特殊第3話 絶望の進軍 side グラージス
「来たか」
目で見えるほどに近づいてきたスタンダードから地ならしのような音が聞こえる。我々は結界がいつ壊れるかがわからないから、素早く対処しなければならない。
だが、それほどできるほどに我々の余力は残っていない。思い出されるのは救国陥落事件。陥落して、滅亡した残骸が今の救都だ。その時もキメラ、灰生物のスタンピードと"造物"によってすべてを破壊された。その時に、帝国、王国、公国、皇国。様々な国が共同で討伐した結果は人類同士の手柄争いで戦争し、共に対消滅した。
今はその残骸どもがいまだに生き残っているがほとんどの人間を死に至らしめられるほどにひどかった。
あの時とは造物が存在しないため、それほどの被害が出るとは思わない。とともに慢心すると最悪の事態が起こりかねないため警戒しなければならない。
スタンダードを見ていると後ろから大きな声で話しかけられる。
「報告です!人型の灰生物を確認しました。おそらく、近くの集落を襲撃している可能性があります。」
「わかった。配置に戻っていいぞ。」
「はい!」
偵察部隊の隊員は報告をして帰っていった。”近くの集落か”おそらく近場だと帝国からか。救都の近くに集落はないと言っていいだろう。そうするとシアハを拾ったあたりから来た可能性が高い。それでも、集落なぞなかったはず。灰生物は元の生物の性質を持ち合わせるため人間が絡むと厄介な存在になる。いわゆる灰人が襲い掛かってくる。
夜まで耐えることができれば一度は何とかなるだろう。なんせ、奴らは生物の行動に従うというなぞが残されている。ただ、これのおかげで救国は一時をしのぐことができた。今回もそれを狙っていきたいところではある。
「総員、壁から逃げろ。私が行く。」
大きな返事とともに私の周りから人が消えていく。今からやることで巻き込むわけにはいかないからだ。私は自身の剣である聖剣を手に取り、力を籠め始める。
「私がすべてを、救国の意思を示さん。」
天に剣を掲げ、詠唱を始める。私が打てる、最強の初撃を打つために。
「我らが世界へ救い、我らが天地へ平穏を、我らが道を示すは救いの剣。Lvateinn」
掲げた燃え盛る剣ごとスタンダードの集団に投げ込む。一息、着弾した瞬間に光が爆ぜ、世界から音が消えるようだった。業火のごとき火の柱が立ち、開戦の合図が送られる。奴らの軍勢に大きな穴が開くようになり、その爆心地には燃え盛るような聖剣が突き立てられていた。
「くそが」
その場で膝をついてしまう。あの一撃で灰生物は千体は仕留めただろうか。キメラも数体は仕留めただろう。比率的には妥当な数字だからいい結果なのだが。Lvateinnは一撃しか打てない。倦怠感で動けなくなるほどの生命力を燃料に、一撃ですべてを滅ぼすまさに神からの一撃。
そう何度も打てるものではないが出鼻を挫くという意味では最適であろう。そして、あの剣が突き刺されている場所には私以外が行こうとすると焼き滅ぼされる。だから正面の最前線に向かって投げた。当然、わかりやすいほどに炎を放っているため近づく奴はいないだろうが。
気合を振り絞り、剣を取りに向かう。あれを使った後は死ぬほどつらい。だが、私が動かなければだれが前に立ち、戦士を奮い立たせるのだ。
燃え盛る炎は私を燃やさない、むしろ道を作るようにして歓迎してくれる。再び剣を取り、掲げる。
「我に続け、死んでもなお動き続ける化け物に引導を渡してやろう。」
目の前にいる灰生物を叩き切る。こいつらは履いて捨てるほど湧いて出てくる。いったいどれほどの生物が死んだらこれほどの大群ができるのか不思議に思える。だが、今は考えている場合ではない。とっとと目の前にいる敵を切るのみ。
「だんちょーう、ただいま参りましたー。」
大声で周りの灰生物を叩き切りながら戦地にやってくるのはルスベリーだった。彼女の剣もなかなかの切れ味を誇っており、使い手と合わさってスパスパと敵を叩き切っている。
「ルスベリー、キメラを探してくれ、優先して倒そう」
「はーい」
そういって、気づいたら見失っていた。彼女のノームレゾナンスが意識阻害に近いものだから私でも見失ってしまう。きっと、キメラの位置を報告してくれるはずだから今は目の前にいるやつをボコボコにしようか。
そうすること、一時間ほどたったころか、壁のほうから耳を突き刺す轟音が聞こえ、振り向く。そこには神秘的な光景に目を奪われてしまう。
救都を囲むように光の壁に阻まれて、キメラが地上に叩き落された音だった。私は瞬時にあのキメラを始末するために駆け付けようとする。救都を滅ぼそうとする存在は私がすべて殺して見せる。今度こそ守るために。




