第十七話 繋ぐのは
午前9時ほどだろうか、道なき道を走り回っているのは現在、救都に向かっている団長を救助するための部隊。3両ほどの小さな部隊なのだが、ルスベリー先輩、ラニウリさん、ドークスさんも来ている。車の中はどんよりとした空気に満たされており、これから希望を求めていく人たちの感じではなかった。
皆、団長が死んでしまったと感じ取っているのだろう。それもそうだ、あの怪物とやりあってまともに生きて帰れるとは限らないからだ。それでも、助けに向かわないわけにはいかない。ほんの少しの希望にかけてね。
「シアハちゃん、寝てもいいよ。まだまだ時間がかかるから」
隣に座っているラニウリさんが頭をなでなでしながらそういう。もう、子供ではないのにーと思うのだが、周り皆大人の人しかいないからそんなことは通じないだろう。私は無言でラニウリさんに寄りかかるようにして寝たふりをする。
「寝たか」
「そうかもしれないですねー。」
運転をしているドークスさんからするとあまり注意を払ってしまうと事故の原因になりかねないから私が狸寝入りしていることには気づいていなさそう。ルスベリー先輩も、私のことがよく見えないのかもしれない。
「仕方ない甘えん坊ですねえ~」
そういって頭をなでてくれる。子ども扱いなのかもしれないが、割と悪くないと思ってしまう自分がいて、うーんって感じになってしまう。どうしようか、起きようかと迷っている間になんだか眠くなってしまって、そのまま本当に寝てしまった。
「ドークス、本当に寝てしまったかもしれない、ゆっくり運転して」
「わかったよ。」
その声を境に意識を手放してしまった。
「起きろ、着いたぞ」
少し乱暴にでも優しく揺さぶられて起きる。私はあの後寝てしまったのかと考えながらもいったい誰がと思いながら目を覚ます。そこにいたのはルスベリー先輩でも、ラニウリさんでもなくドークスさんだった。
ちょっと心配したような顔で申し訳なくなって飛び起きる。
「すいません...しっかり寝てしまいましたね。」
「気にするな。昨日から調子が悪そうに見えたからな。それよりも、すでに先遣隊が救都に突撃している。」
「私たちも早くいかないとですね。」
「そうだな」
淡々と事実の述べているドークスさんはどこか焦りを感じているようにも見える。多分、作戦とかいろいろあったのだろうが何名かそれを振り切って突撃している可能性は高いだろうし。
私は車を降りて、後ろに詰め込んであった自分の荷物を取りに行く。ルスベリー先輩とラニウリさんもここに入れていた気がするのだがすでにない。だから、彼女たちはすでに救都に向かっているのだろう。果たして、救都は今どうなっているのだろう。
団長がすべてを終わらせて待っているかもしれない。それとも、造物がまだいて、逃げる羽目になるかもしれない。最悪なのが団長が死んでいて、造物がピンピンしているときだ。
この時だけ、更なる犠牲を覚悟に誰かがおとりになってにげなければならない。そうなったら最後、救国騎士団は崩壊するだろう。
「ドークスさん、行きましょう」
「本当はここで待っていてほしいのだが、まあいいだろう。行こうか」
そう言って、ドークスさんは誰かに話しかけるような素振りを見せて、前に進み始める。何か奥の手があるのだろうか。
歩いているとき、私は祈りながら進むことしかできなかった。きっと団長が生きて、諸悪の根源を倒してくれていると祈ってだ。
しばらく、車輪後が残った道を歩いていくとそこには絶望に値する光景が広がっていた。
城壁は崩れ落ち、都市のシンボルだった救国騎士団の建物は崩壊して見るに堪えない。あちらこちらから戦火の痕跡である焼け焦げた跡が残っており、団長と造物の戦闘は救都全体で起きていたことがよくわかる。さらにひどいのが黒い点のようなものがぽつぽつとあるのだが、近づくにつれてそれが何かなのをわかってしまう。
「ひどい...」
それは死体が焼け焦げた跡だった。先の戦いで死んだ人がきっと団長と造物の戦いに巻き込まれたのであろう。地獄でももうすこし手心を与えるほどに吐き気を催す光景に膝をつきそうになっていた。
「落ち着け、戦闘音がしないから造物はいない、きっと団長も生きているから」
落ち着いた声に諭されて、私は正気を保つ。そうじゃないか、戦闘音がしないから造物はきっと団長に倒されたに違いない。ルスベリー先輩やラニウリさん、他の団員たちもきっといるのだから。もし、造物が生きているとしたらきっとここまで聞こえる戦闘音がするだろう。
私たちはさらに真実に近づくために救国騎士団の建物があった場所に向かう。あそこからは景色がよくどこで倒れているかがよくわかるからだ。
「急ぎましょう。団長はきっと助けを求めているはずですから。」
返事も聞かずに私は走り出す。呼び止める声が聞こえたがそれを無視してでもだ。がむしゃらに走り出し、きっと希望があると思って一望できるところまで来た。
だが、非常な現実は目のまえに移りだすこと。それはきっと幻想ではないと心に響く。
見えたのは一つの灰生物だった。ただ動かず、何かを守るようにたたずんでいるだけだった。そして、その周りにはルスベリー先輩含む団員たちが取り囲んでおり、その灰生物が何かを指し示すには十分だった。
そして、遠目でもわかる。守っているものはきっと団長が大切にしていた剣だった。
「急がなきゃ!」
そう思い、走り出す。団長がたとえ、灰生物になり替わろうとその剣を絶対に守らんとする。そして、その剣からは果てしないほどの熱波が出ており誰一人として近づけさせまいとしていた。実際、その周りには溶け落ちた鉄のような何かがたくさんあったから。その体が溶け落ち始めているにも関わらずだ。
「ルスベリー先輩!」
そう呼んで、私はその火の中に飛び込んだ。




