第十八話 宝剣、そして再建へ
「シアハさん!」
ルスベリー先輩の驚きの声に反応せずに、すぐさま剣を取ろうとする。本来なら熱波で取れないはずの剣をだ。私にはあの一望できる場所から熱を感じなかった。それに、みんながいるところに近づいてもだ。剣に導かれるように体が動いていた。まるで取るように命じられているかのように。
「団長...」
団長らしき灰人は動かない。まるで私が剣を取るのを待っているかのように。何処かで聞いたことがある、この剣はまさしく救国にふさわしい剣であると。その意味はおそらく圧倒的な力による守護の意思が、誰かを救うための力としての格があるからだと思う。
燃え盛る炎は私を貫かんとするが、一切負傷することなく剣の柄を取ることに成功した。突き刺してある場所はきっと造物の残骸であろう。
私が剣を抜いた瞬間にすべての炎は消え去り、灰人の面影が分かる。その面影によって私たちは泣いていた人も、現実逃避していた人も、覚悟していた人もすべての人があの灰人が団長であることが分かった。ただ、死者になり替わった、寄生生物のようなものだ。あれは団長ではなく、ただ一つのノームオイルによって汚染された人の末路の一つに過ぎない。
殺さなければ被害が拡大するだけだということは誰しもがわかっていた。ただ、それでも誰も攻撃しようとできなかった。だってあれは団長だったものだから。
不意にその灰人は跳躍して私に襲い掛かってくる。真っ先に反応したのはルスベリー先輩だった。私を守ろうと飛び出したのだ。
「シアハさん、逃げてください。もう団長じゃないんです。悲しいですけど。」
剣を持って守ろうとしてくれるルスベリー先輩の前に立ち、私は灰人のこぶしを剣で受け止める。なぜだか、この剣の使い方が分かるように、剣に染みこまれた今までの使用者の意思が伝わってくるようだった。
私は剣を持って、そのこぶしをはじき返す。この剣はLævateinnというらしく使用者の声にこたえて、力を発揮してくれるだろう。
「Lævateinn...私に力を、弔いをさせてください。」
みんなは私が何をするかを察したのだろう。おそらく、団長も今までいくどとなくしてきたことだから。死者に最後の安らぎを与えるためにこの世から消し去る儀式。存在する限り、ノームオイルの汚染からは逃れることができずに、人としての尊厳ごと破壊されて、ただの人形のようにさまよわなければならない。
再び、炎が立ち上がり、灰人に向かって突き刺すように振る。団長だった灰人はそれを受け入れるように立ち尽くし、まるで最後に私に笑いかけてきたかのようだった。
意識がないはずなのにまるで”強く生きろ”そう言ったように感じ取って手元がぶれそうになる。ぶれてなお焼き尽くすほどの火力が存在した。圧倒的な一撃で周りを巻き込んでしまうのではと考えてしまったが、しっかりそこはみんな避難してくれていたから大丈夫だった。
「団長。私はまだ生きます。きっと救国を実現して見せますから。」
剣に語り掛けるように掲げながら独り言をつぶやいてしまう。すでに炎は消えており、この剣をどうしようかと悩んでいたところに後ろから声を掛けられた。慈しむような、悲しいような、安楽を願うような、そんな気持ちに浚われているときに後ろから話しかけられた。
「あんた、その剣を握って死なないとはいったい何者だ。」
後ろから話しかけてきたのは昨日言い争っていた団員だった。彼の言う通り私がこの剣を使えるのはおかしいだろう。というより、あの炎に包まれても全く無傷なことにも疑念が募る。
だが、その疑念もただ一言で済んでしまう。さらに後ろにいたドークスさんが人をかき分けてきて、淡々と話し始めた。
「天穹剣。彼の剣は天使族のみに与えられ、それ以外には裁きの炎を照らすだろう。そして、剣が顕現するときは必ず終末の前に現れる救いの剣であると」
「彼女の今の恰好を見れば一目瞭然、天使であることは間違いないだろう。」
「え?」
いろいろ言いたいことはあるのだが、私の姿が変わっていることだ。ドークスさん曰く確かに私は天使であることを隠していないのだがそれはみんなわかりきっていることだろう。なのになんでいまさらと。そんな疑念をルスベリー先輩が答えてくれた。
「そうですよ。今のシアハさんは天使の光輪に、六対の羽、それに神々しいまでの剣を携えた、神の使いのように見えますからね」
「え、ええええ!」
「驚くのも仕方ないだろう。そんな風になるのは剣を取ってからではないとあり得ないからな。」
団長はなぜか天使であることを隠し通せていたのだが、なんでこんなにも差が出るのだろうか。何よりにみんなにじろじろ見られてちょっと恥ずかしい気分になってきた。
それを察してくれたのか、ラニウリさんが私を遮るように立ちふさがる。壁のように立ちふさがりみんなの視線を切ってくれる。
「てことはよ、彼女が救国団長と同じと言いたいのか」
「そうだ、天使である彼女はおそらく救国の天使になりえる。現に見ただろう、あの剣を使い炎を操る姿を」
ドークスさんは前に出て、そういう。団長と私は同じ天使であり、あの剣に選ばれた人間である。それよりも、種族間限定の持てる者が決まっていると考えたほうがいいだろう。天使族は非常に珍しい存在だからね。そういう意味ではきっとおそらくセキュリティとして天使のみとしているのか。
「それとも、天使である人間が作った?」
そんな独り言をしゃべってしまったのだが、これはもう妄想の域を出ないであろう。これは研究するに値するテーマであるかもしれないと頭の片隅に置いておいた。
明らかに言い争っている雰囲気が醸し出しており、誰かが仲裁しなければならない。そしてそれは私の決断が必要になる。この剣を次いで、団長と同じように救都を導かんとするか。
胸に手を当てって私はみんなの前でしゃべり始める。最初はみんな戯言のように聞いていたかもしれないけどこれが私の本心である。
「みんな聞いてほしい。嘘だと思うかもしれないけど、この剣を取った瞬間に歴代の団長の意思が流れ込んできた。」
「どれもみんな誰かを守るために、最後に誰かに託し、それを受け継いできた。」
「どうか、みんなが生き残れますようにと。」
「だから、私も続くよ、救都を導く天使となりて、天穹剣を持って救都に未来を約束しよう。」
その言葉の重みは誰しも知ることになるだろう。まだ誰も、信じるに値しないかもしれない。だけど、それだからと言って救都を守り、誰かを救わない理由にはならないから。
こんな絶望的な状況にも関わらず前を向いて、私たちは救都を復興しようと奮闘する。
まず、ここまで読んでもらいありがとうございます!一つ報告として、カクヨムにも投稿しようと思いまして、3章に入るタイミングから投稿しようと思います。なろうに追いつくまでは毎日投稿する予定なので、追い付き次第カクヨムも隔日投稿になります。これからもどうぞよろしくお願いします!




