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第三話 まだ行かなければ

 現実を改変する装置。とても、現実に存在するとは思えないそんないかれた存在だと思う。だけれども、現在、結界を張っている装置を説明するのは不可能に近い。なら、現実ごと変えていることを認めたほうが楽ではある。だが、どうも納得のいかない。資料を眺めていても、現実を変えることがあまりに常識のように書かれておりそれを裏付けるものが一切ないのだ。ただのデマであることが否定できない。


 「もちろん、この資料が本当かどうかはわからない。だが、同様の情報があの場所にある可能性は否定できない。」


 「また、あそこに行く必要が」


 「あると思われる。」


 真剣にもう一度あのキメラがいた場所に行かなければならないのが苦しい。また、同じことが起こるのではと杞憂を払しょくすることが難しい。それは所長も感じ取っているのだろう。雲行きが怪しい顔でこちらを見ている。


 「シアハさんよくこれ読めますね。古代文字で書いてあるじゃないですか」


 「それは、なんか覚えているから」


 そうというしかない。記憶を消される前にきっと古代について興味があったのだろう。文字を読めるのはそう不思議なことではない。そう思っていたのだけれど、プロテアさんの言っていることが正しいのなら、ちょっと変な人だったのかもね。


 「そりゃ反則ですよ。ちょっと踏み込めませんって」


 「うん、、まあね」


 ちょっと気まずい空気になりかけたのだが、所長が気を利かせて話始めた。


 「古代文字が読める云々は一度置いといて、古代都市に行く必要がまだあるようだ」


 「また、キメラに襲われたら、ひとたまりもないですよ」


 「それはそうだが、次は団長にも出張ってもらう」


 団長が来るのであれば、よほどのことがなければ壊滅することはないのだろう。だって、前回の探索隊の総力をもってしても倒せなかったキメラを一人で倒してしまったんだから。団長で勝てない奴が来たらもうそれはおしまい。だから、そんなことにならないように気を付けながら行かなければ、前よりも慎重に。


 「さあ、話は次の遠征でしようじゃないか。今日はここまでだ。シアハ次は遠征の準備で会おう」


 「わかりました所長、では私はこれで」


 そう言って、踵を返してドアを開けて外に出る。その間にも、所長とプロテアさんは話をしていて、結界装置をどうするかについての話をもう一度話していた。私も話をしたいのだが、ラニウリさんに呼ばれているから行かなければならない。懐中時計を開けて時刻を確認するとちょうど正午ほどだったので急いで食堂に向かってご飯を食べることにした。


 


 ご飯を食べ終わり、ちょっと急ぎつつ医療棟に向かうことにした。何をするために呼ばれたのかはわからないけれど、とりあえず行くことにした。

 

 医療棟につくといきなり看護師の人に話しかけられた。忙しそうにしていたのにも関わらず、こちらを見るや否やすぐに駆け付けた。


 「シアハさんですね。私は、イリスと申します。ラニウリ様から至急の健康診断を進められています。」


 「健康診断?」


 「そうです。ちょっと耳いいですか。」


 そう言って、彼女は周りに聞かれたくないようなことを話さなければならいと感じ取ったが、ここで聞かれたくないことなんて一つだろう。それを感じつつ、ちょっと背伸びをする。彼女のほうが背が高いから。


 「ラニウリさんから聞いています。ノードに掛かっているのがばれるのまずいですからね。あくまで、怪我したということで」


 「わかりました。」


 「では、手の怪我がひどいということでこちらへ」


 彼女に案内されて、上の階まで行く。結構清掃が行き届いていてきれいな印象が見て取れる。みんな、忙しそうにしているのは研究棟だけではないのだろう。特にここは人の命が関わる大事なところではある。それだけ、みんな一日を大事に生きているはず。これを守る手段が消えてしまったら、ここも終わりになってしまう。いっそのこと、結界装置のことが重要に感じられて心が重くなる。


