第十二話 限界まで
ルスベリー先輩は開戦の合図とともにすぐに城壁に向かって走り始めた。所長とプロテアさんも今ちょうど戦いが始まったことに顔がこわばる。結界装置がさっきまでとは全く違う動きを見せていて、壊れるのではと心配してしまう。
「何!」
突然、結界装置から光の奔流が出て、目に見えるほどの光の壁が展開されていることに気付いた。その光の壁はまさに城壁を囲むように取り巻いており、救都を守る要なのは確実だった。
と同時にこれが壊れた瞬間に私たちの負けが決まる。そう確信させるほどに絶大なものだと感じ取れる。
壊れたらと思い、結界装置のエネルギーが足りなくならないようにしなければと思い、ノームオイルを入れるところを開ける。特有の臭さがあり、まるでなんか腐った卵みたいな匂いに気絶しそうになる。
「大丈夫っすか」
プロテアさんに支えてもらってやっとのこと立てるほどに刺激的な匂いだった。今までにノームオイルを扱ったことがあるけどいったいどんな事したらこんなに変なにおい出せるのかと思う。もしかしたら、この機械の限界を超えた起動なのかもしれない。
「ありがとうございます、プロテアさん。燃料を入れなきゃと思って。」
「そうっすよね。危ないかもしれないけど持ってきてもらうしかないっすね。所長!話聞いてましたよね」
「もちろん!」
所長は誰かと話しているようで、おそらくすぐにノームオイルを持ってきてもらうことができるだろう。一安心と行きたいところなんだけど、外の様子が非常に気になる。ここで結界装置を動かし続けることが任務であることは承知しているんだけどそれでも心配。
胸を押さえて、大きく深呼吸をする。大丈夫、今できることはしている。だから、心配はいらない。きっと団長ならすべてを覆してくれると信じるしかない。
そんなことをしていると後ろから背中をさすられる。びっくりして背筋がピンとして驚いてしまう。
「あれ?背中弱いっすね。えい」
プロテアさんに背中をなぞられてぞわっとしてしまう。いたずらが過ぎると思って振り返って睨み付けてしまう。そんな私にプロテアさんは笑顔でニコニコなのもなんだかなと。
「落ち着いた?心配ごとは大体起こらないっすから心配しないでどっしりみんなの帰りを待っていればいいんっす。」
「そうだな、我々は今はこの機械が壊れないことを祈るしかない。それに、救国騎士団の無事をな」
落ち着いた二人に諭されて、私もちょっと動悸のような胸の痛みが治まる気がした。所長はすぐに離れてまた誰かと話している。通信している相手はわからないがおそらくノームオイル関連だろう。
そわそわした気持ちは収まらずに、その場で結界装置を観察していたところにあり得ないほどの轟音、それこそ最初の団長の一撃ほどの音が城壁外あたりから聞こえてすぐさま振り返る。
今度こそ、結界が破られたのではと思って、恐怖は限界まで達し、震えながら原因を探す。
見えたのはドーム状になっている結界に乗ったキメラだった。あいつがすさまじい跳躍をして結界に張り付いているのだ。ただ、一生攻撃をしているのにもかかわらず結界はびくともしない。それに、結界装置の動きも特に変わったことはない。
つまりだ、キメラ程度ではびくともしないのだ。私はその事実に安心して、地べたに座り込んでしまう。本当に杞憂だったことがキメラによる一撃の破壊。これによって壁内に入られて崩壊することだった。
そうしていると所長が来て話始める。
「ノームオイルの手配は完了した。もとから想定されていたことだからスムーズに済んだ。私たちはこれからここを見張りつつ結界装置の動きを観察していくぞ。」
「はい!」
元気よく、返事をしたのだが、さっきのノームオイルを嗅いだのが体に来ているのか。ふらついてしまう。こんなことで心配されたくないのにと思っているけどそれは二人が許しそうになかった。二人とも、慌てるほどにふらついていたのかも。
「「大丈夫!」すっか!」
支えられてやっと立っていられるほどになってしまった。若干、頭がふわついて思考が定まらない感覚に陥っている。慌てて、所長が誰かに連絡しているとともにプロテアさんにゆっくりと地面に倒してもらった。
「意識ありますか!」
「はい、ありま、す」
「やばそうっすね、所長に医療棟の団員呼ばせているんでちょっと待ったらすぐに治療しますから」
想像もしない予想外の出来事で医療棟に運ばれるとは、普通はノームオイルは有害なんだけど、それって触ることが条件なんだよね。なんで匂いにまでこんなことになっているのか私には理解できなかった。きっと結界装置のノームオイルの使い方が変なんだろう。
薄れゆく思考の中で、ラニウリさんがいることを確認して私はそこで気絶してしまった。
焼けるようなのどの痛みと刺すような頭痛によって目が覚める。だんだん目が覚めていき今いる場所を把握する。おそらく、ラニウリさんのところだろう。前に話をしたところだと思った。なんせ、ラニウリさんが仕事をしているのを横目で見ていたから。彼女の仕事姿はいつもの笑顔と違い真剣でドキッとするくらいには。
集中して気付いていないのかなと思い、起き上がろうとする。
「痛ったい!」
思った以上に身体が痛くて驚いてしまう。その声で、ガタンと椅子をけるような音がしてラニウリさんが駆けつける。
「大丈夫ですか!やっと起きましたね。」
心配した顔に申し訳なくなってしまう。本当は私が結界装置のところにいたはずなんだけどね。元気でいるのは難しいか。
「ちょっと身体が痛いですが大丈夫です。あれからどれくらい経ちました?」
「そうですね、18時間といったところでしょうか。今は午前7時くらいですよ。」
「ええ!」
どんだけ寝ていたんだと思うほどに時間が経っていたというか一日目は耐えているじゃん。なんとか、これからも結界とともにスタンダードを殲滅できそうで安心してきた。
「今、前線はどうなっているんですか。」
「団長が無双していたのでかなり安定していましたよ。キメラはともかく灰生物に負けるほど弱くわないですから。」
「ならよかったです。でも、団長も夜までは動けませんよね?」
苦笑いするようにラニウリさんはしゃべり始める。
「団長、夜も動くぞと言っていたのですが、スタンダードが夜になると撤退していったんですよね」
「そうですよね。灰生物は元の生物の性質を引き継ぐので大体夜には動かなくなりますし」
「そうですけど、一部動くおかしい奴がいるって言って突撃しそうになっているんですが必死にみんなで止めましたよ。」
団長もそんな風になることあるんだと驚くとともに、やめてくれよみたいなラニウリさんの対比が面白く感じてしまった。
そんなことを話しながら外を見てみると、今日は非常に天気が悪かった。話の途中で窓がうるさくて仕方がないほどに、こんなんじゃあ今日は戦うことが難しそうだし、ノームオイルが水に濡れたらマジで大変なことになるとそう思っていた。
「*耳を貫くほどの轟音*」
「何!」
すぐさま立ち上がり、轟音の主を見に行く。そこには、生物を超えた四角いフォルムに猿のような見た目。それに加えて、真球に近い関節を持ち、一撃で結界を砕く化け物の存在だった。
知識にしかない、古代最終生物兵器、造物の一撃だった。




