第十一話 結界装置
「これが...」
あの後、すぐに結界装置のところに行こうと思って、一人でここまで来てしまった。もちろん、警備の人がいたのだが団長のサイン入りの許可証を見せたらすぐに通してくれた。
結界装置はとても大きく、人工的なデザインをされていて幾何学的な模様とともにわかりやすくどこにノームオイルを入れればいいかがわかりやすい仕様になっていた。幾何学的な模様の中心だけ色が違くまわりが白黒なものなのにもかかわらずここだけ赤色だった。
「これだね」
押してみると、やはり空いて空洞が出てくる。その先は真っ暗で何も見えない。照らす手段がないから奥まで見えないがノームオイル特有の臭さがあり確信した。
ただ、ノームオイルは危険物過ぎて私一人では扱えないためこれも報告の対象であろう。それに、ノームオイルを補充したからと言って必ずしも強化されるとは限らない。一度、小さなレプリカを作ってみるのが一番いいだろう。
そんなことを考えながら回りながら構造を調べていた時に、ふと後ろに気配を感じて振り向く。前に、後ろを取られて不覚を取ったからか敏感になっているのだろう。
だけど、何もいなくて不思議に思う。
「シアハさん、驚きましたよ。私に気づくとは」
「うぇあぁ」
肩をガコンと叩かれたように感じて変な声が出てしまう。ルスベリー先輩が後ろに立っていたのだ。おかしい、後ろに気配を感じて振り向いたはずなのに後ろから叩かれた。明らかに実力差が出ていてびっくりする。
「ちょっと!驚かせないでくださいよ。前と同じだと思ったんですから」
「それは...やりすぎましたかね。すいませんシアハさん」
悪いことをしたかのように謝る。そんなに怒っていないんだけど、言い方が変だったかな。あの時を思い出すと後ろから近づかれるのがかなりの恐怖になっている。それに、後ろを取られて無事なほうが少ないからね。
謝っているルスベリー先輩を横目に私は先輩に抱き着く。
「どうしちゃったんですか。幼女に退化しましたか?」
「そんなことないです。ただ、生きていてよかったって」
「ふふ、私はあれほどでは死にませんって、大丈夫ですよ」
無言で抱き返して返事とする。スタンピードのところに行ったということから死んでしまうのではないかと、生きて帰ってこないと思っていたと。また、自分の知らないところで大切な人たちが死んでしまうのではないのかと。
不安が安堵に立ち代わり、心の重荷が落ちていく。私はそのまましばらく抱き着いたままだった。ルスベリー先輩は赤子をなでるような母性で包み込んでくれたおかげで私は落ち着くことができた。しばらくして、
「ルスベリー先輩、帰ってきたってことはもうすぐそこに来ているんですね。」
ルスベリー先輩は険しい顔をして話始める。おそらくそうだろう。
「ええ、シアハさんの思っている通り、スタンピードはすぐそこです。」
やはりそうだろう。本来ならスタンピードの動きを救都に報告することが仕事なはず、なのにここにいるということはスタンピードはすぐそこまで来ている。決戦の時は今まさしく近づいているのだ。
「今すぐってわけじゃあないですよね」
「ええそうですね。まあ、一日二日といったところでしょうか」
「時間はないってことですね」
「ええそうです。」
言葉には重みが残り、死の恐怖がついにも迫っている。私は本当にここの防衛、いや結界装置に力を籠められるだろうか。なんだろうか、絶対的な何かににらまれていて、心と体を震え上がらせるような感覚に陥る。
緊張は解けない、ルスベリー先輩も険しい表情を、と思ったのだが突然にっこりとして私の手をつかんだ。
「考えても仕方ないですね。ご飯まだでしょう、食べに行きましょうか」
「ふふ、そうですね、行きましょうか」
二人で食堂に行ってご飯を食べた。その後はもう時間がないから早く寝ようとそう言って寝てしまった。
うるさい目覚ましで目が覚める。今日が、スタンダードが来る日だと思う。それにもかかわらず、空に浮かぶ太陽はあいもかわらず同じ輝きを解き放っていて、快晴な空はこれからのことを表しているようだった。きっとうまくいくはずと。
身支度を済ませて、ご飯を食べる。今日は、所長と結界装置の最後の調整を始めるはずだから、襲撃だけは気を付けなければならないが、ここまでスタンピードが来てしまったらすでに罪だろう。
今日も、結界装置のところまで行くと、すでに所長とプロテアさんまでいた。まさかと考えてしまったが、天に輝く光が現在も結界を維持してくれていることを示している。
「所長とプロテアさん、結界はどうですか」
所長が振り向いてこちらを見る。いったい誰がここにと顔に出ていたが、まさか逃げていないだとと思っていそうな顔ぶりだった。
「シアハさん?なんで逃げてないんっすか。主要な研究員たちは逃げたはずでは。」
「それはあなた達も同じでしょう。私は団長に頼み込んで結界装置が結界を維持できるように模索するつもりですよ。」
「そうじゃないんですけどねえー。」
多分、団長にも逃げろと言われていると思われる。けれど、二人ともたぶん逃げたくないか逃げられないか。どちらとも構わない、ただ一緒に頑張って結界装置を強化することを考えたほうがいい気がする。
「まだ、スタンピードが来たという報告は来ていないが今日来るかもしれない。明日来るかもしれない。恐怖に打ちひしがれていては集中することもままならない。」
「突然どうしたんっすか所長。何を当たり前のことを。」
真面目な表情で、突然話し始めた。私に向けてだろうか。それとも、未来の誰かについてだろうか。それは一切合切わからない。ただ、志は同じなのかもしれない。
そんなことを考えていたときに耳を貫くような轟音が響き渡り、天まで至る大きな炎の柱が立ち上る。
「ついに来た。」
開戦の合図だった。




