特殊5話 救国都市陥落事件
それはほんの一言に過ぎなかった。私が、行ったのはただ一つ逃げることだけだった。”いつか、生きて会いに来てくれ。”そう言われただけだったんだ。あの時が戦闘中にも関わらず思い出されていく。それはまるで走馬灯のように。
「グラージス!早く来いって」
「待てくださいって、そんな急かしても何もでませんから」
「馬鹿が、時は金なり言うだろ、とっとと動かんか」
私にはよ動けと命じているのがいつも道理の団長。私はいつものように剣を磨いて、哨戒の準備をする。まだ、ただの団員だった気がするな。団長は厳しいときもあったが基本は優しくて、いろんな人に気を掛けることができて、そしてあり得ないほどの強さを誇っていた。
その強さはもちろん団長自身が強いのだが、その剣もあり得ないほどに強かったのだ。
「グラージスどうした。何かあったか?」
「あ、大丈夫ですよなにもない。」
「そうか...まあいいだろうよ。」
見惚れるほどの高いタッパにその整えられた長い金髪はどこまでも彼女を美しくしていた。直視することが困難なほどにな。
だが、それもこの日までだった。あの時になった警報はいまだに覚えている。そして報告も。
確かあの時はサートアとかいう一介の兵士だったかな。警報とともにすぐに来て、その人は団長に巡回班の見たことを言った。その慌てようからただ事ではない、灰生物が襲撃してきたとかではなさそうだった。
「団長!報告です。未確認の生物が救国に迫っています。奴は灰生物をなぎ倒しながら、周囲の地形を破壊しながら、現在救国に前進中です。」
「現在距離は」
「おそらく、6時間もしないうちにつくでしょう。今すぐに」
「ふむ」
かなり焦っている兵士と冷静な団長の差がひどく、事態の事の重さを昔の私は理解していなかっただろう。なぜなら、団長に勝てる存在がいないと確信していたから。いや、妄信だろうか。今になっては私も戦うべきであったと自責してしまう。
少し、考えるふりをしたような素振りをみせた団長はすぐに命令を下した。
「グラージス、よく聞け。今からお前が救国騎士団団長だ。私は死地に入り、ここから逃げる人々を守り切る。生きて帰る保証はないだろう。」
衝撃の言葉をまるでいつものジョークかのようにさらっといった。この時にすでに団長は死が決定していると確信していたのだろう。それとともに救国を守りながら未確認の生物を倒すことはできないだろうから。
聞いた話だけでも、相当強いのが分かるほどにはかの生物はいかれているのだろう。絶望、無力、喪失、すべてを同時に食らった私は当時思考放棄して立ち尽くしていただろう。団長の命令は絶対であり、なおかつ私も薄々感じ取っていた。城壁の向こうから恐怖が迫りくることに。そしてそいつには勝てないことに。
「そういえば、団長になるならこの剣がいるな。象徴として持っておけ。」
そう投げつけられたのは朱く、炎に包まれたかのような剣だった。そしてこれは、
「ちょっと団長?これ国宝と同じくらい大切な剣なんですから大事に扱ってくださいよ。」
ちょっとバツのわるそうな感じで反省してないように思える。まあ、この後死ぬと考えたら国宝なんてどうでもいいと考えている節があると思った。割と適当な人だったからな。
「まあ、その辺は気にすんな。見たことあると思うがそれはLævateinn。世界を分かつと言われた最強の剣だ。そして、救国の象徴でもある。」
「これを持っているか否かで、救国騎士団の団長になれるかが決まりますから。」
「まあ、そういうことだ。剣に選ばれていないと持っただけで死ぬからな。当然、あんたが持てるのは知っていたぜ。」
「はあ!そんな危険物、すっと渡さないでくださいよ。というか団長が使ったほうがいいんじゃないですか」
そう言われて、確かになと思っているような表情でこちらを見るが、ああそうだった。団長にはノームレゾナンスの中でも屈指の最強技があるんだった。それは
「頭打って私のこと忘れたか。剣なんていくらでも作れるんだから気にすんなって」
「そうですよね、これ持つくらいなら自分で作ったほうがいいですよね。」
光の剣を力尽きるまで無限に射出できるノームレゾナンスによって遠距離、中距離、近距離全対応の最強状態になれるから、気にならないだろう。そしてそれを限界を超えて射出しようとすると救国ごと消えてなくなるくらいの出力が出るはず。
「団長それをもってしても勝てなi」
そう聞こうとしたところまでは覚えている。ああ、あの時にLævateinnが使えたらと思ったことは何度あっただろうか。生物を超えた四角いフォルムに猿のような見た目。それに加えて、真球に近い関節を持ち、一撃で城壁を打ち砕く謎の生物によって遮られた。
「なんだと、グラージスわかっているな」
「はい、命令、通りに、動きます」
泣きそうな心を抑えて、私は団長の命令に従うしかないのだ。だってそれが最善なんだから、きっとこの剣が未来に導いてくれるって信じて逃げないと心が壊れそうだった。そして、私はこの平穏を崩したあの生物を絶対に忘れない。必ず、この世から消し去り、一匹残らずこの世からっと心に決めたんだ。
その後はほとんど覚えていない。逃げる途中で団長を見捨てたとか言われたが、Lævateinnがそれを黙らせる証拠になった。ふと振り返ると、救国は謎の生物と、団長によってボコボコだった。二人そろって空中機動がある程度あり、一撃一撃が家を壊すほどの強さで、私たちの家は謎の生物との戦争で消え失せたのだ。またあの場所に振り返ることはないだろう。
都市ではないが古代遺物によって逃げながら得ている私たちが救った村があったはずだ。我々はそこに逃げることになっている。
古い記憶がよみがえる。傷から流れる血が私の思考を奪い去り、ゆっくりと目が閉じていく。最後に私が見たのは死にさらした造物の姿とそれをすべて消さんとするLævateinnが目に映るばかりであった。ああ、きっと団長も私と同じ気持ちで造物に臨み、次の人たちがきっと、世界を救うカギになると信じてやまなかったのだろう。希望に満ち溢れていないかもしれない、その先は虚無で埋め尽くされているかもしれない。だが、それでも我々が足を止める理由にはならないのだ。
「進め、シアハ、君ならきっとこの剣をとれるだろうから」
そう一言言って、私は最果てにいるはずの団長の胸に飛びついて寝てしまった。