 「シアハさん、どこか具合が悪いのでしょうか」


 うつむいたまま考えていたのか、看護師さんに心配されてしまう。そんなに顔に出ていたのか。心配させまいと取り繕う。


 「気にしないでいいですので、ちょっと考えていただけです。」


 「そうですか。あまり考えすぎることは時には毒になります。」


 そう言いながら、頭をなでなでされる。最近、子供のような扱いを受けるのはなかったから新鮮な気持ちであると同時に、ちょっと子供と同じような感じがして嫌にもなる。だが、確かに考えすぎはよくないし、なでられるのは悪くないけどね。


 「早く行きましょう。ラニウリさんを待たせてしまいます」


 「そうですね~。」


 ちょっと、抵抗するとすぐにやめてくれた。もう、三階まで来て、軽く廊下を歩いたところの診察室のような場所に入っていった。扉を開けると、ラニウリさんが書類と向き合いながら待っていた。


 「失礼します。」

 

 「失礼します。ラニウリ様、シアハさんを連れてきました。」


 ラニウリさんは作業中のものを置いてこちらに来る。何処かニコニコでこちらによってきた。机の上には大量の書類があり、忙しいのはどこも変わらなさそうというか大変どころの騒ぎではなさそうだった。それに、部屋も片付いていなく、山積みになった箱が隅のほうでほこりをかぶっている。


 「シアハさん、午前中ぶりですね。」


 そう言いながら、イリスさんのほうをちらりと目配せをする。イリスさんはすでに扉の外にいて一礼して去っていった。その後、ラニウリさんが扉を閉めて、こちらに来る。


 「話はイリスから聞いていると思いますんで。取りえず、座ってください」


 そう言って、備え付けれていたベッドのほうに指をさしてくる。私はおとなしくベッドのほうに行き指示に従う。


 「そうですねまずは、一度問診から始めましょうか。最近、どこか体調が悪いところがありますか。正直に言ってくださいね~。」


 「最近は、えと...寝つきが悪くて、それが」


 言葉が詰まってしまう。ラニウリさんは実際には遠征に行っていないはずだが聞いてはいるはずだ。そこで何が起こったのか、なぜ私とルスベリー先輩だけが生き残ったのかはおそらく団長あたりから聞いているはず。夜になると考えてしまう。意味もあまりないのにだ。


 「やっぱりルスベリーの勘はよく当たりますね~。シアハさん隈がひどいですよ。」


 「え!」


 ラニウリさんは手鏡を机の上から持ち出して、こちらに見せてくる。いつもの私の顔が映っていると思ったのだが、ちょっと隈があるくらいでそんなにひどいと感じることはなかった。なぜなら、あの日の時はもっとひどかったからだ。ただ、体調が悪いのが隈のせいならどうしようもない。寝られないのが悪いんだから。


 そんな考えがめぐっているときに、ラニウリさんは突然私を抱擁してくれた。その温かさは芯まで伝わるようだった。体から発せられる不安や動揺、後悔に対する特攻を持っているかのような感覚に見舞われる。


 「大丈夫です。すべてあなたのせいではないのですから」


 ゆったりとした時間に心を奪われつつ、体からの危険信号が減るような、現実から見えない何かを払拭するような。そんな時間は十秒ほど続き、離れてくれた。


 「どうですか。落ち着きましたか」


 「はい...あの、看護師さんにも言われたんですけど考えすぎるときがあるって。考え込むのはよくないって。そう言われたんですけど。どうしたらいいかわからなくて」


 こんなこと今言うべきではないのはわかっている。だが、どうも腑に落ちない。考えて、考え抜いた先にきっと解決策があるはずと思っている。いや、そう願っているのかもしれない。

 突然、うつむいて、考えて、天を見上げる私にゆっくりと話しかけてくれる。


 「どうですか。考えは落ち着きましたか。」


 ゆっくりと話を進める。落ち着いて、感じていることや思っていることを吐き出す。ただ、次に進むために一度休憩をとるように。

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