第十四話 喪失
「ここは...」
あたりを見渡すと大量のテントだらけで軍隊の行進でもしているのかってくらい人がいた。救都の人々は逃げることができたのかな。それなら、私たち救国騎士団が命を張った結果はいいことなのだろうか。どこもみんな今の生活を少しでも良くするために頑張っている。
「シアハさん、とりあえずテント張りましょうか。」
そう言ってルスベリー先輩がテキパキと仕事をし始めたから私も手伝う。布を広げて、床に使う布を釘で固定する。その感覚が、私の手に伝わり、その行動に偽りが伴っている感覚に襲われる。今、すべきことをしていると思っているのだが、本当にそうだろうか。
でも、手を止めるわけにはいかない。今できることをするしかないんだって。その心では否定したい行動を私はするしかなかった。虚無でもあり、絶望でもあった。
「よし、できましたね!今日は寝ましょうか。いろいろありましたから」
そう言って、寝袋を取り出してテントの中に消えていった。彼女は私には触れずに、ゆっくりと暗闇に消えていった。それに続くように私も中に入り、思考を放棄するように寝る。もう、寝て起きたらすべてが夢で元に戻ってほしいと思うほどに。
なにやら騒がしい声に起こされて、目が覚める。どうやら誰かが争っているように誰かと誰かが喧嘩しているようだった。いったい朝から何しているんだろうと現在時刻を確認するとなんと12時を指していた。それにも関わらず、日は上っているから夜ではないことは確実だった。こんなにも寝てしまったと思いながら目をこすりながら外に出る。
「何で、団長を見捨てたんだよ。一緒に逃げられただろ。」
そこにいたのは、無言で立ち尽くしているルスベリー先輩と彼女を守るようにラニウリさんとドークスさんが囲っていた。さらに、その周りには人だかりができていて言い争っているようだった。何やら、団長を連れ戻せただろと言っているようだったが。あの状況で逃げれたのは間違いなく団長のおかげであることを忘れているのかな?
「落ち着け。お前たちは混乱しているだけだ。冷静に考えれば団長が救都に残ったことが正しいとわかるはずだ。」
「うなもん関係ねえよ。ただ、そこにいる隊長が錯乱している団長を連れ戻せただろって話だ。」
ドークスさんが言うように造物の一撃で結界を崩壊させられてしまう。奴を止めて、みんなが逃げるには誰かがあの造物を倒すか、止めなければならない。それにもかかわらず、団長を連れ戻せただろというのは無茶だ。
でも、ルスベリー先輩は黙ったままで反論をしようとしない。実際に、連れ戻そうとしたのかそれとも団長に逃がされたのか。私にはわかんないや。
「団長がいなかったら救都はどうなっちまうんだよ。あの人こそ救済の光をもたらす天使だろうが。」
泣きながらそういう人は心にこもっている感情が重く、深かった。団長に対する信頼が、希望が、救都を必ずいい未来に導いてくれると信じてやまない。もはや信仰に近い何かになっていると感じる。
誰も彼を批判することがない。いるなら団長はずっといてほしいし、私たちの先導者としていてほしいと思ってしまう。
その静寂を切り裂くように胸に手を当てながらルスベリー先輩はしゃべり始める。
「団長は、私を逃がしました。私は足手まといであると。」
「団長が本気で力を出したら、周りの人を殺してしまう。だから逃げてくれと。」
「その殺気に蹴落とされてここまで来ました。」
団長に何があったか知らないが、強烈な殺意に見舞われて、恐怖で逃げてきたとそう言っているのかな。だが、団長が本気で当たらないといけないことなのは本当なんだろうとそれだけしかわからなかった。
「お前!」
今にも殴りかかりそうになっているが、団長の言葉でここまで来たことは明白であり、ルスベリー先輩を殴るということは団長に歯向かうということでもある。だって彼女は命令に従っただけなんだから。
「皆さん冷静に。今、するべきことはみんながここで生活できるようにすることとすぐに救都に団長を救助しに向かうことです。今争っている暇はありません」
そう言ってみんなの前に立ちはだかるのはラニウリさんだった。彼女の言う通り今すべきことではない。すべてが終わった後にするべきことだ。その言葉が染みたのか、彼は何も言い返すことがなく、そのまま仕事に戻っていた。
「ルスベリーちゃん。大丈夫?」
ラニウリさんはすぐに切り替えてルスベリー先輩の心配をする。ただ、ちょっと困っているように見えるほどに過剰に心配しているように感じた。ラニウリさんとルスベリー先輩だとルスベリー先輩のほうが背が高いからなんだか不思議な光景に見えてくる。
ただ、彼女の言う通りに私もするべきことがある。ルスベリー先輩たちに話をするために近づく。




