派が来るかもしれないですよ。」
言い合っているのを横目に私は思考の海に落ちる。これから救都が存続するためにはある程度の盾が必要になる。だが、まだ完全になっていない。どちらを取るべきか悩んでいるところに扉をバーンと開けて中に入ってきた人がいた。こんなことするのは一人しかいない。
「話は聞きましたよ。一番いいのはどちらの陣営にも訪れることです。」
「は!?」
「そうかもな」
扉をバーンと開けて中に入ってきたのはラニウリさんだった。さらさらとした金髪をふるいながら、中に入ってきたのだ。衝撃の言葉を発しながら。でも、確かにどちらの陣営にも接触しておくのは悪くないかもしれない。あくまで私たちは中立ですよと言いたいわけだ。
「というわけで、ひとまず、帝国の招待を受けてみてはどうでしょうか。」
ラニウリさんはそういう。これで、2対1だ。あとは私の判断にゆだねられている。悩みながらも私は...
「受けましょう。皆さん、帝国に行きますので準備を。」
「了解でーす。」
「団長がいうなら俺も従おう。だが、救都に残る人も必要だろう。俺は残って救都を守ろう。」
「じゃあ、私が行きましょうかね~」
みんなの意見も固まったことだし、今ある仕事を片付けたら帝国に向かうことを伝えなければ。
そう思いながら私は書類との格闘に戻された。




